ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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バス旅

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昼食を済ましバスに戻る。
さあ次だ。ミサさんも上機嫌。距離もグッと縮まった気がする。
思い込みでなければ好感触。これは行ける。
うん。良い雰囲気だ。このままどこまでも。
そんな雰囲気をぶち壊す出来事が。
バスが出発するとすぐに気持ち悪いと訴える奴が。

ガイドが近くに行きお世話。
まったくあの男少し格好いいからと弱った振りでガイドの気を引こうとして。
何て厚かましいガキだ。
おっとつい興奮してしまった。冷静に冷静に。
彼女が今回のツアーの責任者。それともう一人。先行してホテルで出迎える者。
合わせて二名。彼女たちのおもてなしを受ける。
パンフレットには二人の顔が載っている。
写真よりも実物の方が何倍いいか。
彼女がこうなのだからもう片方だって期待できる。
二人と仲良くなれたらと。

男はまだ気持ち悪いと泣き言ばかり。
まったく無料のバス旅でどんだけ甘えてるんだか。
怒りさえ覚える。
そんな奴放っておけ!
つい感情的になるがさすがに本人の前では言えない。
「どうしたの気になる? 」
「いや大丈夫かなと。吐かれたら大変だろ? 」
「ふふふ…… そうね」 
構ってくれなくなった。どうしたまさかあの男に興味が移ったか?
嫌になるなまったく。あいつ何者だよ?
このバス旅の空気を乱すとんでもない野郎。

うわあくさ!
ついにブツを出しちまった。
どうやら彼のあれは演技ではなかったようだ。
ちょっと若く野心家のこの男。
まだ二十代だろうがいい服を着てやがる。
白のジャケットはブランドものだしズボンも個性的。
時計はブルガリ。靴はダメだ。もう分からない。
被害は個性的なズボンにまで及ぶ。
明後日までの旅程をどう乗り切るつもりだ?
まさか一人目の脱落者。
まあ今帰った方が賢明。
俺にすべて持って行かれる前に逃走するがいい。
この臆病者!
勝手に決めつけてしまう。悪かったかな。

バスは二時間程市街を回りついに最終目的地に向かう。
「皆さんここでトイレを済ませてください」
トイレ休憩。
こういう時に必ず遅れてくるだらしない奴。
待つほうの身にもなって欲しい。
学校の遠足ではないんだから。
汗を垂らした汚らしいおっさん。
洗ったんだか洗ってないんだかの手をズボンの後ろで拭き下手な言い訳に終始する。
ああ蛯子さん? いや違った海老沢さんだ。
その横で同じように言い訳をこねるのはさっきの男。
まあ彼の場合は仕方がないか。許してやろう。いや許さない!
「さあ早くしてください。出発しますよ! 」

今は三時過ぎ。
目的地まではノーストップ二時間弱の旅。
ただ気になることが一つ。
日程だ。いくら無料でもこの後の予定が知らされていない。
何でもホテルは山の上にあるのだとか。
まあ比喩だろうがとにかくそんなとこに今から連れて行かれる。
一体何しに? 俺は暇だったから応募したが他の者は一体何しに来たのだろう? 

ついに始まる。騙し騙されの化かし合い。
どちらが勝とうが運命に身を任せるしかない。

「えー今から登る山はドスグロ山と言いましていわくつきの山であります」
誰も聞いてやしない。それぞれ景色を見たりおしゃべりをしたりゲームをしたり。
俺だって今はミサさんとべったり。
いい感じに仕上がっていく。男共の視線が辛い。
それにしてもこの道不安定だ。
ちょっとでも立ち上がろうとしたらよろけてしまう。
ついミサの方によろけてしまうから困り果てる。
「もう大丈夫? 気を付けてね」
俺はまだ若い。だからそんな風に労わらないでくれ。
思ってたよりもいい子かも知れない。第一印象よりも好感度が増す。
これも彼女の手ってか? 疑り深くていけない。
「あのーミサさん。いくつなの? 」
気になる。こんな風に自然に聞けば教えてくれるはず。
「もう! 教えてあげない! 」
まあ確かに女性に年を聞くのはご法度。
だがそれは同時に三十を過ぎてることにもなる。うーんどうも間違えたかな。

「間もなく雷道です」
誰もガイドの話を聞いていない。
これではいくら何でもかわいそう。やる気を失ったらどうする?
「雷道は雷人さんの通り道とされています。
地元ではこれ以上行くと雷人さんに叱られるとめったに登りません。
ですからここからは人が通ることはないでしょう」
ガイドの案内を誰も聞かずに皆好き勝手に過ごす。

雷道に差し掛った。

                   続く
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