永遠のトナラー 消えた彼女の行方と疑惑の隣人

二廻歩

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風の強い日にはご注意

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『永遠のトナラー 』

その日は大変風の強い日であった。
一歩外に出ればたちまち帽子がどこかへ消え失せる。
緩くなった看板や秋の大型台風で脆くなった屋根瓦が落下してもおかしくないほど。
決してお出掛けには適さない春の日。
そんな日はお近くのショッピングモールで買い物でも。
それが賢い大人の過ごし方。

「オーライ! オーライ! ストップ! 」
五百台以上駐車可能な大型ショッピングモール。
土日は人も多く駅からも遠いとあってほとんどが車。
決して駅から歩けない距離と言う訳でもないが二キロはある。
やはり子連れでは車一択。
ただ最寄りの駅から一時間に一本無料のバスが出ている。
二十分に一本ぐらいにして利便性が向上しないと電車で来ることはなさそうだ。
もちろん十五分に一本の有料バスがある。
片道二百円だったが…… 今年から五十円値上がりし二百五十円に。
これでは電車客は見込めそうにない。
それでも土日祝日は大勢の子連れや学生が集まり賑わいを見せている。
ただ平日は閑散としている。いるとすればお年寄りが関の山。

ゴールデンウイークが去りいつもの静けさが戻ってきた。
ごみごみしてなくて快適なのは間違いない。
適当に歩いても怖い人にも小さなお子様にも当たる心配がない。
平謝りしなくていいのだから気持ちが楽だ。
まるで王様にでもなったような気分。
ただこれで本当にやって行けるのか心配になる。
良いんだか悪いんだか。
自分には関係ないことだけど気になって仕方がない。

「ねえカス君。風が強いよ」
そう俺の名前はカス君…… そんなはずあるか!
名前だろうと名字だろうとあり得ないだろう?
これは彼女が面白がってつけたあだ名って奴だ。
本名はちょっと…… 個人情報だからね。
俺は嫌だと言うのにずっとカス君って呼ぶから慣れてしまった。
まあこれくらいどってことない。
「ははは…… 大丈夫だって! 」
彼女の運転する車でお買い物。
爽やかな青のスポーツカータイプ。
今日はゴールデンウイークの代休を取り彼女とのんびり過ごす予定。
「気をつけてね。風が強いから当たっちゃう」
心配症な彼女。俺は小学生かよ。どうも心配性なんだよな。

ゴン!
「うわああ! やっちまった! 」
気をつけていても強風の勢いは自分ではどうすることも出来ずお隣さんに直撃。
「言ったじゃない! とろいんだからカス君は」
酷い言われよう。言い訳ぐらいさせてくれよ。
「待ってくれ! 俺はゆっくり開けたんだ。でも風が強すぎて当たっちまった」
機嫌が悪くなる前に誠心誠意謝る。そうすれば優しい彼女は許してくれる。
「もうしょうがないんだからカス君は」
「でもさあこんなに広いのに何でここ? そもそもそれが原因で…… 」
「何か言った? 」
聞こえてるはずだが都合が悪くなるとこれだ。おっかないね。
風を気にせず開けた俺も悪いがなぜか意味不明にくっつける方にも問題がある。

「いいから謝って来て! 」
そう言われれば従うしかない。
嫌だな…… 怖そうな人だったらどうしよう。
下手したら恨まれるか脅迫されるか。勢い余って傷害事件に発展するか。
謝罪は苦手じゃないけれど休暇中の身。いつものようにヘコヘコしたくない。

「あの…… 」
当然だが誰も乗っていない。
そうだよな。そんな意味不明な奴いないよな。
お隣さんはショッピング中だ。
何だ緊張して損した。ばれないなこれは。
「大丈夫居ないよ。心配するなって」
「本当に? 」
「気にするなよ」
外から覗くが運転席にも助手席にも人の姿は見えない。
だから確実ではないが……
よく確かめもせずにいい加減に答える。

人影が動いた気も…… 

「あっそ。なら移動しようかな」
大丈夫と分かって機嫌が良くなった。
ゴツンと音はしたが大して傷もついてない。
塗料が剥げたくらい大したことじゃない。
さあ逃亡しますか。
少々罪悪感があるがこれもすべて強風の影響。
自然現象では誰も罪には問えない。

「よし遠くに行こうぜ! 気づかれたらまずいしな」
「カス君は先に行って。またぶつけられても困るし」
人を何だと思ってるんだろう? まさかただのカスだと思ってないよな?
いくら俺が器用でも隣に車がなければぶつけられない。
何となく背中に視線を感じた。気のせいだとは思うけど。まさかね……

せっかくの平和な一日が崩れて行く。そんな予感がする。

                   続く
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