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明後日探偵
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ついに追い詰められる。
「私は高校生探偵の…… 」
「そんなはずありませんよね。お二人とも昨夜お酒を召し上がっていたはずです」
鋭い。これは助手にはもってこい。
「ははは…… ばれましたか。よろしいお教えしましょう」
「私は探偵の明後ニチルと言います。
明後日探偵と呼ばれてます。
そして彼はハンタ。私の相棒です。
以後よろしく。ではそろそろお暇しまして」
この流れなら自然だ。
事件は起きたが我々の管轄外。
だからここは挨拶を済まし館を出るべき。
急げば暗くなる前に依頼人の元に辿り着けるはず。
さあ振り返らずに前に進もう。
目の前の事件を逃げだすこの愚かな探偵をお許しください。
ホテルを後にする。
下山開始。
全速力で山を下り再び登る。もう想像しただけで疲れる。
あれあいつは?
相棒の姿が見えない。
まずい。捕まっちまったか?
まったく世話の焼ける。
結局ロビーに集められる。
「あなた方はなぜここに? 」
メイドらしき人物の尋問を受ける。
バスガイドだとか。お婆さんがバスガイドさんと言っていたっけ。
「なぜって。間違えちゃってはい…… 」
「どう言うことか分かるようにご説明願いますか? 」
随分と強気だ。メイドの分際で生意気な。
さっきまであわわわ…… と腰を抜かしていたくせに。
「ここは薄曇り山ではないんですか? 」
「はあ? ここはドスグロ山ですけど」
確証を得る。やはり間違っていたか。
「うんお隣でしたか。どうもおかしいと思ったんだよな」
ドスグロ山と薄曇り山はお隣の山。
名前が似ているので間違ったと見ていいだろう。
ただこれは私の落ち度ではない。
相棒が大丈夫だと言うからただ着いてきたのだ。
間違っても自分のミスではない。
あーもう本当に情けない。
「それであちらでは資産家の親族による定番の醜い争いが起きてまして……
その一人から依頼があり代理人として向かった次第。
実は助手を先に向かわせたんですがね。ほらここもあそこも圏外でして。
それで連絡は取れずじまい。連絡と言えば警察にはもう通報しました?
もちろんしているとは思いますが一応は念の為」
まずは現状を理解してもらうところから始めよう。
そうすれば急いでここを離れることも理解してもらえるだろう。
「もちろん警察に連絡を取ろうとしましたがなぜか繋がらないんです」
電話の故障でなければ意図的に誰かが切ったことになる。
それはここが危険だと言う合図。急いで脱出するのが賢明。
後はどう説得するかだが。
「このホテルの電話は一か所だけでしょうか? 」
「ええさほど広くありませんので一台だけ。もちろん内線も。たぶん繋がってない」
「非常用の無線は備え付けてないんですか? 」
女は首を振る。
あればとっくに使っていると語気を強める。
「これはまずい。閉じ込められる前に脱出しなくては。それでは急ぎましょう」
「申し訳ありません。無理なんです。車が一台では皆さんをお連れ出来ない」
どうやら話しぶりからこのツアーの責任者で従業員と言ったところか。
「全員で脱出する必要はないのでは? 我々だけでも先にその車で下山すべきです。
そうでないなら皆さんで歩いて下山するか」
迫るが決してうんとは言わない。
今は一大事だと言うのに決断できずにいる。
その優柔不断さが命取りになる。
もう一人殺されているのだ。
ここでじっとしてるよりはいくらかマシなはず。
だがバスが来る明日まで待つようにとしか言わない。
そのバスとて来るとは限らない。
もし犯人の罠であるならば用意周到に計画されてるはずだ。
「いいですか。待つのは構いません。私も待つのは得意な方ですからね。
ただこれが犯人の仕組んだことであるなら間違いなく次も事件が起こる。
しかも殺人だ。一人とは限らない。あと何人殺されるかさえ不明。
もしかしたら皆殺しにする気かも知れない」
とんでもなく恐ろしい話だがあり得ないことではない。
「一刻も早くここを立ち去りましょう。せめて自分たちだけでも」
懇願する。これ以上依頼人を待たせられない。
信用に関わる。いくら明後日探偵と言えども笑ってごまかせない。
続く
「私は高校生探偵の…… 」
「そんなはずありませんよね。お二人とも昨夜お酒を召し上がっていたはずです」
鋭い。これは助手にはもってこい。
「ははは…… ばれましたか。よろしいお教えしましょう」
「私は探偵の明後ニチルと言います。
明後日探偵と呼ばれてます。
そして彼はハンタ。私の相棒です。
以後よろしく。ではそろそろお暇しまして」
この流れなら自然だ。
事件は起きたが我々の管轄外。
だからここは挨拶を済まし館を出るべき。
急げば暗くなる前に依頼人の元に辿り着けるはず。
さあ振り返らずに前に進もう。
目の前の事件を逃げだすこの愚かな探偵をお許しください。
ホテルを後にする。
下山開始。
全速力で山を下り再び登る。もう想像しただけで疲れる。
あれあいつは?
