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日常

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沖縄出張は波乱の予感。
何が起きるか分からないので準備は怠らない。
上司のお守も世話が焼ける。
それから船がなあ……

午後は彼女の服を見ることに。
一緒にお買い物。
デート気分を味わう。こんな言い方変だよな。
しかしデートって言うのは男女が二人で出かけることだから。
少なくても電車に乗るかドライブするか。子供でもあるまいし。
今回は駅前の商店街でぶらぶら。

彼女はなかなか自分では決められない性格。
いつも俺にどっちがいいか聞いて来る。
「こっちの方がお洒落だと思うよ。でもセクシーさを選ぶなら左かな」
きっと俺の為にきれいに着飾ってるのだろう。
うん可愛いじゃないか。いつもの不機嫌が改善されている。

「よし着替えさせてやるよ」
つい調子に乗ってとんでもないことを。後で考えればバカみたいだと感じるが。
しかし興奮した状態では冷静な判断は出来ない。ただの非常識ではあるものの。
嫌がる彼女の服を無理矢理脱がす。
ははは…… 大丈夫だって心配ない。ここには女性しかいない。
それに試着室だから誰にも見られようがない。
だからと言って隠れてイチャイチャする気はないが。
他人の目もある。彼女はまだ良いが俺が白い目で見られる。

「そろそろ決めようよ」
それでもまだ迷い続ける彼女。
どうも決め手に欠けるらしい。
お洒落で可愛らしいのがいいのか? 大人っぽくてセクシーな感じがいいのか?
どっちも彼女にはお似合いだから困ってしまう。
これはもう色で決めよう。
情熱の赤。左のセクシーで行こう。
これを着て沖縄を満喫する妄想が膨らむ。だがもちろんそうはならない。
沖縄へはビジネスだから彼女を連れて行けない。
二泊三日の沖縄旅行は彼女とではなく上司と楽しむしかなさそうだ。
ビジネス。ビジネス。
危うく目的を見失いバカンスを夢見てしまった。

「帰ろうか。疲れたよ」
つい泣き言を言ってしまう。
ふふふ……
これはどっちだ? まだ居たいのかもしれないな。
俺に遠慮して好きなのを買うのを躊躇ってるようにも見える。
それだけはやめて欲しい。俺は自分の好きなものを買う。
だから彼女だって俺に遠慮せず好きなものを買って欲しい。
ふふふ……
やはり疲れてる感じがする。
まだ本調子ではないようだ。
ここは俺が気をつけてやるしかない。

「こんにちは」
買い物の時によく見かけるおばさん。
今日は子供を連れている。
いくつだろう? 随分大きく見えるけど。
手を繋いでるようだし三年生ぐらいか?
「どうも」
「これウチの子なんですよ」
旦那さんがスポーツ選手だったとかでかなり恵まれた体格。
四年生だそうだ。
うーん。こういう時はやはり求めてるよな。
「すごく大きい…… いえ可愛いですね」
ほほほ……
満更でもない様子。名前を聞くのを忘れた。
まあいいか。どうせ興味ないし。
「どうしたんだい? 」
彼女は一度も話に入ろうとしなかった。
俺は彼女のことをよく知ってるのでこれでいいと思ってる。
でも人前でこれ以上無口を通すのは限界がある。
それともまだ体調が優れないのか?

にゃああ!
いきなり猫が乱入。恐怖で一歩も動けない彼女を抱き寄せる。
危ない危ない。大の猫嫌いの彼女が震えている。
幼い頃に噛まれそのまま引きずらたのがトラウマ。
それ以来近づいたり触ったりがダメらしい。
近づくだけで発作が起きると冗談にならない。
大丈夫だって。危害を加えないさきっと。
抱きしめて落ち着かせる。
猫も暇じゃない。すぐに姿を消した。

「どこに行ったの? 」
おばさんが息を切らして何事か喚いている。
今度は犬が脱走したらしい。
「大丈夫です。すぐに見つかりますよ」
困ったおばさん。俺も彼女ももう大人だからいいが小さい子がいたらパニックに。
大型犬でないのがせめてもの救い。中型犬はすぐに確保。無事に飼い主の元へ。

「さあもう行こう。危ないよ」
彼女の苦手な猫に犬の脱走とトラブルに見舞われている。
駅前の総菜屋で夕飯を買い帰宅。
ああ、まずい。歯ブラシセットを買い忘れた。
ついお近くのドラックストア―に寄るのを忘れていた。
まあいいか。どうせホテルにあるよな。
こうして夕食を一緒にしてから別れ前の家に戻る。

まだ通いの状態が続いてる。
さあ早く寝るとするか。明日も早い。
おやすみなさい。
別居してる彼女の方角に挨拶。
寂しくないさ。もう慣れっ子だ。

                  続く
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