上 下
27 / 122

ジキルとハイド

しおりを挟む
続いて謎の男。
ど派手なシルクハットにマントの西洋人風の見た目。
インパクトは絶大。ただ格好良いかと言うとそうでもない。
足は短く身長も標準。
素顔はメイクでまったく分からなくなっている。
一応は男としてるがメイクで隠れてるのだから女の可能性もある。
まあ体格は男のようだが。

「あなたは一体? 」
「俺はマジシャン。お金を払えばどんなマジックでもお見せしますよ。
イッツ・イリュージョン」
そう言うとカードを取り出す。
マジシャンの小道具の一つ。
取り敢えず拍手を送る。これが礼儀と言うものだろう。

挨拶代わりのマジックを始める。
カードマジック。
トランプをドクロのマークの方を上にして並べる。
マジシャンだけありさすがの手さばきだ。
「どうぞ」
一枚取るように言われたので真ん中辺りを抜く。
「それでいいですね? 」
ハートのエースを確認。それを見せないように中に戻す。
そして男は十回切って束から一枚のカードを選ぶ。
「イリュージョン」
めくると見事にハートのエースが。
初歩の初歩のトリックだそうだ。
心理トリックらしく見抜けるかでその人の能力が測れるとか。

「いや…… ちっとも分からない。どうやったんですか? 」
「ははは…… 早くも降参ですか。それは…… カードをめくっていくと分かるよ」
相棒が雑にすべてをひっくり返す。
「何だこれ? 」
全部がスペードのエースだった。
やられた。
最初に確認しなかった。だから普通にあると思ってしまった。
これこそ心理トリック。

「ははは…… 面白いだろ? 」
「あのハトは? 旗なんかは出せますか? 」
つい嵌ってしまう。
「いやいや準備なしには出せない。そもそも持ってきてないよ」

マジシャンが一名。彼の目的は?
明らかに異質な存在。相棒レベルで異質だ。
「あの…… どこにいました? 」
見かけた記憶がない。まさか途中から参加した訳でもないし。
「ははは…… いつもは軽く変装してます。記憶にありませんか? 」
「うん…… たぶん…… 」
該当人物に心当たりがある。ただ恐ろしく存在感がなかったような。
「仕方ありませんよ。何しろ目立たないように存在感を消してましたからね」

「それで本名は? 」
「申し訳ない。教えられないのです」
職業上の秘密らしい。粘っても無駄のようだ。
「では素顔を」
「それも断る。マジシャンにとって素顔を晒すのはご法度」
相手のペースに。言い包められてしまう。
「では何も答えられないと」
「いや犯人なら教えてあげられるよ」
「まさか目撃したんですか? 」

期待が高まる。何と言っても私は明後日探偵。
きちんと解決できたのは実は一度きり。
もちろん難事件などではなく至って初歩的なトリックだった。
それも運よく犯人が自供しただけに過ぎない。
助手を雇うようになってからロクに推理も出来てない。
助手が優秀だと事件が早く解決する代わりに探偵としての能力が下がる一方。

「目撃はしてない。だが一人しかいないじゃないか」
マジシャンならではの目のつけどころ。
「ええっ? 誰? 誰ですか? 」
「犯人はお前だ! 」
「えええ? 私? この明後日探偵だと言うのですか? 」
驚愕の真実。記憶にない。
まるで政治家のような知能。
これではこの先探偵として本当にやっていけるのか不安になる。
「まさか寝てる間に? 」
「ははは…… 冗談冗談。ジキルとハイドでもあるまいし」
「ちょっとふざけないでくださいよ」
もうこれはお遊びではない。
マジックでもなければイリュージョンでもない。
現実の事件。被害者は二人にも。
しかも私たちは閉じ込められている。そんな呑気な場合じゃない。
この状況でよく冗談が言えるものだ。

「まあ今のは前置きだ。ここからが本番さ」
彼は何かを掴んでるらしい。
「今ここに部屋の鍵がある」
またマジックでもする気か?
「これで自分の部屋は開けられるね? 」
「当然でしょう。何を言ってるんですか? 」
「だったらこの鍵で隣の部屋が開けられると言ったらどうでしょう? 」
「出来る訳がない。それは不可能だ! 」
何も難しいことはない。種も仕掛けもなければ開けられるはずがないんだ。
「実験してみるかい? 協力するよ」
「はいはい。分かりました。ではお引き取り下さい」
これ以上戯言に付き合ってられない。
混乱するだけ。余計な情報は事件を複雑化するだけで解決には遠回り。

「本当なの? 」
相棒は関心を示すが嘘に決まってる。
「嘘は言わない。興味があったらいつでもどうぞ」
相棒とマジシャン。
似た者同士の困った存在。

                   続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...