相棒の姿が見えない。
まずい。捕まっちまったか?
まったく世話の焼ける。
結局ロビーに集められる。
「あなた方はなぜここに? 」
メイドらしき人物の尋問を受ける。
バスガイドだとか。お婆さんがバスガイドさんと言っていたっけ。
「なぜって。間違えちゃってはい…… 」
「どう言うことか分かるようにご説明願いますか? 」
随分と強気だ。メイドの分際で生意気な。
さっきまであわわわ…… と腰を抜かしていたくせに。
「ここは薄曇り山ではないんですか? 」
「はあ? ここはドスグロ山ですけど」
確証を得る。やはり間違っていたか。
「うんお隣でしたか。どうもおかしいと思ったんだよな」
ドスグロ山と薄曇り山はお隣の山。
名前が似ているので間違ったと見ていいだろう。
ただこれは私の落ち度ではない。
相棒が大丈夫だと言うからただ着いてきたのだ。
間違っても自分のミスではない。
あーもう本当に情けない。
「それであちらでは資産家の親族による定番の醜い争いが起きてまして……
その一人から依頼があり代理人として向かった次第。
実は助手を先に向かわせたんですがね。ほらここもあそこも圏外でして。
それで連絡は取れずじまい。連絡と言えば警察にはもう通報しました?
もちろんしているとは思いますが一応は念の為」
まずは現状を理解してもらうところから始めよう。
そうすれば急いでここを離れることも理解してもらえるだろう。
「もちろん警察に連絡を取ろうとしましたがなぜか繋がらないんです」
電話の故障でなければ意図的に誰かが切ったことになる。
それはここが危険だと言う合図。急いで脱出するのが賢明。
後はどう説得するかだが。
「このホテルの電話は一か所だけでしょうか? 」
「ええさほど広くありませんので一台だけ。もちろん内線も。たぶん繋がってない」
「非常用の無線は備え付けてないんですか? 」
女は首を振る。
あればとっくに使っていると語気を強める。
「これはまずい。閉じ込められる前に脱出しなくては。それでは急ぎましょう」
「申し訳ありません。無理なんです。車が一台では皆さんをお連れ出来ない」
どうやら話しぶりからこのツアーの責任者で従業員と言ったところか。
「全員で脱出する必要はないのでは? 我々だけでも先にその車で下山すべきです。
そうでないなら皆さんで歩いて下山するか」
迫るが決してうんとは言わない。
今は一大事だと言うのに決断できずにいる。
その優柔不断さが命取りになる。
もう一人殺されているのだ。
ここでじっとしてるよりはいくらかマシなはず。
だがバスが来る明日まで待つようにとしか言わない。
そのバスとて来るとは限らない。
もし犯人の罠であるならば用意周到に計画されてるはずだ。
「いいですか。待つのは構いません。私も待つのは得意な方ですからね。
ただこれが犯人の仕組んだことであるなら間違いなく次も事件が起こる。
しかも殺人だ。一人とは限らない。あと何人殺されるかさえ不明。
もしかしたら皆殺しにする気かも知れない」
とんでもなく恐ろしい話だがあり得ないことではない。
「一刻も早くここを立ち去りましょう。せめて自分たちだけでも」
懇願する。これ以上依頼人を待たせられない。
信用に関わる。いくら明後日探偵と言えども笑ってごまかせない。
続く
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