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山田さんの正体

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小駒さんと龍牙が犯罪被害者の会のメンバーだと認め奈良がそれに続く。
耐えきれずにマジシャンも。
これで少なくても四人に動機があることになる。
ただ本人の証言とは言え殺人はおろか連続殺人までするだろうか?
想定外だったのは料理人の田中さん。
ただの優秀なスタッフなだけではなかった。
彼女の元彼が自殺している。なぜすぐに教えてくれなかったのだろう?
今まで隠していたことが自らの首を絞めることに。疑われても仕方がない。

とにかく五人の背景を知れたことは事件解決に大きな進展となる。
残るは山田さんとバスガイドさん。
特に山田さんに疑惑の目が向く。
もし犯罪被害者の会のメンバーならば早く告白してもらいたい。
黙っていたことも欺いていたことも誰も咎めはしないのだから。
黒木だってそれくらい弁えてる。

「山田さん? いかがですか? 」
「いや本当に関係ないんです。ただよくバス旅をするどこにでもいる山田です」
ふざけた否定の仕方でイメージが悪化する山田さん。
こんな軽い人だっけ? 
彼の素性は分からぬままだが本人に無理に迫るのもはどうかと。
ここは一つ彼の悪ふざけに付き合ってみるか。

「まさかあなたは無類の女好きだとか? 」
「はあ何を馬鹿なこと言ってるんだい? 私は嫌いだよ」
ついついおかしな質問してしまい小駒さんの機嫌が悪くなる。
「はい。お恥ずかしい話なんですが…… 家族からも見放されてやってられなくて」
観念したのか意外にもあっさり白状する。
冗談で聞いてみたのだがまさか。本当か?
自分には二面性がありそれが悩みだとか。俄かには信じられないが。
うーん。どうやらただのクズ野郎らしい。
今までの山田さんへの見方が百八十度変わる大胆発言。隠したくもなるか。
ミサさんへの態度とは矛盾してるが取り敢えず山田さんはこれで良いだろう。

「ちなみに山田は本名ですか? 」
どこにでもある苗字。だから疑うつもりはさらさらない。
ただ少し気になる。ミサさんのこともあるので。
「ええそうですね…… 」
俯いてしまい明らかに嘘だと分かる。
「山田さん? 山田さん! 」
「分かりました。今さら探偵さんに隠しごとしても仕方ありませんね。山田は偽名。
本名は保志と言います。どうぞよろしく」
「こちらこそ」
つい癖で挨拶してしまう。
「念のためにあなたの本名をお知りの方はいませんか? 」
「ええ…… この中にはいないと思います」
だったらどこにいると言うんだ? まるで近くにいるような言い方。
この中にいなければそれでいいのだから。

「保志? 」
料理人が反応する。
「どうしました? 何か気になることでも? 」
「いえ何でも…… 変わった苗字だなと…… 」
確かに聞いたことがない。星だったら昔野球選手にいたような気がする。
ちゃぶ台返しと体罰と根性が売りだった花形選手だっけ?
生まれる遥か前の話なのでその辺は曖昧。

「このおっさんの話はもういい! この女はどうなんだ? 」
黒木がガイドさんを睨む。
タダの綺麗な人では納得してくれないらしい。
「私は本当に何も…… 」
確かに怪しいが山田さんのこともある。
無関係な者も一人や二人いた方が何かと都合がいい。
バランスも大事だし。きっと真犯人もそう考えたに違いない。

我々の協力者であるガイドさんは疑えない。
信頼関係を気付くにはまずお互いを信じることから始める。
そこからどう発展させるかは二人の問題。
「本当か? 何かあるだろ? 」
黒木はもはやガイドさんにしか強い態度を取れない。
恨まれていることが分かっているから慎重な態度。
「実は…… 先程警察から連絡がありました。
雨が強まった為に明日の朝に迎えに来るそうです」
ガイドさんは話をすり替えた。
うんそれでいい。さすがは我が協力者。

残念なお知らせ。
食堂にはため息が漏れる。皆ショックが隠せない様子。
ずるずると延ばされている。やはりやる気のない警察では当てにならないか。
自分の身は自分で守る。
「そう言うことを聞いてるんじゃない! ごまかすなよな! 」 
納得のいかない黒木は吠えるが誰も相手にしない。

「それでは皆さん。早いですがお食事にしましょう」
不穏な空気を感じとった料理人が庇うかのように。もちろん反対する者はいない。
丁度私もお腹が空いた頃。さあ喰うぞ!

               続く
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