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一芝居

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三○四号室。黒木の部屋。
今回犯人が黒木の部屋に侵入する為に危険を冒すと踏み一芝居打つことに。
小駒さんの自然な演技で犯人の手に鍵が渡る。
侵入には必要不可欠な鍵を手に入れた犯人は黒木の部屋へ。
「それで何でこんなことしたんだい探偵さん? 」
小駒さんはまだ合点がいってないらしい。
それはないよ。事前にしっかり説明したんだけどな。

「では真犯人を前にですが今夜のことをおさらいします。
まず犯人にあらかじめ当たりをつけていた我々は小駒さんの協力を得て…… 」
「我々とは? そこから説明しなよ」
「我々とは私と相棒、それから小駒さんを含めた者たち」
いちいち細かいところまで指摘するから時間が掛る。誰か黙らせてくれないかな。

「そろそろ俺の出番か。まったく何しやがるんだよこの探偵はよ! 」
姿を見せたのは黒木だった。
「ひえええ! お鎮まりたまえ! お鎮まりたまえ! 」
「誰が幽霊だよ婆さん? 俺に恨みがあったようだけどな」
「あんたがうちの子を追い込んだんだろ? この人でなしが! 」
「知るかよ! よくある話じゃねえか。ただの美人局だろうが。
お宅の息子だか主人だかが引っかかるのが悪い。知ったこっちゃない! 」
黒木は罪の意識が希薄なのだろう。平気で被害者の感情を逆撫でする。
「騙された方が悪いってのかい? 」
「いや何もそこまで咎めてない。女に騙され地獄を見るのは人間の性ってもんだ。
それを恨んでどうする? 」
黒木のせいで余計混乱する。下がってもらうことに。

「それでどこまで話したっけ探偵さん? 」
「小駒さん。あなたが鍵を失くしたところまでですよ」
まだ始まったばかり。序盤の序盤。
このままの進み具合では日が明ける。普通日が暮れるが正しいんだが。
しかし黒木の奴余計なことをベラベラと。
二人含め基本的にここの奴らはほぼ言うことを聞かないからな。頭が痛い。
小駒さんと黒木じゃ水と油だ。
実際何も気にせずに油を注ぐ困った男。それが黒木だ。

「話を戻します。小駒さんの協力で鍵を落としてもらいます。
そうすると犯人はこれ幸いとその鍵で侵入」
「ちょっと待ってください。それで開きますか? 」
真打登場。ガイドさんだ。彼女には敢えて知らない振りをしてもらっている。
うんそれでいい。後は彼女に合わせて反論すればいい。
「はい。これで黒木さんの部屋の鍵が開くんです。
何と言っても封印してあった三号室の鍵ですから」
「はああ…… 」
納得してないようだ。まだ詳しく説明してないところもあるからな。
完全には理解してないのだろう。

「この話はもう少し後で詳しく説明します。
今は今夜の出来事を順に振り返ることにしましょう」
まずは今夜のことから。脱線はしない。
「もし鍵がなければ無理矢理押し入る気だったはずです。でもどうやって?
四号室は黒木が寝ていて招かれることはない。鍵がなければどうにもなりません。
そこで浮かんでくるのは保管室にあるマスターキーの存在。ガイドさんが管理。
そうなったら最悪ガイドさんに危険が及ぶ。
だからそうなる前に小駒さんに落としてもらった。
小駒さんは被害者の会のメンバーですから疑いはしなかった。
それから黒木さん。彼にはお隣に移ってもらうつもりでした。
もちろん犯人が侵入するまでに準備を進めます」

「鍵を手に入れた犯人は計画通り正面から中へ入ります。
もちろん遠回りして三号室から入るパターンも。
その時は時間を稼ぎ黒木さんには隠れてもらう。まあ実際には起きませんでしたが。
犯人の心理からもあり得ないこと。
どちらがより安全に遂行できるかを考えれば直接黒木の部屋に行った方がいい。
秘密の抜け穴を使用するにはリスクがあります。
その点熟睡してる限りは堂々と入口から侵入する方が気付かれる可能性が低い。
犯人も最後ですので入る時に警戒すればいい。入ってしまえばもう殺害するだけ」

「黒木さんはターゲットですからそのまま置いておけません。
寝るのを確認し犯人が決行する前に先に連れて行った次第です」
「だからどこから? ドアからじゃ目立ってしょうがないだろ? 」
小駒さんは鋭い。いや黙って欲しいところで口を出してしまう。癖になっている。
「もちろん秘密の扉から」
「何だって! 」
「まあ落ち着いて。秘密の扉の話はまた後にして続けます」
困ったなあ。脱線ばかりでいつまで経っても話が進まない。

                  続く
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