26 / 122
秘密厳守
しおりを挟む
お昼はサンドイッチ。
出来たら温かいものを食べたかったが料理人も忙しい。文句は言えない。
それに二人も殺害されたショックで食欲もないと来れば仕方がないか。
「大丈夫ですよ。もう三時間もすれば迎えのバスがやって来ます。
皆で体を寄せ合えば怖くありません」
震える者に手を差し伸べる。
私としては出来ればガイドさんと抱き合っていたいが。まさかね……
おっと危ない危ない。妄想と現実の区別がつかなくなる前に捜査に戻る。
トップバッターはメガネの相方。
「お名前をどうぞ」
「関東から参りました奈良です」
まあ多少の矛盾は放置しよう。ふざけてる訳でもないので。
「奈良さんはあの龍牙さんと仲良しだとか」
「そんなんじゃありませんよ。ただ放っておけなくて。
あの人ぼうっとしてるって言うかトイレから出て来てもなぜか笑ってるんですよ。
もう危なっかしいったらありません。化け物見た自慢したかと思えば震えてるし」
龍牙の異常ぶりを詳細に語る。どうも奈良は世話好きらしい。
「ご兄弟は? 」
「二つ違いの兄が一人」
どうやら龍牙をその兄と重ね合わせてるのだろう。
「二人は前からの知り合いですか? 」
「うん…… このバス旅で」
若干の間があった。何か隠しごとでもある?
「それで奈良さんはここに何しに来たんですか? 」
「もちろん目的地にたどり着くためさ。俺たちはゴールを目指してる」
急に哲学的な話をし始めた。難関過ぎて理解できない。
まさか私の追及を逃れるための作戦? ただ怪しまれるだけだと思うが。
「被害者二人との関係は? 」
「さあ我々はただバス旅をしてるだけ」
我々とは龍牙さんのこと? まったく話がかみ合わない。
「何か気になった点は? 」
「そうだな。絵かな。狼が睨みつけるみたいで怖い」
「狼の絵が飾られていると」
「ああ、あのおっさんも言ってたよ。ケルベロスだって魔犬だって騒いでた」
龍牙さんは犬の絵に恐怖を感じあんなに震えていたのか。
「ではそれから疑わしい人物を見たとか気になったとかありますか? 」
「よくあの姉ちゃんの部屋に黒木って奴が出入りしてたっけ。それくらいかな。
ああそれと鑑定士も販売員も部屋に入っていくとこを見たな」
どうやら人の出入りが気になるらしい。
ストーカー気質? これは要注意人物だ。
「それで嫉妬して? 」
「冗談でしょう。俺はただ気になっただけだ」
まあいいか。貴重な目撃談。メモをしておこう。
「誰が犯人だと思う? 」
相棒が直球の質問。
「それは…… あの黒木じゃないのか。知らないけど」
最後の質問にもきっちり答えてくれた。
続いて若い販売員の男。
「名前は? 」
「千田です」
この中で一番若い男。
「被害者たちとはどのような関係でしょうか? 」
「知らないね。見たことも聞いたこともない」
「お仲間だと聞きましたが」
「それがどうした? 俺は関係ないね。いい加減商売の邪魔は止めてくれ」
彼は間違いなくこのおかしなバスツアーの内情を知っている。
そうでなければ売りつけるなど出来はしない。
少なくても鑑定士とグルで悪さをしているに違いない。
ここで白状してもらいたいがまだ言い逃れするつもりらしい。
「あなたはこのツアーを計画しましたね? 」
「知るかよ。俺はただの商売人だ」
シラを切り通そうとする。
いつまで言い逃れできるのか?
