ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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冷静な者

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「はあ…… 何だ無事だったのかい」
お婆さんはわざとらしくため息を吐く。
まるで黒木が遺体で見つかれば良かったと思っているかのよう。
それも当然か。黒木たち詐欺師に酷い目に遭わされたのだから。
相当恨んでるに違いない。
「小駒さん! 」
「本当に心配したんだって」
調子のいいことばかり言うお婆さん。それに続けて皆も一言二言。

何とか今日には助けが来る。
それだけがせめてもの希望。
これまでに四人もの人間が殺害された。
もちろんすべてが殺人とも限らないし一人による犯行と断定もできない。
ただ動機だけは解明されつつある。

「皆さん聞いてください」
全員を食堂に再度集める。
もうはっきり言って朝も夜もない。
食べたい時に好きに食べていい。
非常食だってまだ残っている。
最低でも明日には警察が来る。もうこれ以上食糧を心配する必要はない。
仮に食糧が尽きたとしてもいくらでも辺りから調達可能。
山菜もあるしちょっと行けば泉もある。小魚程度なら泳いでるはず。
危機は脱したのだ。少なくても過酷なサバイバル生活を強いられることはない。
なるべく動かずに大人しく一か所に固まって助けが来るのを待つのがベスト。

余計な行動はそれこそ命取り。
もう黒木みたいに勝手な行動はさせない。
これ以上長引けば精神に負担がかかり疑心暗鬼に陥りやすくなる。
そうなれば善良な人間もただの獣へと変容する。
もはや元のまともな人間に戻ることはないだろう。
そのタイムリミットは人によってまちまち。
龍牙氏のように相当な緊張を強いられた状態ならすぐにでも壊れていくだろう。
次々に連鎖していく恐怖。
この中に一人でもリスクのある人物がいればあっと言う間に広がる。
もっと強い言い方をすれば感染するだろう。
ここは出来るだけ穏やかに冷静な判断が求められる。

「リーダーを決めましょう」
一つ提案をしてみる。
もうこれ以上真犯人を放置できない。事件に真正面から取り組むべきだ。
それならば協力者は必要不可欠。相棒だけでは足りない。
やはりガイドさんも料理人もいた方がより早く解決できるはず。
しかし絶好のチャンスと捉えて真犯人が動くかもしれない。
我々が居ない間を任せる者が必要になって来る。
黒木は当てにならないので却下。
出来るだけ真犯人から遠い人物が良い。
それは誰なのかと言うとやはり状況的にも小駒さん。
一番年上の彼女に任せるのが安全だろう。

「小駒さんお願いします」
「ええっ? 私でいいのかい? 」
大抜擢に驚いてるよう。
「お願いします。私どもがここを離れている間の監視役を頼みます」
消去法でしかなかったが小駒さんにやる気と自覚が出てくれればいい。

「そうだね…… 」
何か迷っている様子。
「あの嫌でしたら無理にとは…… 」
「ううん。無理なものか! その大役任せてもらおうじゃないか」
お婆さんから精気が漲る。

「では我々はもう一度第一の事件から見直すことにします」
「おいおいお前らそんなことしてる暇に真犯人に逃げられるぞ」
黒木は反対の立場らしい。
要するに事件が解決してはまずいと思っているのだろう。
「お前らも助けが来るまで勝手な行動は控えろ! 」
一歩も引かない黒木。ただ時間稼ぎをしてるようにしか見えないが。
「大丈夫ですよ。黒木さんが証明してくれたではありませんか」
嫌味で返す。
「フン忠告を無視しやがって。どうなっても知らないからな! 」
忠告と言うより脅しに近い。
いつもの手慣れた脅迫。どんな手を使ってでも自分の思い通りにしてきた。
だがここではその手は通じない。もはや威嚇も暴力も通用しない。

「忠告はしたからな」
彼の日頃の行動が手に取るようだ。
「とにかく皆さんはここで大人しくしていてください」
振り返ることなく部屋を出る。
程度の問題で皆苛立ってたり恐怖したりは当然してるはず
今のこの状況で冷静である方が怪しい。
何と言っても殺人鬼の棲む閉ざされた山に取り残されたのだから。
しかもそいつは恐らくこの中にいる。
知能を有した人間か? ただの伝説の化け物か?


               続く
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