79 / 122
ドスグロ山
しおりを挟む
三〇六号室。第三の被害者、雑見の部屋。
小駒さんの協力を得てダイイングメッセージの謎に挑む。
「うーん。これ掠れてないかい? 」
『ドスグロ山』の後に何か書こうとしたような跡が。
「最後まで書こうとした? 」
「どうだろう。だったら『の』だけど縦棒は変じゃないか」
「書こうとして絶命したので下に流れたとか? 」
「そうかもしれないけどこれはどちらかと言えば縦棒を書こうとしたんだと思うよ」
「縦棒? 」
「ああローマ数字でない限りね。『ドスグロ山1』はおかしいだろ。意味不明だし。
だったら漢字を書こうとしたんじゃないかい」
「漢字ですか。うーん良く分からないな」
どうにか話について行ってるが小駒さんには先に先に進もうとする悪い癖がある。
もう少し丁寧に分かりやすく話してくれると助かる。
「私だって意味不明さ。あの男は何だって? 」
相棒の見立てに興味を示した。
「それは聞かない方が良いですよ。後悔します」
「いいから奴の見解を教えな! 」
「十回繰り返せと」
「はあ? 大丈夫かいあの男? 」
「それは元からですから。お気になさらずに」
『ドスグロ山』を十回ほど繰り返したがただ顔を赤らめただけだった。
相棒の悪ふざけを真に受けては馬鹿を見ることになる。
ここは直接相棒に真意を確かめるのが良いだろう。
さっきから血文字を見て唸るを繰り返す小駒さん。
まあそれも仕方ないこと。そんなに簡単に分かるはずがない。
探偵でも閃かないものをたかがミステリーマニアのお婆さんでは荷が重すぎる。
いくら年の功でも限界がある。それに彼女が真犯人なら絶対に解けるはずがない。
「ではダイイングメッセージはこれくらいで…… 」
「待ちな! やっぱりこれはおかしいよ」
カタカナと漢字の部分が離れすぎていると指摘する。
「死に際ですからそんなものでは」
「いやほら自分で書いてみな」
言われるまま横たわって準備完了。
被害者の立場になって考える。こうすれば少しは何か見えてくるだろう。
血は無いので赤のマジックで。
もちろんダイイングメッセージと離し部屋の中央で再現。
大事な殺害現場を荒らす訳にも行かない。それに遺体の側には横たわりたくない。
「ああ本当だ! 」
何度も書いてみるが四文字目と五文字目を空ける意味が分からない。
遺体の状況からも体が邪魔で離したとも思えない。充分に書くスペースがある。
「そうだろ。急いでる時にわざわざ開けるのは不自然。
何か意図してるとしてもダイイングメッセージは伝わらなければ意味がない。
未だに分からないとなると意図してないことになる。だから…… 」
私の探偵としての能力を測っているのかそこでストップ。
「えっと…… だからその…… 」
もう少しヒントがないと無理だって。
「ほら早くしな! もうイライラするね」
せっかちなお婆さんに急かされて強制的に閃く。
「そうか! 分かりました。これは犯人が書いたものだったんですね」
今まですべて被害者が残したものだとばかり。
だが良く考えればこんなに目立つ血文字をそのままにするのは不自然だ。
「正解だよ。だとしたら…… 」
「『山』の後を書こうとしたがそこで絶命」
被害者は『山』の後を書こうとしただけで『ドスグロ』は真犯人が別に加えたもの。
「あーあ。もう美味しいところを取らないでおくれよまったく」
一言文句を垂れてから満足そうに笑う。
さすがは小駒さん。頼りになる。
これでダイイングメッセージの謎が解けそうだ。
「それで何て書こうとしたんですかね? 」
「漢字だろうけど私には思い当たる節はないよ」
そう。これ以上は被害者にしか分からないこと。
生き返らせれば楽だろうが生憎そんなシステムになってない。
「犯人に関することでしょうか? 」
「ああ、単純なものだよ。名前とかね」
年の功はここまでか。仕方がない後は自力で考えるとしよう。
「ちなみになぜ犯人は消そうとしなかったんですかね」
最大の疑問。これが真犯人の工作だとしても消せば済むものに逆に付け加える暴挙。
「私に全部聞くのかい? まったくとんだ探偵さんだ」
白い目で見られる。
「ははは…… 解説お願いします」
「最初は消そうとしたんだろ。でも消す時間がなかった。
たぶん血が固まってしまったんだよ。そこで犯人は気づいた。
もうあまり時間がない状況だったから仕方なく足した」
「ちょっと待って。固まってるんですよね? 不可能では…… 」
「それは簡単さ。自分の血を使ったんだ」
小駒さんの見立てが正しければ真犯人は大胆にも決定的証拠を残したことになる。
続く
小駒さんの協力を得てダイイングメッセージの謎に挑む。
「うーん。これ掠れてないかい? 」
『ドスグロ山』の後に何か書こうとしたような跡が。
「最後まで書こうとした? 」
「どうだろう。だったら『の』だけど縦棒は変じゃないか」
「書こうとして絶命したので下に流れたとか? 」
「そうかもしれないけどこれはどちらかと言えば縦棒を書こうとしたんだと思うよ」
「縦棒? 」
「ああローマ数字でない限りね。『ドスグロ山1』はおかしいだろ。意味不明だし。
だったら漢字を書こうとしたんじゃないかい」
「漢字ですか。うーん良く分からないな」
どうにか話について行ってるが小駒さんには先に先に進もうとする悪い癖がある。
もう少し丁寧に分かりやすく話してくれると助かる。
「私だって意味不明さ。あの男は何だって? 」
