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説得され過去を語り始める千田。
「当時は大学生だった。世間知らずの俺はホイホイ女に着いて行き壺を買う羽目に。
騙されたと言うよりは誘惑からの脅迫だな。地獄を見た訳だ。
売っていたのはあの美術商の親父だ」
第一の被害者のことらしい。面識はないが亡骸はよく覚えている。
あの時は資産家のご当主だと勘違いして訳分からないことを言って暴走したっけ。
まさかここが薄曇り山ではなくドスグロ山だったとは今でも信じられない。

被害者については山田さんがバスでの様子を詳しく話してくれた。
確か名前は海老沢さんだったかな。えらくせっかちで頑固な爺さん。
後は大雑把で不潔らしく手を洗ったらズボンで拭いていたとか。
まあ昭和のおじさんだからある程度は仕方ない気もするが。
それに本当に不潔ならトイレに行っても手を洗わないだろう。
ギリギリ存在を許された人物。だから最初に殺されたのかな?
ただ不潔が原因ならば犯人は嫌がっていた山田さんが有力。
やはり犯人は山田さんなのか?

「壺は美術商のものだと? 」
「ああ蘊蓄を披露してたよ。白磁がどうとか。江戸時代のもので価値があるだとか。
有名な陶芸家が作った国宝級だとか抜かしていた」
「それにひっかったと? 」
「ああ知識もなくあの女の色香に惑わされただけだからな」
惨めな思い出を語って見せる千田。
「いわゆるデート商法だ。あの当時は若くて綺麗だったんだ本当に。
こうやって彼女に騙されたのは何人もいただろうな。若いのから爺まで。
とにかく怪しげな会場に連れて来られた時点でもうそこでお終い。
買うまで帰してくれない。それが手さ。脅されるように何十万する壺を買わされる。
俺はまだいい方だ。大学生だったからな。金もカードも限界がある。
それに比べて金持ってそうな爺は何個も買わされていた。それが始まりだ」
千田の告白はよくある古典的な詐欺。ひっかる方がどうかしてる部類。
ただこれでは単なる被害者。なぜ被害者が加害者に? どう言うことだろうか?

「一ヶ月後支払いが滞った俺は再び会場へ。
どうしたのかなと彼女は優しく問いかけるがそれも初めのうちだけ。
返済が遅れていることを叱責されるように。
謝るが許してくれず。どうにか許してもらおうと何でもすると言っちまった。
それが運の尽きだな。奴らは詐欺の片棒を担ぐよう要求してきた。
こうして俺も晴れて詐欺師たちの仲間入り」
「千田さんも苦労されたんですね? 」
「おいおいそんな顔しないでくれよ。いや別にそんなに嫌って訳じゃない。
ただ無理矢理買わせることに罪悪感を覚えた気がする。それも最初の三回までだな。
後はもう騙される方が悪いと気にしないことにした。
そんな時カモを連れてくるように言われたんだ」
「カモですか? まさか指示に従った? 」
「ああもう何も罪悪感がなかったからなその頃には。
同じ大学の金持ちを連れてきた。
それからはもう友達まで地獄に落とした。
一人連れてくるごとにボーナスがもらえたからな。金のためには仕方なかったんだ。
もちろん今は後悔してる。何でこんなことしたんだろうって?
だがあの時はそんなこと考えもしなかった。
そして俺はいつの間にか役割を与えられていた」
「役割? 美味しいカモを連れてこいと? 」
「いや違う。後始末だ」
意味深な言葉をつぶやくが良く分からない。
先を促す。

「車で待機だ。壺を買った奴の後を着けて会場の交差点付近でわざと飛び出す」
「はあ続けてください。大体分かってきましたが」
「まあ探偵さんももう分かったみたいだな。無価値の壺を高値で売りつけるんだ。
もちろん無価値だから鑑定されたら一発でアウトだ。
そこで考えたのが会場から帰る時に車で急ブレーキかけて直前で止めること。
驚いたカモは壺を割るって寸法だ。
それなりにテクニックがあった俺は直前で急ブレーキで止める技術を身に着け実践。
驚いたほとんどのカモは俺の術中に嵌ったって訳。
壺は無残に割れてしまう。ただ何人かは潜り抜けた者もいた。
だが彼らから訴えられることは無かった。ラッキーかな」

話は核心へと向かう。

                  続く
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