上 下
74 / 122

挑発

しおりを挟む
九号室。第四の被害者・千田の部屋。
さあ最終確認だ。
壁一面に描かれた醜い化け物の絵。
妙に存在感がある。
これはブタ? いや猪か? まあどっちでもいいか。
鼻のところが取っ手になっていた。
かなり変わった趣向で私には真似できない。
ただの落書きにしか見えないシュールな絵。
化け物は何を見ている?
これはネズミかな。
まあどうでもいいや。とにかく確認。確認だ。
鼻の上にある鍵穴に差し込む。
ロックが解除され隣の部屋にご案内。

十号室。
隣はマジシャンの部屋。
さすがに相棒とは違う。常識がある立派な探偵。
見えるもの以外はなるべく触れないようにする。
うん?
反射して何かが光った気がする。
バッチだ。これはまさか……
いけないとは思いつつバッチを確認。
何か文字が彫り込んである。

【犯罪被害者の会】
マジシャンも会員だったらしい。
確かに副代表の龍牙がそんなこと言ってた気が……
このバッチによりマジシャンが犯罪被害者の会の者だと確証を得る。
龍牙の話のみだったので俄かには信じられなかった。
マジシャンかその家族が被害に遭ったことになる。
または親友や恋人の可能性もあるが。どうであれ動機はある訳だ。
だとすれば彼も何らかの形で今回の事件に関わっている?

お邪魔しました。
無人の部屋に挨拶し元の部屋へ。
うん。収穫はあった。さあ戻るとしよう。
皆が待つ食堂へ。
相棒には先に戻るように言っておいたがどうか?

相棒は言い付け通り食堂で大人しくしていた。
「お待たせしました」
やけに騒がしい。何かあったのだろうか? 
「おめえがやったんだろうが! 」
「何だと? ふざけるのもいい加減にしろ! 」
最悪の雰囲気。何を揉めてるのだろうか?
早いところ止めなければ。どうも嫌な予感がする。

「どうしました奈良さん。黒木さんも止めてください」
二人が言い争いを始めている。単なるいざこざだとは思うが。
「俺が犯人だって言うんだぜ。もう我慢ならない! 」
「うるせい! 一番お前が怪しい。こいつにはそんな度胸ないし。
マジシャンは第一の事件には縁遠い。
婆さんやガイドたちでは撲殺なんて無理だ。
山田って奴もただの奥手のおっさん。第三の事件でも閉じ込められていたしな。
残るは探偵だが動機がない。だったらもうお前しかいないだろ? 」
黒木は奈良が怪しいと見ている。
うん。早計な気もするがまあ確かに消去法ならそう考えても不思議ではない。

「いや俺にだって第一の事件は無理さ。山田さんぐらいなものだよ」
第一の事件の容疑者は山田さんか?
だが連続殺人を一人による犯行だと仮定した場合彼では無理が……
第三の事件で閉じ込められていた山田さんは容疑から外れることになる。
山田さんは口を挟むことなく様子を見守っている。
「あんたの方が怪しいだろ黒木? 」
奈良はすべての事件に黒木が関係していると主張する。
その根拠があるのだろうか?

「第一の事件は愛人から山田さんの部屋が空いてるのを知り得た。
そして第二の事件は元々愛人。どうってことは無い。
第三の事件だって仲間だった鑑定士だ。どうにでもなる。
第四の事件だってこう言えばいいだろ。
『もう疲れた。自首する』
いくら被害者だって仲間がばらすと言ったら飛び出さずにはいられない」

確かにこうすれば殺すことは可能だろう。
ただその後だ。密室は完成しない。
我々がさっき見つけたトリックを使わない限り不可能。
だが逆に言えばトリックを使えば犯行可能。
確かに黒木なら第一の容疑者になり得る。

「おい待てよ。俺には動機がないぜ? 」
黒木が被害者たちと一緒になって詐欺を働いていたのはほぼ皆知っている。
それは我々と一緒に調査したガイドさんも。それ以外は何となく知っているはず。
もちろんこれは建前に過ぎない。
ここにいる者は全員黒木たちに騙された者またはその家族。
だから生き残った黒木を擁護する者はいない。

