なぜお義母様と呼ばないのです

二廻歩

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偶然によって導き出された真実

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ボノの部屋に来てしまった。
今更引き返せないのでここは思い切って訪問。
コンコン
コンコン
「どうぞ」
ボノは私だと気づいていない。
まあ気付きようがないでしょうけどね。
コンコン
コンコン
もう一度念の為にノックをする。
ははは……
笑い声がする。楽しそうだ。
「ごめん。今手が離せないんだ。来てくれないか」
この展開はまさか。いつもの彼の手口。
こうやってメイドを引っ張り込む。

ボノはリラックスしてメイドたち数人とおしゃべりに興じていた。
これが彼の日常。
「何だディーテか? 」
あからさまに嫌な顔をし、ため息を吐くボノ。
メイドだと思ったのでしょう。
まったく若いメイドに現を抜かしてまったく何を考えてるのか。
怒る気にもなれない。
ただじっと視線を送る。
「どうしましたボノ…… 」
メイドの一人が気付いたのか震え出した。
「申し訳ありません。何卒お許しください」
ただ楽しくおしゃべりする者を叱りつける気にはなれない。
「あれ髪を切ったのかい。随分雰囲気が変わったね。
老けた…… いや素敵になったかな。ははは…… 」
随分な言いよう。まったく誰があなたに感想を求めるの?
もう充分メイドの反応で分かってます。

「ボノ。お話があります」
強引にメイドを返し二人きりになる。
「どうしたと言うんだディーテ」
探りを入れるボノ。
たまたま立ち寄っただけで用もそれほどある訳ではない。
ただ昼間から手を出すなど言語道断。
反省を促すが期待は薄い。
「ははは…… ディーテも人が悪いな。済まないと思っている」
笑ってごまかそうとする。
もちろん私には通用しない。
「ごめんなさい。別に今さらあなたのだらしなさを責めに来た訳ではないの」
謝罪する気はなかった。でもあちらも謝っている。
こちらも礼儀を通すのが良いでしょう。
偶然とは言えメイドの愚行を見逃しはしない。
見たからにはきっちり処分する。セバスチャンも。
そうでなければ主人としてのメンツが立たない。
関わった者は配置転換と減俸。
これが今考えられるお仕置き。
いい方だ。本来なら屋敷を追い出されても文句は言えない。

「何だい。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ」
逆切れを始めるボノ。
本当に情けない。反省は微塵も感じられない。
これが何十年後かのセピユロスかと思うと胸が痛む。
男は皆そう。程度の差はあれど平気で私を裏切る。
あれほど優しかったボノはいない。
まあ皆の手前もあるんでしょう。
でも今は決して許しはしない。
「いい加減にして! 自分の行為を恥じなさい」
これでいい。すっきりした。

そろそろ本題に入ろうかしら。
「ねえ離婚の話はなかったことにして欲しい」
ボノとやり直すつもりだ。
こんな夫でもヴィーナの父。
離婚を知ったらまた落ち込む。
もう今度は立ち直れないかもしれない。
ヴィーナはまだ子供ですものね。
でもそれ以上に私とセピユロスとの関係を知られたら終わり。
ボノの話がクッションになるといいのだけど。
それはさすがに都合よすぎるだろうな。
「今更何を言うんだ! 」
イライラしだして悪い癖が出ている。
「留まって欲しい」
「ははは…… 冗談だろ」
「だったら理由を教えて。いきなりでは納得いかない」
「それはディーテ…… 」
押し黙る。何も考えてないのが一目で分かる。
「ふふふ…… 理由なんてないんでしょう? ただ気紛れで。だったら…… 」
「お前があの男と出来てるからだ! 」
ボノがそう言い放った。
「そんな嘘…… 」
あの男とはもちろんセピユロス。
だがボノがなぜ知ってるのか謎。
あれだけ警戒していたのに気付かれてしまった。
もう言葉にならない。

ボノの私への態度が変わったのは確かにセピユロスが来てからだった。
長年の夫婦のすれ違いかと思いきや感じ取っていた。
ああ何てことでしょう。ボノは悪くない。これでは私一人が悪いことになる。
自分だって散々遊びメイドに手を出したのに私の過ちを決して許さない。
絶体に許さないその態度。どうしてそこまで……

偶然が真実を導いてしまった。
迷ってボノの部屋に来なければ知ることはなかった。
普段のボノは決して本心をさらけ出すことなくただ笑っている。
今追及されて追い込まれた為に逆襲に出てしまった。
これは私が無理矢理告白させたようなもの。
決して本心とは思わないけれど二人の関係が決定的になったのは間違いない。


                   続く
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