上 下
98 / 122

部屋割りの謎 

しおりを挟む
黒木は罪に問わないことを条件に協力した。
まったく何て図々しいのか。
この条件を呑まなければ黒木は沈黙を貫くだろう。
今さら海老沢氏の人隣りを聞いても意味ないが生前の彼を知るのは黒木しかいない。

「前にも言ったが俺らには依頼人がいる。そもそも依頼人がいなければ始まらない。
その依頼主がこの海老沢って爺さんだ。
俺たちは奴の命令で泣く泣く詐欺を働いた。
ガラクタを売りさばくように強要したのも奴だ。
俺たちはそのお礼として幾ばくかのお金を得ていた訳だがそれも微々たるものさ。
奴はケチでケチで。俺たちのことを奴隷か何かと考えていたんだろう。
口車に乗って色々悪いことをした。結局俺たちは踊らされていたのさ。
奴が作ったマニュアル通りに動いていただけなんだからな。
犯罪被害者のメンバーが恨んでいるのも無理はない。俺たちだって嫌だった。
殺されて当然な人間さ海老沢は。だが仲間は違う。俺たちは何も悪くない。
俺はいつだって被害者に寄り添うつもりだ」

何て白々しいことを。今さら改心しても遅い。いやこれはしてる振り。
本心ではない。いい加減己の罪と向き合え。
罪から逃れることは決して出来ないのだから。

「では海老沢さんは詐欺グループでは依頼する立場だったと? 」
もはや死人に口なし。適当に言っても分かりはしない。
そのことをよく理解してるから海老沢氏にすべての罪を擦り付けている。
「ああ俺たちはただの下っ端さ。言われるまま動いただけ。
お前らだってそうだろ? 言われるまま会社の言いなり。
情けないが刃向かう力はない」
同情してもらおうとあらゆる手を使う。
ただ私は探偵なのでその常識は通用しない。
他の者は説得されそうになるが…… 一体いつまでふざける気だ?

黒木を見てるだけで腹が立つ。下っ端? そんなはずがないだろ。
お前が被害者を脅したんだろ? それが仮に海老沢の指示だとしても良くて共犯さ。
信じられるか? 信じられるはずがない。
説得力のカケラもない。ただのいい訳であり責任転嫁でしかない。
そうやって空気を吸うように嘘を吐き被害者を騙し地獄に落としてきた。
黒木の言葉を真に受けてはいけない。
もうつまらない言い訳は聞きたくない。話を戻すことにする。

「ではまず海老沢さんが三〇一号室へ」
殺されるとも知らずに真犯人の用意した檻へ。
「それでは黒木さんに聞きます。なぜ皆さんバラバラの部屋に? 」
海老沢は一号室、ミサさんは三号室、黒木はなぜか四号室、雑見は七号室。
千田は九号室。見事にバラバラ。これは偶然と言うよりも示し合わせたに違いない。
「もちろん仲間だって知られると後の仕事に差し支えるからな。
ジュエリー販売までは他人の振りさ。その後はまあ密かに集まったりしてたな」

「そうですか。ではなぜあなただけミサさんの隣の部屋へ? 」
彼だけがミサさんの隣の部屋を選んだ。
はっきり言えば彼がそんなことをしなければ目立つこともなかった。
もはや意味不明の行動を取るお茶目な黒木?
「それは何だ…… 俺たちは愛し合ってるからさ」
恥ずかしげもなく言い放つ。ただの不倫関係のはずだが。
好きにすればいいが時と場合がある。

「まあいいでしょう。それで二人以外はバラバラに散らばったと」
「ああ別に大したことでもないがこれも念のためって奴だ」
黒木の指示らしい。そのくせ自分は守らないのだから矛盾してる。
間抜けとしか言えない黒木の行動が事件を複雑化させる。
それにはもう一組似たような者たちの存在も大きく関わっている。

「では小駒さんたち犯罪被害者の会の方はどうしてこのような部屋割りに? 」
「ああそれはやっぱり黒木たちに悟られたくないからさ。
だがそれも取り越し苦労だったみたいだね。奴ら騙した人間を覚えていなかった。
バスに乗って気づいた時は心臓がどきどきしたもんだ」
突然の再会に彼らも手を打った。全員がバラバラに。
偶然にも二つのグループが同じ思考の元で動いた。

果たしてこれは偶然なのか?
そうするように仕組まれていたとしか思えない。
小駒さんたちもバラバラ。
ただ龍牙と奈良がくっついたせいでそれもおかしくなった。
ただこれくらいのイレギュラーがあった方が自然。
詐欺グループも犯罪被害者の会も真犯人の思惑通りバラバラに。

こうして第一関門を突破した。

                 続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彩霞堂

綾瀬 りょう
ミステリー
無くした記憶がたどり着く喫茶店「彩霞堂」。 記憶を無くした一人の少女がたどりつき、店主との会話で消し去りたかった記憶を思い出す。 以前ネットにも出していたことがある作品です。 高校時代に描いて、とても思い入れがあります!! 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 三部作予定なので、そこまで書ききれるよう、頑張りたいです!!!!

瞳に潜む村

山口テトラ
ミステリー
人口千五百人以下の三角村。 過去に様々な事故、事件が起きた村にはやはり何かしらの祟りという名の呪いは存在するのかも知れない。 この村で起きた奇妙な事件を記憶喪失の青年、桜は遭遇して自分の記憶と対峙するのだった。

橋まで

折原ノエル
ミステリー
 橋に間に合って。  私は、彼女を救えるか?

家電ミステリー(イエミス)

ぷりん川ぷり之介
ミステリー
家にある家電をテーマにいろいろな小話を作りました。 イヤミスと間違えて見に来てくれる人がいるかなと思い、家電ミステリー、略して“イエミス”というタイトルをつけました。厳密にいえば、略したら“カミス”なのかもしれませんが大目に見てください。ネタ切れして、今や家電ミステリーですらありませんが、そこも大目に見てください。 あと、ミステリーと書いてますが、ミステリーでもホラーでもなく単なるホラ話です。

探偵SS【ミステリーギャグ短編集】

原田一耕一
ミステリー
探偵、刑事、犯人たちを描くギャグサスペンスショート集 投稿漫画に「探偵まんが」も投稿中

処理中です...