永遠のトナラー 消えた彼女の行方と疑惑の隣人

二廻歩

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まさかの再会

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「引っ越しの挨拶に参りました」
後の家には人が住んでいるようなので確認の意味を込めて。

ドンドン
ドンドン
「ああん? うるさいなまったく! 」
機嫌がすこぶる悪い爺が姿を見せる。
「引っ越しの挨拶に参りました。どうぞよろしく」
大声で元気よく。最初が肝心だと言うしね。

「ああ、あんたか。色々大変だったね。儂も気にしていたんだ」
ちょっと癖のあるなタバコの臭いが脳を刺激する。
「あれあなたはまさか…… 」
見覚えがある顔。どこかで会った気がする。しかもごく最近だ。
爺の知り合いなどいただろうか?

「それで何の用じゃ? 」
先月この家を紹介してもらったお爺さん。
「ああ! ここにお住まいだったんですか? 」
まさか自分の後の家を紹介するとは相当気に入られたか?
「おおそうだよ。それで何の用かの? 」
この人には引っ越しの挨拶が分からないのだろうか?
「引っ越し? 挨拶? はて何のことやら? 」
混乱気味のお爺さん。どうも様子がおかしい。
まさかボケてしまったか?
いや違う。俺をからかってるだけだろう。まったくお茶目な爺さんだ。
一応はここを紹介してくれた恩人だから付き合ってやるか。

「まあ何でもいいけどあそこの家みたいにだけはしないでくれよ」
爺の言うあそことは悪臭漂うブラックリストの家。
俺も酷い目に遭わされている。
もう臭いは大したことないがご近所が大変な思いしたのは間違いない。
「あそこの家は? 」
「ああ強制退去させられたよ。まったくなっとらん近頃の若者は! 」
代わりに説教が始まりそうなので退散することに。

「お邪魔しました! また今度」
「ああ紹介した甲斐があったよ。でも本当に良かったのか不安でな」
シャイなお爺さんは引っ越しの品を受け取らずに手を振る。
困ったな…… これではせっかく用意した品が無駄になる。
やはりそうめんは定番過ぎるのかな? 夏バテしそうだもんな。
さあ戻るとするか。

新築同然にリノベーションされたマイホーム。
うんクリーム色が心を落ち着かせてくれる。
鍵を差し込む。
ガチャっと音がする。
初めての開錠。
ガチャ
ガチャ
何度か開け閉めを繰り返す。
無駄なことしてるなと思うがこれもいい思い出。
少々浮かれてると自分でも自覚してるつもり。

「ただいま」
寂しそうな彼女の姿があった。
なぜか暗い。無言の奥さん。
どうしたのだろう? 変なスイッチが入ったのかな?
いつものようにお帰りと言ってくれない。
「ただいま。後ろのお家に挨拶行ったんだ。そしたら何とあの爺さんだったんだ。
いや驚いた。まさか自分の家の後を紹介するなんてさ。
きっと俺は気に入られてるんだよ。たぶんね」
だがうんともすんとも言わない。
「ごめんよ。自分だけ浮かれてさ」
仕方なくボディータッチでコミュニケーションを図る。
これは奥さんが機嫌が良い時に取るもの。間違っても興奮状態では控える。
うん? 臭いな。どうもシンナー臭い。
「吸った? 塗った? 」
首を振るだけで全然返事をしてくれない。
まさか照れてるのかなあ?
「どうしたんだよ? まさか喋れないのか? 」
そんなはずないが疑いが濃くなる。

「よし食事にしよう」
「うん」
機嫌を直してくれたのかようやく返事をしてくれた。
まったく照れてまあ。
この後は一緒にお風呂に入る予定。
うん? そうだガスがまだだった。電気は点くからいいんだが。
ガスはいつになるか分からない。
仕方がない。これはもう銭湯に行くしかないな。

                  続く
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