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ノックすの十階
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『ノックすの十階』
「特上一丁」
くそ忙しいお昼時。
「ほら新人行って来い! 」
ええ俺? 嘘でしょう?
「ほらボケっとしてないで行って来い! 」
「へーい」
大将のご命令とあらば行かざるを得ない。
先輩たち何やってるんだよ。俺昨日入ったばかりなのに。
お届け先は二丁目のビル。
自転車もバイクも出払っている。
仕方がない歩くか。
真夏ではないのでどってことないが鮮度が失われていく気がする。
走る訳にも行かずに速足で目的地を目指す。
「おーい! そっちじゃないよ! 」
つい反対方向に歩き出してしまう。
「ほら何やってるんだい。しっかりしな! 」
女将さんにどやされる。
どうしても方向音痴が治らない。
さあ気を取り直して出発だ。
歩いて五分で息が上がる。
もう秋だと言うのに夏日だもんな。嫌になる。
さあもう間もなくだ。
えっと…… 駅を抜けてすぐに。うん。ここだここだ。
ようやく目的地に着いた。さあビルの中へ。
これでほぼ完了だな。
あれ…… 動かない。
何度押しても反応がない。
まずい! 早く動け!
ダメだ壊れてやがる。
エレベーターが動かない。
なぜ? 故障中なら故障中と書いておいてくれよ。
エスカレーターはないし…… これはもう階段しかないか。
確かあいつは十階だっけ。
もうお客でも何でもない。あいつだ。
こんなエレベーターもエスカレーターも使えないようなところに住んでる奴はお客じゃない。
せめて二階か三階に住んでろよな。
ふう。仕方ないか歩くとしよう。
階段を駆け上がるのも悪くない。
ただ外階段でその上作りが雑。下が見える作り。
汗が冷や汗に変わる瞬間。
三階までは景色を楽しむ余裕がある。
だがその上は死の階。四階とまだギャグが言える状況。
問題は五階から。怖いのはやっぱり勘違い。誤解だよ何てね。
もう景色も楽しめない。足元も見えない。
やはり高所恐怖症の俺には不可能なミッション。
もう出前の品も頭に入らない。鮮度などどうでもいい。
怖いからと駆け上がるのさえ怖い。目を瞑る訳にもいかない。
とにかく届けるんだ。
八階へ到達。もう引き返す方が怖い。立ち止っては余計に怖い。
うわああ! 前方から悪魔の集団。
笑いながら降りてくるお姉さまたち。すれ違う。
ああいい匂いだ。
「ちょっと邪魔! 」
ぶつかりそうになり危機一髪。
バランスを崩し中身をぶちまけそうになるがどうにか堪える。
ふう危ない危ない。さあ急ごう。
九階を越えついに十階に到達。
ノックをするとあいつが姿を現す。
「お届けに参りました」
「ありがとう。ゆっくり味わうよ」
鮮度は落ち腐りかけてるが問題ないだろう。
代金を受け取り無事任務完了。
だがここで一つ問題が。
下りが待っている。
これはこれでスリリング。
それだけではない。回収作業があるのだ。
再び往復する地獄が待っている。
あーあやってられない。
ノックす!
<完>
「特上一丁」
くそ忙しいお昼時。
「ほら新人行って来い! 」
ええ俺? 嘘でしょう?
「ほらボケっとしてないで行って来い! 」
「へーい」
大将のご命令とあらば行かざるを得ない。
先輩たち何やってるんだよ。俺昨日入ったばかりなのに。
お届け先は二丁目のビル。
自転車もバイクも出払っている。
仕方がない歩くか。
真夏ではないのでどってことないが鮮度が失われていく気がする。
走る訳にも行かずに速足で目的地を目指す。
「おーい! そっちじゃないよ! 」
つい反対方向に歩き出してしまう。
「ほら何やってるんだい。しっかりしな! 」
女将さんにどやされる。
どうしても方向音痴が治らない。
さあ気を取り直して出発だ。
歩いて五分で息が上がる。
もう秋だと言うのに夏日だもんな。嫌になる。
さあもう間もなくだ。
えっと…… 駅を抜けてすぐに。うん。ここだここだ。
ようやく目的地に着いた。さあビルの中へ。
これでほぼ完了だな。
あれ…… 動かない。
何度押しても反応がない。
まずい! 早く動け!
ダメだ壊れてやがる。
エレベーターが動かない。
なぜ? 故障中なら故障中と書いておいてくれよ。
エスカレーターはないし…… これはもう階段しかないか。
確かあいつは十階だっけ。
もうお客でも何でもない。あいつだ。
こんなエレベーターもエスカレーターも使えないようなところに住んでる奴はお客じゃない。
せめて二階か三階に住んでろよな。
ふう。仕方ないか歩くとしよう。
階段を駆け上がるのも悪くない。
ただ外階段でその上作りが雑。下が見える作り。
汗が冷や汗に変わる瞬間。
三階までは景色を楽しむ余裕がある。
だがその上は死の階。四階とまだギャグが言える状況。
問題は五階から。怖いのはやっぱり勘違い。誤解だよ何てね。
もう景色も楽しめない。足元も見えない。
やはり高所恐怖症の俺には不可能なミッション。
もう出前の品も頭に入らない。鮮度などどうでもいい。
怖いからと駆け上がるのさえ怖い。目を瞑る訳にもいかない。
とにかく届けるんだ。
八階へ到達。もう引き返す方が怖い。立ち止っては余計に怖い。
うわああ! 前方から悪魔の集団。
笑いながら降りてくるお姉さまたち。すれ違う。
ああいい匂いだ。
「ちょっと邪魔! 」
ぶつかりそうになり危機一髪。
バランスを崩し中身をぶちまけそうになるがどうにか堪える。
ふう危ない危ない。さあ急ごう。
九階を越えついに十階に到達。
ノックをするとあいつが姿を現す。
「お届けに参りました」
「ありがとう。ゆっくり味わうよ」
鮮度は落ち腐りかけてるが問題ないだろう。
代金を受け取り無事任務完了。
だがここで一つ問題が。
下りが待っている。
これはこれでスリリング。
それだけではない。回収作業があるのだ。
再び往復する地獄が待っている。
あーあやってられない。
ノックす!
<完>
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