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圧力

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「ああそうだ黒木さん。壺を返そうかと言う話が出てるんですよ。
千田さんも嫌がってましたがあなたはどうしますか? 」
「うるせい! 誰が壺なんか! 」
黒木は頭にきて灰皿を掴む。このまま怒りに任せ投げそうな勢い。
「一応は伝えましたから。後はご自由に」
言うだけ言って部屋を出る。
ふう…… 危ない危ない。
続けて龍牙から話を聞くことに。

三〇七号室。龍牙の部屋。
「はいどのようなご用件ですか? 」
もう震えは収まったらしい。
部屋には奈良の姿も。二人は本当に仲がいいのだろう。
奈良にはご遠慮願って龍牙から話を聞く。

「犯罪被害者の会? 何を言ってるんですか探偵さん。私はただの観光客。
偶然招待され旅行に参加しただけでそれ以上でもそれ以下でもない。
下手な勘繰りはよしてください。私にはまったく何のことだか…… 」
きっぱりと関係を否定するが詰まってしまう。
オドオドした様子の龍牙。嘘の吐けない性格らしい。
「だから違うんです。私は二泊三日のバス旅を満喫してるただの客で」
言い訳してももう調べはついてる。無駄なことでしかない。
白々しいと言うか間抜けと言うか。
そもそも彼が口を滑らせたのだから言い訳のしようもない。

「犯人はあの黒木って人です。まさか私たちを疑うつもりですか?
あんな大それたことをするのは黒木以外あり得ません」
彼は黒木の一体何を知っていると言うのか? 
それにはっきり私たちと言った。もはや認めてるようなもの。
「落ち着いてください龍牙さん。あなたは黒木さんたちに負の感情を抱いている。
違いますか? 」
慎重に龍牙を見極める。すぐに核心をつけば何も話さなくなるおそれもある。
「いや…… 別にそんなつもりは…… 」
歯切れが悪くなったが震えることはない。
もしかすると今までは怯えた演技をしていただけなのかもしれない。
龍牙を誤解していた。情けない第一印象が強いものだから未だに震えてるものだと。
これは舐めて掛ると痛い目に遭う。

「龍牙さん! どうかあなたの知っていることをすべて話してください。
これ以上被害者を出さない為にも協力をお願いします」
頭を何度も下げる。
彼はよしてくださいと頭を上げるように言う。
「いえ止めません! あなたの協力が不可欠なんです。このくらい何でもない。
でもあなたには辛いんでしょうね」
龍牙は人が良い。だから簡単に騙されるのだろう。
震えだって演技と言うよりは罪悪感から来るものだと信じたい。
もし被害者の会の者たちが関係してるとして一番崩しやすいのは龍牙だ。

どうにか粘る。粘り続け説得する。
十分も続けると観念したのか重い口を開き始める。
「あの…… 相談してはダメですか? 」
奈良と話し合いたいと言い出す。
だがもちろんそれはダメだ。奈良の助言はいらない。
龍牙の人の良さに付け込むのは忍びないが彼を突破口にする。
あともうひと押しだ。

「あなたには今度の連続殺人事件の関与が疑われています。
ここで正直に話してもらわないと警察にあなたを引き渡すことになりますよ」
脅しをかける。もちろんそんな権限はない。警察だって簡単には動かないだろう。
「そんな…… 」
元々伏し目がちの彼は俯いたままで決して顔を上げようとはしない。
私の目が見られない。それは即ち彼自身に負い目があるからだ。
真面目な彼ならきっと理解して協力してくれるはずだ。
「私は警察ではありません。犯人でもない限り情報を漏らすことはありません。
あなたから聞いたことは誰にも口外しない。だから協力してください」
最後の一押しをする。

それでも口をパクパクするだけで進展がないのでもう少し踏み込むことにした。
「知ってるんですよ。あなた方が彼らの被害者で犯罪被害者の会を立ち上げたと。
それは即ちあなた方に明確な殺害動機があることになる。
疑われたらもう最後ですよ。あなたはやってないんでしょう?
だったらすべてを包み隠さずにお話しください」
プレッシャーをかけ続ける。

「分かりました」
ついにすべてを話す覚悟を決めた龍牙。
これで事件の全貌が明らかになるに違いない。
楽観視するのは危険だが一歩前進だ。
「では改めて聞きます。あなたは犯人ですか? 」
「まさか…… 冗談じゃない」
震えながら否定する。
「では知ってることをどうぞ」
「えっと…… 」
咳ばらいを三度して語りだす。

もう少しだ。黒木たち詐欺グループから話を聞いた。
これで犯罪被害者の会の者からも話を聞けば犯人に繋がる手掛かりが見つかるはず。
そうすれば必ず犯人の正体が掴めるはずだ。


                     続く
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