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ごめんねワニさん
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はあはあ
はあはあ
もうダメだ。疲れた。
「投降しろ。もう逃げられないぞ」
やはり無理があったか。
被害者は旦那様。些細なことで叱り飛ばしたことにより前後不覚。
目の前に血だまりが。死体の一丁出来上がり。
俺は旦那様に仕える下っ端の下っ端。
日頃よく叱責されていたので逃げてもすぐに捕まるのは目に見えていた。
ただ俺以外にも旦那様を恨んでいた人物が五人ほどいる。
どうにかそいつらに擦り付けられないか。
一人目は何を隠そう奥様だ。
旦那様とは随分年が離れている。
最近は愛人が出来たとかで顔を合わせることもないと噂。
充分犯人に仕立て上げられる。
二人目はその愛人の男。
彼は旦那様の会社の取引相手でよくこの屋敷にも顔を出す間柄。
旦那様は薄々二人の関係に気付いたようで調べるよう執事に命じていた。
三人目は使用人。
頭も良く何でもこなせるが金に弱い。
人の金を盗む癖があるとかでよく旦那様に叱られていた。
今度やったら追い出すぞと脅されており最近は反省したのか大人しい。
ただ手癖とはなかなか治らないもので再び盗みを働いてるとも聞く。
奴なら理想の犯人像になる。
四人目は医者。
旦那様の主治医。立派なお医者様だ。
旦那様から信頼も厚いが薬の件で揉めてしまい対立。
未だに屋敷に出入り出来るのは奥様との信頼関係があるから。
動機としては弱いがまあ無理矢理結びつけることもできなくもない。
五人目は…… いや五匹目はワニ。
昔から屋敷にワニを放し飼いにしているワイルドな性格の旦那様。
奥様が危ないと注意しても手を出すわ膝に抱くわで見ていられない。
使用人たちの間でも恐れられているワニ。
可愛がるあまり過信し手を噛まれたこともあると聞く。
ただ大ごとにはせず現在に至っている。
あそこまでの惨殺ならワニが襲ったと言い訳も立つ。
真実はともかくワニの危険性は誰もが感じていたこと。
犯人役は彼しかいない。たぶんオスでしょう。
さあ容疑者は揃った。
後は誰を犯人にするか。
だが俺の考えは甘かった。
全員動機はあるもののその時間帯奥さんと医者は屋敷におらず。
同僚は仲間と一緒だった。愛人はそもそも外国とアリバイは完璧。
残すはこの凶悪犯一匹になってしまった。
「おい。いい加減に白状したらどうだ? お前なんだろ犯人は? 」
刑事は俺一人に絞り込んだと見える。だがよく考えて欲しいもう一匹いるだろう?
「俺は犯人なんかじゃない。こいつがやったんだ! 」
俺は非情にも顔見知りのワニのせいにして逃げようとした。
「ふざけるな! 誰が信じるかそんな話」
「本当なんだ! 俺は見たんだ。牙を剥いて鋭い爪で襲うのを見た」
ここまではっきり主張すれば刑事だって分かるはずだ。
「まさかそんな…… 」
「起こり得るんですよ刑事さん。それが現実と言うものです」
こうして決定的な証拠も自白も引き出せない警察。新たな可能性に移る。
ついに疑いの目をワニに向ける。
だがもちろんワニも自供することはない。
事件は暗礁に乗り上げることに。
これでまた一つ未可決事件が増えたことになる。
最後に一言。
「ごめんねワニさん」
これが俺の偽らざる今の気持ち。どうか許してほしい。
<完>
はあはあ
もうダメだ。疲れた。
「投降しろ。もう逃げられないぞ」
やはり無理があったか。
被害者は旦那様。些細なことで叱り飛ばしたことにより前後不覚。
目の前に血だまりが。死体の一丁出来上がり。
俺は旦那様に仕える下っ端の下っ端。
日頃よく叱責されていたので逃げてもすぐに捕まるのは目に見えていた。
ただ俺以外にも旦那様を恨んでいた人物が五人ほどいる。
どうにかそいつらに擦り付けられないか。
一人目は何を隠そう奥様だ。
旦那様とは随分年が離れている。
最近は愛人が出来たとかで顔を合わせることもないと噂。
充分犯人に仕立て上げられる。
二人目はその愛人の男。
彼は旦那様の会社の取引相手でよくこの屋敷にも顔を出す間柄。
旦那様は薄々二人の関係に気付いたようで調べるよう執事に命じていた。
三人目は使用人。
頭も良く何でもこなせるが金に弱い。
人の金を盗む癖があるとかでよく旦那様に叱られていた。
今度やったら追い出すぞと脅されており最近は反省したのか大人しい。
ただ手癖とはなかなか治らないもので再び盗みを働いてるとも聞く。
奴なら理想の犯人像になる。
四人目は医者。
旦那様の主治医。立派なお医者様だ。
旦那様から信頼も厚いが薬の件で揉めてしまい対立。
未だに屋敷に出入り出来るのは奥様との信頼関係があるから。
動機としては弱いがまあ無理矢理結びつけることもできなくもない。
五人目は…… いや五匹目はワニ。
昔から屋敷にワニを放し飼いにしているワイルドな性格の旦那様。
奥様が危ないと注意しても手を出すわ膝に抱くわで見ていられない。
使用人たちの間でも恐れられているワニ。
可愛がるあまり過信し手を噛まれたこともあると聞く。
ただ大ごとにはせず現在に至っている。
あそこまでの惨殺ならワニが襲ったと言い訳も立つ。
真実はともかくワニの危険性は誰もが感じていたこと。
犯人役は彼しかいない。たぶんオスでしょう。
さあ容疑者は揃った。
後は誰を犯人にするか。
だが俺の考えは甘かった。
全員動機はあるもののその時間帯奥さんと医者は屋敷におらず。
同僚は仲間と一緒だった。愛人はそもそも外国とアリバイは完璧。
残すはこの凶悪犯一匹になってしまった。
「おい。いい加減に白状したらどうだ? お前なんだろ犯人は? 」
刑事は俺一人に絞り込んだと見える。だがよく考えて欲しいもう一匹いるだろう?
「俺は犯人なんかじゃない。こいつがやったんだ! 」
俺は非情にも顔見知りのワニのせいにして逃げようとした。
「ふざけるな! 誰が信じるかそんな話」
「本当なんだ! 俺は見たんだ。牙を剥いて鋭い爪で襲うのを見た」
ここまではっきり主張すれば刑事だって分かるはずだ。
「まさかそんな…… 」
「起こり得るんですよ刑事さん。それが現実と言うものです」
こうして決定的な証拠も自白も引き出せない警察。新たな可能性に移る。
ついに疑いの目をワニに向ける。
だがもちろんワニも自供することはない。
事件は暗礁に乗り上げることに。
これでまた一つ未可決事件が増えたことになる。
最後に一言。
「ごめんねワニさん」
これが俺の偽らざる今の気持ち。どうか許してほしい。
<完>
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