その震えた口から早く真実を語らなければ次はあなただ。
「千田さん」
「うるさい! 仲間だって証拠がどこにある? 」
頑なに拒否。まだ尋ねてないのに先回りする周到さ。
ただの間抜けにも見えるが。
「秘密があるんでしょう? 話してください」
説得にかかる。
「ああ行きのバスで吐いちまった。秘密にしようと思ったのによ」
素直にどうでもいい秘密を打ち明ける。
明らかにわざとやっている。
「この際追及しません。だから話してください」
一応は探偵。秘密厳守は当然。
ただ依頼人の秘密のみ厳守。
だから洗いざらい警察にぶちまけるつもり。
犯罪者には厳しい。
「仲間割れも考えられるな。それから…… 」
相棒が揺さぶりをかける。
続く
出来たら温かいものを食べたかったが料理人も忙しい。文句は言えない。
それに二人も殺害されたショックで食欲もないと来れば仕方がないか。
「大丈夫ですよ。もう三時間もすれば迎えのバスがやって来ます。
皆で体を寄せ合えば怖くありません」
震える者に手を差し伸べる。
私としては出来ればガイドさんと抱き合っていたいが。まさかね……
おっと危ない危ない。妄想と現実の区別がつかなくなる前に捜査に戻る。
トップバッターはメガネの相方。
「お名前をどうぞ」
「関東から参りました奈良です」
まあ多少の矛盾は放置しよう。ふざけてる訳でもないので。
「奈良さんはあの龍牙さんと仲良しだとか」
「そんなんじゃありませんよ。ただ放っておけなくて。
あの人ぼうっとしてるって言うかトイレから出て来てもなぜか笑ってるんですよ。
もう危なっかしいったらありません。化け物見た自慢したかと思えば震えてるし」
龍牙の異常ぶりを詳細に語る。どうも奈良は世話好きらしい。
「ご兄弟は? 」
「二つ違いの兄が一人」
どうやら龍牙をその兄と重ね合わせてるのだろう。
「二人は前からの知り合いですか? 」
「うん…… このバス旅で」
若干の間があった。何か隠しごとでもある?
「それで奈良さんはここに何しに来たんですか? 」
「もちろん目的地にたどり着くためさ。俺たちはゴールを目指してる」
急に哲学的な話をし始めた。難関過ぎて理解できない。
まさか私の追及を逃れるための作戦? ただ怪しまれるだけだと思うが。
「被害者二人との関係は? 」
「さあ我々はただバス旅をしてるだけ」
我々とは龍牙さんのこと? まったく話がかみ合わない。
「何か気になった点は? 」
「そうだな。絵かな。狼が睨みつけるみたいで怖い」
「狼の絵が飾られていると」
「ああ、あのおっさんも言ってたよ。ケルベロスだって魔犬だって騒いでた」
龍牙さんは犬の絵に恐怖を感じあんなに震えていたのか。
「ではそれから疑わしい人物を見たとか気になったとかありますか? 」
「よくあの姉ちゃんの部屋に黒木って奴が出入りしてたっけ。それくらいかな。
ああそれと鑑定士も販売員も部屋に入っていくとこを見たな」
どうやら人の出入りが気になるらしい。
ストーカー気質? これは要注意人物だ。
「それで嫉妬して? 」
「冗談でしょう。俺はただ気になっただけだ」
まあいいか。貴重な目撃談。メモをしておこう。
「誰が犯人だと思う? 」
相棒が直球の質問。
「それは…… あの黒木じゃないのか。知らないけど」
最後の質問にもきっちり答えてくれた。
続いて若い販売員の男。
「名前は? 」
「千田です」
この中で一番若い男。
「被害者たちとはどのような関係でしょうか? 」
「知らないね。見たことも聞いたこともない」
「お仲間だと聞きましたが」
「それがどうした? 俺は関係ないね。いい加減商売の邪魔は止めてくれ」
彼は間違いなくこのおかしなバスツアーの内情を知っている。
そうでなければ売りつけるなど出来はしない。
少なくても鑑定士とグルで悪さをしているに違いない。
ここで白状してもらいたいがまだ言い逃れするつもりらしい。
「あなたはこのツアーを計画しましたね? 」
「知るかよ。俺はただの商売人だ」
シラを切り通そうとする。
いつまで言い逃れできるのか?
その震えた口から早く真実を語らなければ次はあなただ。
「千田さん」
「うるさい! 仲間だって証拠がどこにある? 」
頑なに拒否。まだ尋ねてないのに先回りする周到さ。
ただの間抜けにも見えるが。
「秘密があるんでしょう? 話してください」
説得にかかる。
「ああ行きのバスで吐いちまった。秘密にしようと思ったのによ」
素直にどうでもいい秘密を打ち明ける。
明らかにわざとやっている。
「この際追及しません。だから話してください」
一応は探偵。秘密厳守は当然。
ただ依頼人の秘密のみ厳守。
だから洗いざらい警察にぶちまけるつもり。
犯罪者には厳しい。
「仲間割れも考えられるな。それから…… 」
相棒が揺さぶりをかける。
続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
四重奏連続殺人事件
エノサンサン
ミステリー
概 要
探偵倉科源一郎が、数年前まで交際していたバイオリニスト亀井綾乃の周辺で連続して三件不審な死亡事件が起きた。
倉科が最初に事件を知ったのは、かつての知人三村里香の殺害事件で、亀井綾乃は三村里香の近所に住み、三村里香にビオラを教えていた。
事件の少し前、倉科は三村里香が勤めるクラブで彼女から亀井綾乃の周辺で起きている奇妙な話を聞いた。
その内容は、亀井綾乃の親友であり、四重奏ユニットを組んでいた、福岡在住チェリストの榊江利子、名古屋在住バイオリにストの鈴木正恵が連続して不審な死を遂げたことであった。
三村里香は四重奏のメンバーとは何の関係も無いのが不思議に思えたが……。
探偵学校講師として名古屋出張の際、学生時代からの友人である弁護士の竹橋登から鈴木正恵の不審死について聞かされ、倉科は深い疑いを持った。
弁護士竹橋の依頼で福岡に赴いた倉科は、榊江利子の死に益々疑問を深めた。
福岡は密室殺人と名古屋の件は、偽装事故との疑いを深めるが確証がつかめない。
クラシック業界、音楽大学の闇、南満州鉄道、東トルキスタン独立運動、戦前からの深いつながり等、倉科を迷わせ、翻弄する錯綜した事態の中で、偶然に、推理の糸口が見つかり、解明に向けた倉科の奮闘が始まる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
神刑事シェル~国内最大の謎~
鈴莉
ミステリー
主人公はシェル。25歳の警察官。シェルはすごく頭がきれて、これまでいくつもの事件を解決してきたため、周りからは一目おかれた存在でみんなからは『神刑事』と呼ばれている。そんな、シェルがいろいろな事件を解決していく。
そして、シェルには仲のいい3年先輩の黒木幸助と1年後輩の坂崎智喜がいる。
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
君と始めるデストーリー
青柳リド
ミステリー
ある4人の少年少女に4つの能力が授けられた。
そして1人の少女は思いついた。
「復讐劇を始めましょう。」
4つの能力の謎を解き明かしながら復讐をしていくミステリー小説!
果たして4人の能力者達は真実に辿り着くことができるのだろうか...
WRONG~胡乱~【完結済】
桜坂詠恋
ミステリー
「それは冒涜か、それとも芸術──? 見よ。心掻き乱す、美しき狂気を──!」
コンテナ埠頭で発見された、「サモトラケのニケ」を模した奇妙な死体。
警視庁捜査一課の刑事、氷室と相棒内海は、その異様な光景に言葉を失う。
その直後、氷室たちは偶然にも激しいカーチェイスの末、車を運転していた佐伯という男を逮捕した。
そしてその男の車からは、埠頭の被害者、そしてそれ以外にも多くのDNAが!
これを皮切りに、氷室と佐伯の戦いが幕を開けた──。
本質と執着が絡み合う、未曾有のサスペンス!
連続殺人事件の奥に潜むものとは──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる