18 / 21
容疑者は人間なんかじゃない!
しおりを挟む
『容疑者は人間なんかじゃない! 』
取調室。
「お前がやったんだろ? 白状しやがれ」
刑事が二人。ベテラン刑事は鬼の形相で自白を迫りもう一人が取りなす。
飴と鞭の良いコンビネーションだ。
「刑事さん無理がありますよ。被害者はぐちゃぐちゃなんでしょう? 」
「それがどうした? この殺人鬼が」
「僕にはそんな力ありません。いえ人間には不可能なんですよこの犯行は」
犯人と決めつけ話をまともに聞かない。これでは事件は解決しない。
「そうですね。申し訳ありません。では念のため社会保障番号をお見せください」
選手交代。若い刑事が話を聞く。
「あなたはマスコミの方? 」
「いえ。フリーのルポライターです。本社は東京にあります」
「そうですか。ではあくまで犯人ではないと? 」
「信じてくださいよ刑事さん。僕はただ偶然居合わせただけなんです」
「しかし現場には…… 」
「他にも容疑者が居たでしょう? 」
僕は知っている。怪しいのが四体。
事件の詳細はこうだ。
ぐちゃぐちゃな遺体。顔の判別も出来ない。全身バラバラ。
凄惨な現場。そこにはお掃除ロボットのクリンクリン。
配達ロボのデリー。ホームメイカーのライク。そして番犬ロボのバウロー。
どう考えても奴らの方が怪しい。
「刑事さん。誤作動や故障に暴走など考えられないんですか? 」
「うるせい。殺人事件なんだよ。だったら犯人は人間だろ? 」
ベテラン刑事が我慢できずに割り込む。
「しかし例えば事故。お掃除ロボが暴走して家主をきれいにしたとか? 」
「馬鹿かお前? 」
刑事はもうそれしか言わなくなった。
ならばこちらも無視して黙る。
「ほお黙秘か? いい度胸じゃねえか。お掃除ロボットが家主を殺害するか? 」
「だってそうとしか」
「分かった。そうだと仮定しよう。だがいくらかかると思ってるんだ? 」
刑事は回収費用と補償費用が莫大になると迫る。
だがそんなことは関係ない。なぜこうもやる気がないのだろう?
「でしたらライク。日頃からのモラハラが凶行に走らせたとか? 」
全身が血まみれで明らかに怪しい。
「ははは…… 製造元に問い合わせてみたが日本語も英語も通じやしない。
骨が折れるんだわ。それに比べてお前は自供してもらえば即逮捕だ」
「それでは誤認逮捕。しかも分かっていながらとはより悪質」
そんな脅し通用しない。ふざけるのもいい加減にしろ。
「お前がやったんだろ? そろそろ認めたらどうだ? 」
「でしたら配達ロボのデリー」
偶然居合わせたのは不自然過ぎる。何か知ってるはず。
「デリーを尋問してください」
「いやそれは無理だ。デリーは『ヘイお待ち』と『毎度』としか答えない。
いかれちまっているのさ。だから供述を取るのは不可能。
大体奴の会社は世界的大企業。もしトラブルが発覚すれば株価は大暴落。
相手弁護団は手強い。訴えられたらとてもじゃないがクビでは済まない。
その点お前は国選弁護人だろ? なあ認めちまいな。楽になるぞ」
くそ。どこまで馬鹿にする気だ。
「だったら番犬ロボ。彼が噛みついたのでは? 飼い犬に噛まれると言うでしょう。
それに惨劇が起きたのは番犬が機能してない証拠」
「うーん。だがこの番犬ロボは人間国宝が作ったもの。
だから間違いはない。間違いはないんだ」
説得されそうになってしまう。
「しかし人間国宝にも間違いはあるでしょう? 」
「ある訳ない。いやあっては困る。もっと言うとあったとは口が裂けても言えない」
「そんな馬鹿な」
刑事が睨む。僕も負けじと見つめる。睨み合う形に。
「ふう…… なあ認めちまいなとは言わない。ただ補償はするぜ」
「犯人を野放しにする気ですか? 」
「お前。上級国民か? 」
「さあただのルポライターです」
「お大臣の息子か? 」
首を振る。
「お前の親父増税したことは? メガネか? 」
「いいえ」
「御曹司か? 」
「まさか」
「だったら大人しく認めるんだな。相手ロボットが悪かった」
「そんな。冗談でしょう? 」
ここまで腐っているとは思わなかった。もう信じられない。
トントン
トントン
もう一人刑事がやって来て耳打ちをしてる。
まさか僕の正体がばれた?
「失礼しました。あなたも人が悪い。そうならそうと最初から言えばいいのに。
いえ気を悪くなさらないで。それから今までの数々の無礼をお許しください」
ベテラン刑事の気持ち悪い程の手のひら返し。
さすがは組織の者。大人の対応を心得てる。
「まさか…… 」
「はい警視総監の弟君ではあられませんか。ではお帰りくださいもう結構ですよ」
まったく困ったな。何一つ解決してないじゃないか。
犯人はたぶんあのロボだと言うのにみすみす見逃すことになるとは。
「ではお気をつけて」
疑いは晴れた。ただ本当にこれで良かったのか?
刑事はやる気がないし前例のない事件だ。
僕だって確証がない。これ以上の捜査は無理だろう。
残念だが迷宮入りは免れそうにない。
残念だ。実に残念だ。
「あれ先輩。もう行っちゃいました? 事件解決に協力してもらおうと思ったのに」
「いや素人に動き回られちゃ迷惑だ」
「まあそうですね。それにしてもまだこのシリーズ続いてたんだ」
「うるせい。そんなことより新たな犯人候補を探すぞ」
「ええ誰にするつもりですか? 」
「そうだな。第一発見者で通報者の爺さんにでもするか」
「そうですね。ははは…… 」
こうして前例のない謎多き事件は一応の解決を見た。
<完>
取調室。
「お前がやったんだろ? 白状しやがれ」
刑事が二人。ベテラン刑事は鬼の形相で自白を迫りもう一人が取りなす。
飴と鞭の良いコンビネーションだ。
「刑事さん無理がありますよ。被害者はぐちゃぐちゃなんでしょう? 」
「それがどうした? この殺人鬼が」
「僕にはそんな力ありません。いえ人間には不可能なんですよこの犯行は」
犯人と決めつけ話をまともに聞かない。これでは事件は解決しない。
「そうですね。申し訳ありません。では念のため社会保障番号をお見せください」
選手交代。若い刑事が話を聞く。
「あなたはマスコミの方? 」
「いえ。フリーのルポライターです。本社は東京にあります」
「そうですか。ではあくまで犯人ではないと? 」
「信じてくださいよ刑事さん。僕はただ偶然居合わせただけなんです」
「しかし現場には…… 」
「他にも容疑者が居たでしょう? 」
僕は知っている。怪しいのが四体。
事件の詳細はこうだ。
ぐちゃぐちゃな遺体。顔の判別も出来ない。全身バラバラ。
凄惨な現場。そこにはお掃除ロボットのクリンクリン。
配達ロボのデリー。ホームメイカーのライク。そして番犬ロボのバウロー。
どう考えても奴らの方が怪しい。
「刑事さん。誤作動や故障に暴走など考えられないんですか? 」
「うるせい。殺人事件なんだよ。だったら犯人は人間だろ? 」
ベテラン刑事が我慢できずに割り込む。
「しかし例えば事故。お掃除ロボが暴走して家主をきれいにしたとか? 」
「馬鹿かお前? 」
刑事はもうそれしか言わなくなった。
ならばこちらも無視して黙る。
「ほお黙秘か? いい度胸じゃねえか。お掃除ロボットが家主を殺害するか? 」
「だってそうとしか」
「分かった。そうだと仮定しよう。だがいくらかかると思ってるんだ? 」
刑事は回収費用と補償費用が莫大になると迫る。
だがそんなことは関係ない。なぜこうもやる気がないのだろう?
「でしたらライク。日頃からのモラハラが凶行に走らせたとか? 」
全身が血まみれで明らかに怪しい。
「ははは…… 製造元に問い合わせてみたが日本語も英語も通じやしない。
骨が折れるんだわ。それに比べてお前は自供してもらえば即逮捕だ」
「それでは誤認逮捕。しかも分かっていながらとはより悪質」
そんな脅し通用しない。ふざけるのもいい加減にしろ。
「お前がやったんだろ? そろそろ認めたらどうだ? 」
「でしたら配達ロボのデリー」
偶然居合わせたのは不自然過ぎる。何か知ってるはず。
「デリーを尋問してください」
「いやそれは無理だ。デリーは『ヘイお待ち』と『毎度』としか答えない。
いかれちまっているのさ。だから供述を取るのは不可能。
大体奴の会社は世界的大企業。もしトラブルが発覚すれば株価は大暴落。
相手弁護団は手強い。訴えられたらとてもじゃないがクビでは済まない。
その点お前は国選弁護人だろ? なあ認めちまいな。楽になるぞ」
くそ。どこまで馬鹿にする気だ。
「だったら番犬ロボ。彼が噛みついたのでは? 飼い犬に噛まれると言うでしょう。
それに惨劇が起きたのは番犬が機能してない証拠」
「うーん。だがこの番犬ロボは人間国宝が作ったもの。
だから間違いはない。間違いはないんだ」
説得されそうになってしまう。
「しかし人間国宝にも間違いはあるでしょう? 」
「ある訳ない。いやあっては困る。もっと言うとあったとは口が裂けても言えない」
「そんな馬鹿な」
刑事が睨む。僕も負けじと見つめる。睨み合う形に。
「ふう…… なあ認めちまいなとは言わない。ただ補償はするぜ」
「犯人を野放しにする気ですか? 」
「お前。上級国民か? 」
「さあただのルポライターです」
「お大臣の息子か? 」
首を振る。
「お前の親父増税したことは? メガネか? 」
「いいえ」
「御曹司か? 」
「まさか」
「だったら大人しく認めるんだな。相手ロボットが悪かった」
「そんな。冗談でしょう? 」
ここまで腐っているとは思わなかった。もう信じられない。
トントン
トントン
もう一人刑事がやって来て耳打ちをしてる。
まさか僕の正体がばれた?
「失礼しました。あなたも人が悪い。そうならそうと最初から言えばいいのに。
いえ気を悪くなさらないで。それから今までの数々の無礼をお許しください」
ベテラン刑事の気持ち悪い程の手のひら返し。
さすがは組織の者。大人の対応を心得てる。
「まさか…… 」
「はい警視総監の弟君ではあられませんか。ではお帰りくださいもう結構ですよ」
まったく困ったな。何一つ解決してないじゃないか。
犯人はたぶんあのロボだと言うのにみすみす見逃すことになるとは。
「ではお気をつけて」
疑いは晴れた。ただ本当にこれで良かったのか?
刑事はやる気がないし前例のない事件だ。
僕だって確証がない。これ以上の捜査は無理だろう。
残念だが迷宮入りは免れそうにない。
残念だ。実に残念だ。
「あれ先輩。もう行っちゃいました? 事件解決に協力してもらおうと思ったのに」
「いや素人に動き回られちゃ迷惑だ」
「まあそうですね。それにしてもまだこのシリーズ続いてたんだ」
「うるせい。そんなことより新たな犯人候補を探すぞ」
「ええ誰にするつもりですか? 」
「そうだな。第一発見者で通報者の爺さんにでもするか」
「そうですね。ははは…… 」
こうして前例のない謎多き事件は一応の解決を見た。
<完>
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
彩霞堂
綾瀬 りょう
ミステリー
無くした記憶がたどり着く喫茶店「彩霞堂」。
記憶を無くした一人の少女がたどりつき、店主との会話で消し去りたかった記憶を思い出す。
以前ネットにも出していたことがある作品です。
高校時代に描いて、とても思い入れがあります!!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
三部作予定なので、そこまで書ききれるよう、頑張りたいです!!!!
学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる