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先生の行方

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「いやあ悪かったね。愛想のない奴で」
ドライバーは上機嫌。鼻歌を歌っている。
「いえそんな。あの人は何者ですか? 」
「さあな。実は俺もよく知らないんだ。自分のことを喋りたがらない。
まあそう言う奴もたまにいるだろ? だから気にするな」
励まされても困る。ただ何となく人には言えない秘密を抱えてる気がする。
悩んでいる? 苦しんでいる?

「あの…… 今ドスグロ山では何が起きてるんですか? 」
「うわあ! 手が滑った」
笑いながらとんでもないことを言うドライバー。
大丈夫かなあこの人?
「そうそう。ドスグロ山ね。あそこは今大変な騒ぎになってるらしいね」
「具体的にはどのような状況ですか? 」
つい気になってしまう。僕も先生に劣らず事件の匂いが好きらしい。
まあ先生の場合現場には辿り着けないんだけどね。
ある意味特殊能力の持ち主とも言えるかな。
もしかしたらスペックホルダー?

「具体的に? さあ俺にもちょっと…… 」
「お願いします! ドスグロ山では一体何が? 」
「ううん? ごめんまた滑っちゃった」
急ハンドルを切る。
話す気がないのかただ下手なのか?
出来れば前者であって欲しい。
さっきまではそんなことなかったのになぜ山道を降りたら運転が荒くなるんだ?
「お願いしますよ! 興味があるんです」
「もう分かったって。だったら大人しく最後まで聞けよ? 」
どうやら隠そうとしていたらしい。困った人だ。

「薄曇り山で事件があったろ? 」
「よくご存じで。当主の旦那様が殺害されました」
「まあな。ここは長閑な村だからな。噂はすぐに広まるのさ。特に悪い噂はね。
いつもは事件なんか起きないんだ。絶体に言い触らすなよ。
凶悪事件が頻発なんて噂が立ったら俺たちの村はやっていけなくなる。誓うな? 」
他言無用だそうだ。まあ僕も探偵の助手。それくらいのことは心得ている。

「ドスグロ山のホテルで数日前に殺人事件が発生した。
犯人はまだ捕まっていない。ただ道が塞がってる以上犯人も逃げられない。
だから犯人も恐らくホテルに閉じ込められてる。
俺たちは警察の要請を受けドスグロ山に向かった。
だが結局今日も土砂崩れの影響で動けず待機。
警察としてもどうすることもできずに指を咥えて待つ他ない。

「ヘリは? 」
「そのヘリが雷と強風でストップ。許可が下りない状況。
下りたと思ったら薄曇り山に急行。そっちにも遺体の搬送等があるからな。
戻ってさあ行くぞってなった時にストップがかかる悪循環。
これはたぶん閉じ込められた奴の中に罰当たりか運の悪い奴がいたんだろう。
天候が回復次第向かうようだが現実的ではない」

「はあ。だったら歩いて向かうのは? 」
「いやそれも無理だ。道が塞がっている」
「でも別ルートを登ればいいのでは? 」
思いついたことをさも専門家のように知ったかぶる。
「歩きも無理だろう。別ルートは命がけ。一歩間違えればあの世行きだ。
だからここは大人しく車でが正解。
ただ今日も結局中止。
明日の朝には収まる予想。もう明日まで待つしかないさ」

「それで状況は? 」
「ああ、お前本当に信用できるのか? 」
「はい。何と言っても探偵の助手ですからね他の方よりはマシかと」
ついに身元を明かす。
本来探偵や助手が身元を明かすのはご法度。
危険が及ぶ恐れがあるからだ。
しかし今は事件現場に来てるのではない。
正直に身元を明かすのが協力と信頼を得るための近道。

「そうか探偵の助手ね。うん…… だったら知り合いか? 」
どうも彼が何を言ってるの分からない。
「いるんだよ。事件を解決しようと奮闘してる探偵が」
男は目をきらめかせる。
「はあ、もしかして先生のことですか? 」
「先生? ああ明後日探偵とか言うふざけた奴さ」
うわ…… 先生のことだ。行方不明だったのでもしやとは思っていた。
だがまさかドスグロ山に迷い込んでいたとはうーん言葉にならない。
「知り合いか? 」
「はい先生です。でもおかしいな。もう一人居るんだけど」
「何でもいいからその探偵が今ドスグロ山の難事件に挑んでいる」

車が旅館の前でストップ。
「ありがとうございました」
「明朝にドスグロ山に行く。せっかくだからお前もどうだ? 」
「はいよろしくお願いします」
ようやく先生たちの消息が掴めた。
もう心配させて。困った先生たち。
さあ待っていてくださいよ。お迎えに上がりますからね。

                  続く
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