上 下
68 / 122

オーナーの正体

しおりを挟む
料理人の田中さんの告白は大変興味深いものだった。
ただ彼女が徹底的に調べ上げてることが不思議でならなかった。
どうしてここまで? 異常とも言える熱量。

「何で知ってるの? 」
空気を読まずに相棒が問い詰める。
「おい待てって! 無理矢理聞きだすなよな。失礼だぞ」
「いいんです。このツアーに不信感を抱いてましたから。
私、料理得意ですよ。ソムリエに調理師免許も。車の免許だってあります」
「それはすごい…… って当たり前か。料理人なんだから」
少々失礼だったかな? 気を悪くしなければいいが。

「そう当たり前なんですよ。これくらいの人は探せばいくらでも。
でも私に直接依頼が来たんです。どこも通さずにいきなりメールで。
しかも二泊三日の旅行気分でその上ボーナスもある。
怪しい臭いがプンプン。
この子と一緒にお客の世話をするだけで相場の十倍。おかしいと思うでしょう?
だから事前に色々調べてみたんです。
この仕事自体が詐欺の可能性もあると思い電話で本人にも問い質しました。
ですが詐欺はあり得ないと強く返されました。
否定するのは詐欺師の常套手段。
信用できない。だから本当に詐欺ではないのかと迫った。
しつこかったのでしょうね。
オーナーは詐欺師が私の中で一番許せない存在だと感情を露わに。
声は男性で若くもありませんでした」

料理人から貴重な情報を得る。
ただ彼女の話を真に受けたとしてもオーナーが今回の真犯人とは限らないが。
だが少なくても何らかの形で関わってるのは間違いない。
彼女の話から察するに冷静さを失うほどの何かが過去にあったと見ていい。
それは犯罪被害者の会の者とも重なる。

「誰だと思いますか? あなたも紛れ込んでるとお考えなのでしょう? 」
一歩踏み込んだ質問。オーナーの正体に迫る。
客を疑うことになる。答えようがないのだろう。
長い沈黙の後に一言。
「それは私にはちょっと…… 」
「ではガイドさんの意見も」
「オーナーですか? さあ…… でも参加者の中にいるとは思えないんですよね。
何となく違う気が。でもやっぱりいたような気が。どうも良く分からないんです。
一緒にいたようないなかったような。近くにいた気がするんですけどね」
料理人もガイドさんも本当に思い当たる節がないのかただ隠してるのか。
はっきり答えようとしない。でも考えて欲しい。事件が起きてからでは遅いのだ。
知っていることはすべて包み隠さずに教えてもらいたい。
とは言えオーナー犯人説は早計過ぎる。
それに仮にそうだとしても動けない。

話を切り上げ第一現場へ。
三〇一号室。
第一の被害者美術商の男。
辺りには破片が散乱したまま。血の跡もびっちり。
「撲殺で間違いないか? 」
念のためにもう一度相棒に確認を取る。
「傷跡からも間違いないと思う。でも確実にそうかと言われたら分からない。
鑑識が来ればそれこそ細かい所まで判明すると思うけど今のところ撲殺かな」

壺が所狭しと置かれている。
第二の事件後に私の指示によりすべての部屋から回収された。
それを一か所にまとめたところまではいい。
だがそれでも撲殺事件は収まらなかった。
動けば動くほど真犯人に追い詰められていく気がする。

うーん。やっぱり怖いんですけど。
ちょっとでも気を抜くと恨めしそうに睨みつけてる気がしてゾッとする。
覆いを被せてるのに捜査の邪魔だからと取ってしまう相棒。
どう言う神経してるのか?
龍牙ではないが震えて仕方がない。さすがに覆いはそのままでもいいのでは?

「死体が死体が…… 」
「何してるんだよ! 動く訳ないだろ! 」
相棒が立ち会った。生きてるはずがない。
「なあいくら何でも遺体をそのままってのはまずいんじゃないか? 」
「動揺して! 言ったろ警察が来るまでなるべくそのままで現場保存するって」
相棒の言うことはもっともだが臭いも凄いことになってる。
いつまでも放置するのはどうだろう?
死者を冒涜している気がして落ち着かない。

「ビニールシートで覆うとかさ」
「どこにあるって言うんだよ? 勝手に動かせないって」
相棒と立場が逆転した。
「あのもういいですか? 」
ガイドは口元をハンカチで押さえている。
臭いも強烈で記憶が蘇ると俯く
だがそれでは余計に遺体に視線が行くことに。
ここは下ではなく上を向くべきだ。