相棒の見立てに興味を示した。
「それは聞かない方が良いですよ。後悔します」
「いいから奴の見解を教えな! 」
「十回繰り返せと」
「はあ? 大丈夫かいあの男? 」
「それは元からですから。お気になさらずに」
『ドスグロ山』を十回ほど繰り返したがただ顔を赤らめただけだった。
相棒の悪ふざけを真に受けては馬鹿を見ることになる。
ここは直接相棒に真意を確かめるのが良いだろう。
さっきから血文字を見て唸るを繰り返す小駒さん。
まあそれも仕方ないこと。そんなに簡単に分かるはずがない。
探偵でも閃かないものをたかがミステリーマニアのお婆さんでは荷が重すぎる。
いくら年の功でも限界がある。それに彼女が真犯人なら絶対に解けるはずがない。
「ではダイイングメッセージはこれくらいで…… 」
「待ちな! やっぱりこれはおかしいよ」
カタカナと漢字の部分が離れすぎていると指摘する。
「死に際ですからそんなものでは」
「いやほら自分で書いてみな」
言われるまま横たわって準備完了。
被害者の立場になって考える。こうすれば少しは何か見えてくるだろう。
血は無いので赤のマジックで。
もちろんダイイングメッセージと離し部屋の中央で再現。
大事な殺害現場を荒らす訳にも行かない。それに遺体の側には横たわりたくない。
「ああ本当だ! 」
何度も書いてみるが四文字目と五文字目を空ける意味が分からない。
遺体の状況からも体が邪魔で離したとも思えない。充分に書くスペースがある。
「そうだろ。急いでる時にわざわざ開けるのは不自然。
何か意図してるとしてもダイイングメッセージは伝わらなければ意味がない。
未だに分からないとなると意図してないことになる。だから…… 」
私の探偵としての能力を測っているのかそこでストップ。
「えっと…… だからその…… 」
もう少しヒントがないと無理だって。
「ほら早くしな! もうイライラするね」
せっかちなお婆さんに急かされて強制的に閃く。
「そうか! 分かりました。これは犯人が書いたものだったんですね」
今まですべて被害者が残したものだとばかり。
だが良く考えればこんなに目立つ血文字をそのままにするのは不自然だ。
「正解だよ。だとしたら…… 」
「『山』の後を書こうとしたがそこで絶命」
被害者は『山』の後を書こうとしただけで『ドスグロ』は真犯人が別に加えたもの。
「あーあ。もう美味しいところを取らないでおくれよまったく」
一言文句を垂れてから満足そうに笑う。
さすがは小駒さん。頼りになる。
これでダイイングメッセージの謎が解けそうだ。
「それで何て書こうとしたんですかね? 」
「漢字だろうけど私には思い当たる節はないよ」
そう。これ以上は被害者にしか分からないこと。
生き返らせれば楽だろうが生憎そんなシステムになってない。
「犯人に関することでしょうか? 」
「ああ、単純なものだよ。名前とかね」
年の功はここまでか。仕方がない後は自力で考えるとしよう。
「ちなみになぜ犯人は消そうとしなかったんですかね」
最大の疑問。これが真犯人の工作だとしても消せば済むものに逆に付け加える暴挙。
「私に全部聞くのかい? まったくとんだ探偵さんだ」
白い目で見られる。
「ははは…… 解説お願いします」
「最初は消そうとしたんだろ。でも消す時間がなかった。
たぶん血が固まってしまったんだよ。そこで犯人は気づいた。
もうあまり時間がない状況だったから仕方なく足した」
「ちょっと待って。固まってるんですよね? 不可能では…… 」
「それは簡単さ。自分の血を使ったんだ」
小駒さんの見立てが正しければ真犯人は大胆にも決定的証拠を残したことになる。
続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
巨象に刃向かう者たち
つっちーfrom千葉
ミステリー
インターネット黎明期、多くのライターに夢を与えた、とあるサイトの管理人へ感謝を込めて書きます。資産を持たぬ便利屋の私は、叔母へ金の融通を申し入れるが、拒絶され、縁を感じてシティバンクに向かうも、禿げた行員に挙動を疑われ追い出される。仕方なく、無一文で便利屋を始めると、すぐに怪しい来客が訪れ、あの有名アイドルチェリー・アパッチのためにひと肌脱いでくれと頼まれる。失敗したら命もきわどくなる、いかがわしい話だが、取りあえず乗ってみることに……。この先、どうなる……。 お笑いミステリーです。よろしくお願いいたします。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
夏への招待状 失われた記憶と消えゆく少女たち 無人島脱出お宝大作戦
二廻歩
ミステリー
謎のヒロイン・アイミ、ムーちゃん、リン、亜砂、空蝉の五人組。
無人島生活を満喫していた俺。
そんな平穏な毎日に突如として起きた身に覚えのない殺人事件。
美しくも儚い彼女たちへの疑惑の目が注がれて……
伝説の財宝を求めて暗号を解き明かす。
『PT』とは何なのか?
すべての暗号を解き財宝を手に入れた時驚愕の真実が明かされる。
あなたはこの謎が解けるか?
過ぎ去りし夏の鎮魂歌。
特別篇もあるよ。
夏への招待状をあなたへ。
最後まで読むと何かが現れるよ。
恋愛アドベンチャー×ミステリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる