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リンとお兄ちゃん

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お兄ちゃん探偵アイリス・マッキンの事件簿


カモメが空を舞い、餌に向かって一直線。
その眼に太陽が反射する。

「お嬢様。本当に一人でよろしいのですか? 」
「もう! 私をいくつだと思っているの? 」
「しかし…… 一人で行かれて何かあっては旦那様に申し開きができません」
「あーもう! うるさい! 」

いつもこれだから嫌になってしまう。
パパはパパ。私は私。お兄ちゃんはお兄ちゃんだ。

「ここまででいいです」

汽笛が鳴る。
間もなく出港の時間だ。

私はお兄ちゃん探偵アイリス・マッキン。

難事件はお手のもの。
解決率は驚異のあれ?
計算ができないのよね。
まあ適当でいいよね。
百パーセント解決!

この船は三浜島まで。
そこからは警察の船で現場の島を目指す。
三時間以上の長旅。
本来ならヘリで直行するはずだったが警察のヘリが出払っており仕方なく船で向かうことになった。

「あー重い重い! 」
「持ってやろうか? 」

またも寄ってきました。親切な振りをしたナンパ男。
邪魔なのよね。どこかに行きなさいよ。

「俺、金第一って言うんだ。よろしくな」
見るからに生意気そうなガキ。
まだ高校生だとか。

「実は秘密なんだけど警察と関係があるんだ。すげえだろ? 」
変な自慢に終始するガキ。

「あら詳しく教えてくださらない? 」
「離島で殺人事件が起きてそこにはファントムが絡んでるらしい。
だからもう俺が解決するしかないって思ってね」
「ファントムですか? 物好きお兄ちゃん」
「えっ? 」
「おーい! 」
むさくるしい無精ひげのおじさまが走ってくる。

「悪い! 悪い! 待ったか? 」
「うわ危ない! 」 
男が小銭をばら撒いた。
「何やってんだよ! オッ…… 」
あらら…… 見てられないわね。

出港の時間となる。
「うわ! 待ってくれ! 俺の金! 」
「諦めろ! 」
男がガキを諭す。
しかしガキは言うことを聞こうとしない。

目の前で起こる騒動。
ガキは船を下りて金をかき集める。
何て哀れなのかしら。

「物好きなお兄ちゃん。バイバイ」
無情にも船は陸を離れた。

「そんなああ! 」
汽笛と共にガキの絶叫が響き渡った。

金第一が仇となる。
今更遅い。もうどうにもならない。

船は予定の進路を辿った。
一時間近く遅れたが無事三浜島へ。
ヘリに乗り離島へ。

ようやく目的地に到着。

あーあ。眠い。眠い。
日傘を差し島へ。出迎えを受ける。

「ようこそお出で下さいました。私は…… 」
「髭のお兄ちゃん! 」
「何じゃそりゃ? 」

「こっちは…… 」
「普通お兄ちゃん! 」
さして特徴が無いので普通でいいかな。

「普通だとよ。あははは! 」
「先輩! 」 
自己紹介を終える。

刑事二人組。
今回の依頼者。

「それでお兄ちゃんたちは私に何の用? 」
「あのですね…… 」
「ちょっと待ってくれ! もう一人呼んだんだがどうしたかなあ? 」
「私では信用ならないと? 」
「いやそうじゃないが。こっちにもやり方と言うものがあってな。あんた知らねえか? 」
物好きお兄ちゃん。探偵だったんだ……

「いえ見ませんでしたよ。それよりも事件の詳細を教えてくださらない? 」
「うーん」
頭を掻く男。

「まあいいか。事件はなこの無人島で起きたんだ。おい教えて差し上げろ」
「事件は一週間前に遡ります」
「はあ…… 」

「この島付近を飛行中のヘリがSOSの文字を発見。
急行した者が男を発見。たまたま偶然死体を掘り起こしたところを見つかり御用。
被害者は高名な博士だとかですぐに身元が割れました。
男の証言から被害者と口論となり殺害したことが判明したのですが……
男は博士の助手をしていたとかで普段からの扱いに不満を持っていたとか。
何が男を狂気に駆り立てたのかは不明ですが男が博士を殺害したのは間違いないかと。
素直なもので全て吐いてくれました。以上です」

「あらあら? 私の手を煩わすほどの事件ではなさそうね」
「それが違うんです」
違う? まあそんなに単純なわけないか。

「一緒に埋められていた凶器や現場の状況から彼が博士を殺害した犯人ではないことが分かったんです」
「ちょっと待って! 他に人はいなかったの? 」
「はい。一応すべてを見て回りました。しかし人は見つからずその痕跡もありません」
刑事たちは頭を掻き唸るばかりでお手上げ状態。

「では整理すると無人島に二人の男。一人が殺されもう一人は被疑者。だけど男はもう一人を殺していない? 」
「はい。どういうことでしょう? 」
私に聞かれても困る。

「さあ、不可能殺人とでもいえばいいのかしら? 」
「だがあいつは自分で白状したんですぜ。しかも掘り出していたんだから間違いなくクロですぜ」
髭のお兄ちゃんが自信たっぷりに胸を張る。

「閃いた! 博士は自殺したのよ。それを埋めただけなんじゃない」
「確かに一理ありますね。ねえ先輩」
「いや待て! おかしいだろ。だったらなぜそう証言しない? 」
「尋問を受けて耐えられなくて…… 」
「そんな酷いかよ。この時代によ」
「有り得なくはないでしょう? 」

「ふう…… 」
ため息をつく髭のお兄ちゃん。

「あんたはそんなものか。解決率百パーセントは嘘だな」
「もうちょっと! 髭のお兄ちゃん。失礼でしょう! 」
「仕方ねえだろ! 事実なんだから」
「事実? 」
「ああ。間違いなく殺しだ。自殺でも事故でもねえ。殺人だ! 凶器は近くにあったスコップ。
犯人は助手じゃねえ! これだけは分かっている」
「もう! 最初に教えてよね。大切な情報は共有するべきでしょう? 」
「はいはい」

もう当てにはしていないらしい。
これは舐められたものだ。
私アイリス・マッキンがプライドにかけてもこの事件を解決しなくてはいけない。

「分かりました。さっそくいいかしら」
「へい。お嬢さん。ご自由に」
「助手の方とお会いしたいのですが? 」
「ああ。それは構わねいよ。ちょうどこの島に連れてきたところだ」
「ええっ? 」
「だってよ。疑いは晴れたんだ。今は参考人として捜査協力してもらっている。
ほらあそこのあれ…… いねえ。ああ。いたいた。ビーチでくつろいでやがる」
男は水浴びを終えビーチに腰を下ろした。

「では引き続き島の調査をお願い! 何か見つかるかもしれないから」
「へいへい」
やる気の無い髭お兄ちゃん。
私がいくら優秀でも協力が無くては事件解決もままならない。

二人と別れ男の元に向かう。
ちょっと怖そう。
身の危険を感じる。
でも仕方ないこと。事件解決には回り道はしていられない。
男の懐に入るとしよう。

えっと…… 何お兄ちゃんがいいかな?

男が立ち上がった。
私をじっと見る。
大丈夫。怖くない。

「お兄ちゃん! 」
「うん? 」
「ねえ…… 」
あまり何も考えずに突撃してしまったがこの後どうしましょう?

「ああ…… 」
男が驚いている。

チャンス。

「えへへへ…… お兄ちゃん! 」
「リン? 」 
「えっ? 」
「リン! リンなのか? 」

突然のことで頭が混乱。固まってしまう。
リンって誰? 

「リン! リン! お前まだ生きていたのか? 」
一体何を……
男が走ってくる。
逃げる訳にも行かない。

「リン! 」
男が手を広げ抱き着いてきた。
「ちょっと…… お兄ちゃん…… 」
機嫌を損ねる訳にはいかない。成されるがまま抱き合う。

「リン! 嬉しいぞ! 」
もうこの男は何を勘違いしてるのかしら?
でも仕方がない。このまま続けるしかなさそうね。

「お兄ちゃん。どうしたの? 」
「リンにまた会えてうれしいよ」
「リンも。えへへへ…… 」
この男イカレテル。

「他の奴はどうした? 」
「えっとね…… 」
「アイミは? 亜砂は? ムーちゃんも? 空蝉だって? 」
飲み屋のねーちゃんかよ。

「リン…… 」

もう仕方がない。正直に言おう。

「リン分かんない! 」
「そうかそうか。リンだもんな。仕方ないよ」

なぜかうまくいった。

「ねえお兄ちゃん。誰が博士を殺したの? 」
面倒くさいのは嫌い。本人に直接問いただすのが一番早い。
さあ正直に話してくれるかしら。

「おお…… 俺じゃないよ」
「まだ嘘つくの? 」
「信じてくれリン! 俺は見たんだ」
「何を見たのお兄ちゃん? 」
「奴が殺したのを見ちまった」
「奴って誰? 」
「それは…… 言えない! 」
「リンにも教えてくれないの? 」
「だって…… 」
「もういいよ! 信じてくれないんだね」
「リン…… 」

もうひと押しだ。

「さよならお兄ちゃん! 」
「リン! ダメだ! 行くな! 」

食いついてきた。さあどうする?

「いいんだ。リンなんか…… 」
「待ってくれリン! 」
男に手を掴まれる。
強引な人。少しだけ興奮する。

「お兄ちゃん…… 」
「分かったよ。言うよ。博士を殺したのは実はゲンジなんだ」
「ゲンジってあなたじゃない! 」
まずい。ついつい素が出てしまった。

「リン? お前は誰だ? 」
「えへへへ…… お兄ちゃん。リンはリンだよ」
「勘違いか。まあいいや…… 」
危ない危ない。何とか疑われずに済んだ。

「ゲンジは俺じゃない」
「ゲンジじゃない? 」
「俺はゲンジでもゲンシでもない。本当の名前は平良」

「平良? 」
「平良防人だ」
「タイラ…… ボウト? 」
「ああ、それが俺の本当の名前だ」
お兄ちゃん…… 
「ではゲンジお兄ちゃんはどこ? 」
さっきからこいつの言ってることが理解できない。

「俺はあの日見たのさ。ゲンジが博士をスコップで撲殺するところをな」
「お兄ちゃん…… 」
「それこそ何回も何回もだ。今もその光景が夢に出てくる」

「ねえ、それでゲンジお兄ちゃんは? 」
「もうこの世にはいない」
「どこ? どこ? 」
「島のどこかに埋めてある。あははは! 」

「あなたは博士を殺していない? 」
「ああ。俺には動機が無い。ただの爺に殺意が生じる訳がない」
「ゲンジお兄ちゃんはどこ? 」
「だから…… あれ。お前よく見るとリンじゃない」
なかなか冷静だ。

「お前は何者だ? リンはどうした? 」
「あなたこそ何者? 」
「俺はこの島の守り人」
「はああ? 」
「宝に近づく人間を排除するのが俺の役目だ。俺はこの島に代々から受け継がれた財宝を守る使命がある」
「ではその為にゲンジお兄ちゃんを殺したの? 」
「ああ…… そうするしかなかった」

男の告白が続く。

「奴と俺は似ていてな。年も背格好も近い。奴が財宝に目が眩まなければ今も楽しくやっていただろう」

「ゲンジお兄ちゃんはどこ? 」

「ははは! そんなことはどうでも良い。
俺がいる。お前がいる。ただそれだけでいいじゃないか」

「よくない! ちっともよくない! 」
「リン…… 」

「教えて? 博士は誰が殺したの? 」
「奴だ! ゲンジに決まっている! 」
「ではそのゲンジを殺したのは? 」
「俺だ! 俺がゲンジを殺したんだ! 」

「ハイそこまで! 」
刑事二人がお兄ちゃんを取り押さえる。

「自供したな。これで後は死体をどこに隠したかだ。吐いてもらおうか」
「リンお前! 俺を嵌めたのか? 」
「ううん。違う! お兄ちゃんが間抜けなんだよ! 」

「リン! リン! 」
男は刑事を振り払う。

「俺が何をした? ただ財宝を魔の手から救っただけだ! 」
「お前には死体の居所を吐いてもらわなくてはな。連れていけ! 」
「はい」

「ちょっと待ってくれ! 止めてくれ! 頼む! 」
男は慌ててこちらを見る。目が何かを訴えかけている。

「リン! リン! 」
男の苦しみと悲しみが嫌と言うほど伝わってくる。
もうダメ!

「待って! お兄ちゃんを放してあげて」
「こんな奴。庇うんですか? 」
「ううん。そうじゃない。どうせ彼はここから逃げれない。
今までも逃げることはできた。でもしなかった」

「それにはボートがいるからな」

「ううん。彼はたぶんこの島から出たことが無いんだと思う。
いくら逃げようとしても逃げるところなんてどこにも……
そうでしょうお兄ちゃん? 」

「ああ。だから水だって怖いし高いところも…… 」
「お兄ちゃん…… 」

「俺はゲンジになりたかった。どこにでも行けるゲンジが羨ましかった」
「もういいよお兄ちゃん」

「俺は! 俺は! なんてことをしてしまったんだ! 」

ついに現実に引き戻されたゲンジ。もうどうすることもできない。

「あんた世話頼むわ。一緒についてやってくれ」
刑事が手を引いた。

ビーチで二人きり。
「お兄ちゃんごめんね」
「何を謝る? 」 
「私の役割はここまで。後は刑事さんに協力してあげて。ごめんねお兄ちゃん」
「リン…… 」

「さよならお兄ちゃん! 」
「止めてくれリン! これ以上俺を悲しませないでくれ! 」
「行くよ。お兄ちゃん! また会えるよ。今度はここではないどこかで」

「お兄ちゃん! 」
「リン! 」
「お兄ちゃん! 」
「リン! 」

うおおおお!

再び男の叫びが島全体に響き渡る。

リン! リン!

こうして事件は解決した。

残された謎であったゲンジの死体を山近くの隠れ家で発見。

今回の事件の経緯。
まず博士をゲンジが殺害。
そのゲンジをこの平良防人が殺害。
遺体はすでに埋められていた。

終わってみれば単純な事件であった。

お兄ちゃん探偵アイリス・マッキン華麗に事件を解決。

これにて一件落着。

物語は幕を閉じる。
           
              <完>

この物語はフィクションです。

夏への招待状 特別篇(解決編)

十月七日
二廻歩



































アイリス・マッキン
あ! イリス・ マキ ん!
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