これ以上ガイドさんに無理させられない。
第一の被害者美術商の男の部屋を後にする。

続いて三号室。ミサさんのお部屋へ。

                    続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新
ミステリー
 雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。  彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!? 日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。 『蒼緋蔵家の番犬』 彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

茜蛍の約束

松乃木ふくろう
ミステリー
 7年前の事故で右手に大けがを負ったオレは、メディアの過剰報道にも晒され、初恋の女性との“約束”を果たせぬまま、故郷を離れ、怠惰な日々を過ごしていた。  そんなオレがお袋に騙され帰郷すると、そこで待っていたのは、その初恋の女性『光木茜音』との再会だった。だが、それは再会と呼ぶには、あまりにも悲しい『彼女の死』と言う結果に終わってしまう。  彼女の死に違和感を覚えたオレは光木茜音の親友である円詩子と行動を共にする事となる。 ※全26話・最終話まで毎日更新します。 ※完結まで書上げてあります。 ※カクヨムでも公開しています。なろうでも公開予定です。

私のもの、と呼べるものは?

ミステリー
主人公 雨ノ 望未(あまの のぞみ)。 彼女には記憶がなかった。 11歳の誕生日にすべてを失い、そこから記憶は積み重ならない。そんな彼女の元に不思議な人物が現れた。 その人は望未の記憶を奪い続けていたという。 そうしてその記憶を戻す条件を幾つか提示され...。 記憶とは何なのか、何が本当で何が嘘なのか、信じることの意味を彼女は問い続けることになる。 ミステリー、でしょうか。 前作→七月、君は こちらは完結しています。興味がある方は是非。

蜘蛛の手を掴む

西野 うみれ
ミステリー
手に蜘蛛の巣のタトゥーが入ったテロリストを追う、呪現言語師たちの戦い 立木陵介の妻、菜緒が失踪した。誘拐されているかもしれない。おそらく殺されている、菜緒を誘拐した方が。 菜緒は、日本国・諜報部・武威裁定Q課、通称ブサイクに所属する捜査員。あらゆる点において大きく権限委譲された組織であり、オカルト・サイコパス・テロあらゆる面倒な事案を解決することを目的としている。 銃の取り扱い、鍛え上げられた肉体、性別を超えた圧倒的な格闘術、犯罪者を察知する嗅覚、そして非情にして無情な残虐性。陵介の知らない菜緒が次々と明らかになっていく。 失踪したその日、神保町駅ビルでテロが発生。瓦礫の中に菜緒の左手が見つかる。その左手には、蜘蛛の巣のタトゥ―が。 菜緒とはいったい誰なのか?蜘蛛の巣のタトゥーが入った左手は?

R ―再現計画―

夢野 深夜
ミステリー
時は現代。日本のどこかにある絶海の孤島。 ここで、日本政府が極秘裏に進めているプロジェクトがあった。 その名も――<再現計画>。 それは、過去に綺羅星のごとく存在した偉人、奇人、才人たちの“才能”を引き継がせた<再現子>に、その能力や功績を現代で再現させ、国家の発展を推進するプロジェクトだ。 それは――気が遠くなるような長い時間、計り知れないほどの莫大な資金、目を疑いたくなるほどの膨大な人員を投入して行われる、国家最大のプロジェクトだ。 そのプロジェクトが最終段階に入ったある日――武装したテロリスト集団に<再現計画>を進めている施設を占拠される事件が起こった。 その施設にいた19名の<再現子>は、 “政府に拘束されている同胞の解放” と “身代金20億円の要求” を目的とした、政府への人質にされることになる。 政府との交渉に難航し失敗の可能性が出てきたテロリスト集団は水面下で逃亡を画策し、彼ら<再現子>に対し ”もっとも優秀な1名だけ” を生かして連れて行くと、恐ろしい宣言をする。 極秘裏に行われているはずのプロジェクトの存在が、なぜ漏れたのか? 最高機密の<再現計画>を襲撃できるテロリスト集団の後ろ盾は、どのような存在か? 殺し合いを命令された彼ら<再現子>が取る行動とは、いったい――?

さらば真友よ

板倉恭司
ミステリー
 ある日、警察は野口明彦という男を逮捕する。彼の容疑は、正当な理由なくスタンガンと手錠を持ち歩いていた軽犯罪法違反だ。しかし、警察の真の狙いは別にあった。二十日間の拘留中に証拠固めと自供を狙う警察と、別件逮捕を盾に逃げ切りを狙う野口の攻防……その合間に、ひとりの少年が怪物と化すまでの半生を描いた推理作品。 ※物語の半ばから、グロいシーンが出る予定です。苦手な方は注意してください。

処理中です...