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山田さんはダイイングメッセージに疑問を呈した。
「私を追い詰めるには足りないのでは? 」
「ならばその血文字を鑑定すればいい。決定的証拠になる」
「はいはい。でも今はまだ分かりませんよね。まだ私が犯人と決まった訳ではない。
決定的証拠もないようですし部屋に戻らせて頂きます。私も忙しいものですから」
まずい。ここで言い逃れするとは想定外。今すぐ認めさせなければ黒木が危ない。
最後のターゲットは黒木に違いないのだから。
どうする? どうすればいい?

「分かりました。決定的な証拠にはなり得なかったと深く反省しています。
ですがあなたは他の殺人を否定しました。ですからその証言を覆せばいいのかと」
ダイイングメッセージだけでは山田さんを真犯人と断定出来ない。
次の手を打つ。
「おいおい探偵さん。まるで私が嘘を吐いてるみたいじゃないか。不愉快だ! 」
山田さんは追及をかわすのに必死。とにかくこの場から離れたいのだろう。
だが今すぐにでも口を割ってもらわなくては困る。逃がしてなるものか。
「逃げるつもりですか山田さん? それは私の話を聞いてからでも遅くはない」
挑発する。
「そんな手に乗るものか…… ふん勝手にしろ! 」
どう言う心境の変化なのか留まる。
興味が湧いたからではなく恐らく罪悪感からだろう。

「では再現しますので私は山田さんを千田さんの役は龍牙さんにお願いします」
「ええ私? 」
この中で一番被害者に近いのは彼だ。演技とは言え怯え震えていた。
黒木でも良いが龍牙さんが適任だろう。

三〇九号室。千田の部屋。
一度部屋を出てから龍牙に鍵を掛けてもって準備完了。
念の為に隣の部屋でマジシャンに待機してもらう。

ドンドン
ドンドン
「こんな時間に何だ…… 」
龍牙にはなるべく横柄に振る舞ってもらう。その方が千田の雰囲気が出るから。
だがまだ慣れてないのか声が裏返ってしまう。
「お困りのことはありませんか? 」
「ええガイドさん? 」
「はい。電球が切れかかってると言ってましたが大丈夫でしょうか? 」
ガイドさんが一番手。
「眠いし。ドアを開けるのも嫌なんだ。明日にしてくれないかな」
ガイドさんでは突然の訪問は無理。

「あの探偵さん…… 」
混乱する龍牙。無理もないか。ガイドさんたちには適当に演じてもらう。
「ああドアを開けないで。殺されますよ」
再現だと言ってるのにドアを開けてしまっては興ざめ。

「あーあんたね。ここちょっと開けてくれないかい! 」
続いて小駒さん。真夜中なのに大声を出す。リアリティーのカケラもない。
一応は再現なんですけど。
「どうしたんだ婆さん? 俺は眠いんだ! 早く帰ってくれよ」
おおようやくコツを掴んできたな。
「何を! 副会長に推してやったのは誰だと思ってるんだい! 」
 ダメだこれは。小駒さんが暴走する。
まあどっちみちこれでは開けてはもらえないだろうが。

ドンドン
ドンドン
「おい俺だ。黒木だ! ちょっと話がある。開けてくれないか」
黒木の迫真の演技。被害者を恫喝するのが板についている。
これでは千田も…… 怖がって出て来やしない。
「おい開けろ! 話しがあるって言ってるだろ! 」
黒木は開けるまで粘るが騒ぎ立てるので不適切。
千田はこの頃にはもう誰も信じられなくなっているはず。
ガイドさんも探偵も仲間さえも。

「夜分に申し訳ありません。見回り中でしてドアを開けてくれませんか? 」
相棒には私の役をやってもらう。
紙に書いたものを読ませているだけだがどうもやる気が感じられない。
「はあふざけんな! 開ける訳ないだろ! 」
「そこを頼むよ。僕も眠いんだ…… 」
相棒は大欠伸をして退場。

ラストは山田さん。
トントン
トントン
「ああん? こんな夜中に何だよ! 」
いいぞ。態度の悪い千田の役が馴染んできた。
「あの山田です。お話があるんですが」
「ああ助かった! 入ってくれよ! 」
こうして山田さんは千田の部屋に招き入れられる。

「ちょっと待った! 」
山田さんより前に小駒さんと黒木に止めれられる。
良いコンビネーションだ。いがみ合ってるとは到底思えない。
「おい探偵さんよ。何で千田の奴がこの得体のしれない奴を招き入れるんだよ? 
ミサの件と言いまったく理解できないぜ」
「そうだよ。私だって納得できないね! 」
「まあまあ二人とも。山田さんはどう考えますか? 」
「はあ…… やはり無理があるのでは。私もあり得ないかと」
「それはどうして? 」
「夜中に誰だか分からない者を入れる奇特な人はいないでしょう。
事件が連続してるんですよ。初日ならまだしも三人殺された後ではあり得ないこと」
「果たして本当にそうでしょうか?
この事件が連続殺人なら完璧なアリバイのある山田さんは唯一信用のできる存在」
おおお!
観衆は唸る。

「それは確かにそうかもしれないね。私が同じ立場だったら招き入れるかもね」
「まあ確かにそれなら…… 」
騒がしい二人を黙らせる。

                  続く
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