「仲間割れで殺したんだろ? 」
小駒さんが口を挟む。
「何だとこの! 」
もう冷静ではいられない黒木。
それもそのはず。一人切りでは勝ち目もなければ余裕もない。
「お前らは人間の屑さ! 人を騙した金で遊び惚けてるんだからね」
直球で攻める小駒さん。
「うるさいな俺は知らない。一体何の話をしてるんだ? 」
この期に及んでも認めようとしない。ほぼ告白していたのに忘れたのか?
これでは犯人云々の前に集団で襲われる恐れも。
これ以上詐欺被害者を侮辱してはいけない。
刺激してもいけない。暴発したら止められないのだ。

奈良と黒木の争いは小駒さんを巻き込み次第に皆を巻き込む。
食堂はかつてないほどの熱気に包まれている。
ちょっとしたキッカケで暴発しかねない。

                  続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

それでもミステリと言うナガレ

崎田毅駿
ミステリー
流連也《ながれれんや》は子供の頃に憧れた名探偵を目指し、開業する。だが、たいした実績も知名度もなく、警察に伝がある訳でもない彼の所に依頼はゼロ。二ヶ月ほどしてようやく届いた依頼は家出人捜し。実際には徘徊老人を見付けることだった。憧れ、脳裏に描いた名探偵像とはだいぶ違うけれども、流は真摯に当たり、依頼を解決。それと同時に、あることを知って、ますます名探偵への憧憬を強くする。 他人からすればミステリではないこともあるかもしれない。けれども、“僕”流にとってはそれでもミステリなんだ――本作は、そんなお話の集まり。

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

変な漫才~これネタバレなんですけど、人が死にます~

八木山
ミステリー
鈴木先生は、その日楽屋に来なかった。 僕は予定にない一人漫談をして、死ぬほど滑った。 それが、あの事件の「フリ」だと気付けた人間は、一人もいなかったのだ ■登場人物 俺  品川高校特進科3年男子、帰宅部。  演劇部のファンで、湯本とは悪友。  宮古島のことはしゃべる猫だと思っている。 湯本箱根  品川高校普通科3年男子、演劇部。  端正な顔立ちの役者だが、絶望的に舞台度胸がない。  副顧問の鈴木教諭とアマチュア漫才コンビ「アップルパイ」を組んでいる。 宮古島羽鳥  聖レーヌ女学院2年、文芸部。  文化祭の折文芸部の文集に乗せた推理小説を出版社に見初められた。  黒髪をポニーテールにした、自称ギャル。 鈴木潤奈  品川高校の女性教諭。担当教科は英語。  演劇部副顧問で、演劇部OB。  湯本に必要なのは経験だ、と漫才の舞台に立たせた。 色竜  社会人漫才コンビ「わけなかったわ」のツッコミ担当。  本業は事務員。誰が見ても声が漏れるほどの美少女。 マサムネギ  社会人漫才コンビ「わけなかったわ」のボケ担当。  本業はラッパー。エンタメ志向の目立ちたがり屋。

四重奏連続殺人事件

エノサンサン
ミステリー
概 要  探偵倉科源一郎が、数年前まで交際していたバイオリニスト亀井綾乃の周辺で連続して三件不審な死亡事件が起きた。  倉科が最初に事件を知ったのは、かつての知人三村里香の殺害事件で、亀井綾乃は三村里香の近所に住み、三村里香にビオラを教えていた。 事件の少し前、倉科は三村里香が勤めるクラブで彼女から亀井綾乃の周辺で起きている奇妙な話を聞いた。  その内容は、亀井綾乃の親友であり、四重奏ユニットを組んでいた、福岡在住チェリストの榊江利子、名古屋在住バイオリにストの鈴木正恵が連続して不審な死を遂げたことであった。 三村里香は四重奏のメンバーとは何の関係も無いのが不思議に思えたが……。  探偵学校講師として名古屋出張の際、学生時代からの友人である弁護士の竹橋登から鈴木正恵の不審死について聞かされ、倉科は深い疑いを持った。  弁護士竹橋の依頼で福岡に赴いた倉科は、榊江利子の死に益々疑問を深めた。  福岡は密室殺人と名古屋の件は、偽装事故との疑いを深めるが確証がつかめない。  クラシック業界、音楽大学の闇、南満州鉄道、東トルキスタン独立運動、戦前からの深いつながり等、倉科を迷わせ、翻弄する錯綜した事態の中で、偶然に、推理の糸口が見つかり、解明に向けた倉科の奮闘が始まる。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

処理中です...