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仮眠

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せっかく提案した案も反対多数で否決。
探偵としての経験を活かした大胆な提案だったのに相手にされなかった。
結局何の対策を取ることも出来ずにただ鍵を掛け戸締りを徹底するだけ。
これでは今までと何ら変わらない。
三件とも密室をすり抜けるように起きている。
無策ではどうぞ襲ってくださいと言ってるようなもの。
私の意見に素直に従えばガイドさんたちだって影に怯えることもなかった。
こんな風に抱き着くハプニングだって回避できたはず。
それは確かに悪くはないと思うけれど……

十分経過。
ようやく落ち着いたのか恥ずかしそうに手を離すガイドさん。
「済みません。つい…… 」
分かってくれればそれでいい。
「いいですか二人とも。今はもう誰が狙われるかまったく分からない。
なるべく一人は避けて極力出歩かないように」
おそらく狙われるのは詐欺グループのどちらか。真犯人は犯罪被害者の会の誰か。
それが一番あり得る話。だがこの構図に当てはまらないことだってある。
警戒を怠ってはいけない。
急いで見張りに戻る。

もうすぐ十時になろうとしている。
今のところ人影騒動ぐらいで静かなものだ。
何もないとすぐに眠くなってしまうから軽いトラブルぐらいはあってもいい。
だが願い虚しく不審な物音は聞こえてこない。
聞こえるのは微かなイビキの音ぐらい。
黒木の部屋から聞こえる。
どうやら怖いものなしのようで図々しく熟睡している。
ふあああ…… 私も寝たいよ。探偵とは何と因果な商売なのか。
ブツブツ言いながら見回る。

十二時になり相棒と交代。一時間ほど仮眠をとる。
そして一時過ぎに任務へ戻る。
守りは完璧なはず。
部屋は密室。
人が訪ねることもなく実に静かだ。皆寝たのだろう。
さあもうひと頑張りだ。

四時過ぎに一度物音がしたが相棒がベットから転げ落ちた音らしい。
人騒がせな奴で困る。念のために様子を見る。
「大丈夫だよ。おやすみなさい」
呑気な相棒はそう言うともう夢の世界へ。
私もそろそろ限界。出来れば変わって欲しいものだ。
眠くなった眼を開きどうにか朝を迎える。

日が差してきた。
凍り付いた大地に陽の光が差し込む。
解放されたように明るく輝き始めるドスグロ山。
鳥のさえずりが心地よい。
ああもう朝だ。これで助かったはず。
それから二時間ほど粘り六時過ぎに相棒が姿を見せたので交代。眠ることにした。
これはいい夢が見られそうだ。
探偵として取れる最低限の行動をした。後は相棒に任せておけばいい。
一部屋ずつ直に回っていけないのが情けないがこれが限界だろう。
おやすみなさい。
ひと眠り。

「探偵さん! 探偵さん! 」
眠ったと思ったらすぐに起こされた気がする。
感覚的には一分も経っていない。
だがガイドさんが血相を変え起こしに来た以上随分時間が経ったのだろう。
ノックぐらいして欲しい。いくら鍵もマスターキーもあるとは言えそれが常識では?
ガイドさんの血の気が引いている。まさか何かあったのか?
いやそれはないか。きちんと見張りをした訳だし。
「どうしました? 今何時ですか? 」
時計を確認。針は八時を示していた。
まだ二時間も寝てないよ。眠いのになもう。

ガイドさんの必死の説明をほぼ理解できずにただうんうんと頷く。
「探偵さん聞いてるんですか? 」
ガイドさんはしきりに何か訴えている。
今は眠い。出来れば相棒に頼んでほしいな。
そんな願いが通じることはなく感情任せに騒ぎ立てる。
もう一人加わり余計に騒がしくなった。
最悪なことに相棒まで何か喚きだした。
これはもう真剣に聞いてやる必要があるかな。
と言いつつもうひと眠り。睡眠不足は探偵にとって致命傷。
頭が回らなければただの人。

そろそろ起きなければな。
起こしに来てくれたガイドさんや相棒の姿がない。
やはり何かが起きたのだろう。
あれからどれだけ経ったのか? 寝ていると時間の感覚が分からなくなる。
さっきから遠くで怒声が聞こえる。
異常を知らせる叫び声。
「どうしました? 」
眠い目を擦りながら音のする方へ。

「探偵さん遅いですよ! 早く! 早く! こっちです」
ええっとここは確か千田さんのお部屋。何度も伺ったので記憶に残っている。
「まさか千田さんが? 冗談ですよね? 」
異変を察知した者たちが集まっている。
「ほら確認しな。早くしないか! 」
お婆さんは怒っているようだ。
部屋の中へ。

中には相棒の姿が。
「遅かったね。これだ。また犠牲者が」
相棒が差し示した先には千田の変わり果てた姿があった。
ついに四人目の犠牲者。

                   続く
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