なぜお義母様と呼ばないのです

優雅な一時

翌朝。
「どうかされましたかご主人様？　」
「いえ何でもありません。気にしないで」
「しかしそわそわされております。何かご不満でも？　」
「ありがとう。大丈夫だから」
あらあらつい態度に出てしまってるよう。
そう昨夜はセピユロスの手前もあって夜の訪問を受け入れましたが……
よく考えればご主人様として少々軽はずみだったような気がします。
誰に相談する訳にもいかず。あのキャルムだってもうヴィーナ派ですからね。
一番の適任はワリーナ。彼女なら口も堅く経験も豊富でしょう。
でも信用があるかと言えば疑問。相談相手にはやはり相応しくない。
だから直接セピユロスに打ち明け、なかったことにしてもらいたかった。
今はボノと釣りで外出中。まったく本当に呑気なんだから。
どう言う神経してるのかしらもう。

ティータイム。
読書の時間の合間の優雅な一時。
ここはゆっくり時間を掛けて味わうのが大人の余裕。
ああセピユロス……　私に何てことさせるつもり？　
気付かれるでしょう？　そうなったらボノに、ヴィーナに……
ああもう本当に困ったお方。

考えごとをしてるうちに完全に冷え切ってしまった。
「入れ直してきなさい！　」
「はは！　急いで取り換えてきます」
メイドが新しいのをすぐに用意。
考えごとしていたせいで冷めたのについメイドに当たってしまう。
よろしくない。これではただの意地悪な魔女。
リンゴでも仕入れてきましょうかね。ヒッヒッヒ……

「美味しいわ。初めて飲む」
「はい昨日お出ししました。ですから確かにそう言えなくもありません」
私を気遣うメイドの鑑。そう失敗は誰にでもある。この子など毎日のよう。
人間誰にも間違いや勘違いがあるもの。だから昨日のことは昨日こと。
味音痴に思われてしまったかしら。
もしかしたら年老いたと思われた？　それだけは絶対にいや！
どう思われようとまだ若い娘なのです。
あー言っていて虚しくなる。

でも違うのです。私はセピユロスのことが気になって仕方がない。
それはあの方が来てからずっと。
今夜私が訪ねる番になるだなんて。
それは確かにここは私の屋敷。
ご主人様ですからね。もちろん決定権だってある。
でももし密会が見つかりでもしたら言い訳が立たない。
しかも今回は私から伺うのです。弁解の余地がない行為。
だからもちろん慎重になる。
夜のことで頭がいっぱいで何にも手がつかない。
味や匂いなどもうどうでもいい。ただ飲み干す。

元々紅茶は得意ではなかった。
大人の飲み物のイメージが先行して避けていた。
大人と言うよりも淑女の嗜み。
味だって薄いし苦い。それに反して匂いは強烈。
よく味わえばそれなりのもの。
それでもスイーツがなければただ薄いお茶。
添え物に過ぎない。
紅茶の味が分かるのはもう少し年を重ねてから。


「そうだ。セピユロスさんはどうしました？　」
「はい旦那様と釣りに出かけられました」
「まだお戻りにならない？　」
本当にセピユロスが分からない。
ボノなんか放っておいてすぐに帰ればいいのに。
私だけを見て。私だけを愛して欲しい。
ワガママかもしれない。でもそれが本来の姿勢。
セピユロスが選んだのです。責任を取ってもらいます。
あーあ。これではまるでヴィーナ。
笑われてしまう。

「どうしましたご主人様」
「どうしてボノは私たちを置いて行くのかしら？　」
心にもない不満を漏らしてしまう。
本当はセピユロスだけなのですが。
「旦那様も久しぶりでしたから嬉しいのでしょう」
どうにかごまかすことができた。
まさかセピユロスが構ってくれないとも言えないし。
少しだけヴィーナの気持ちを理解出来た気がする。

「ではこれで」
紅茶のお代わりを終えると出て行く。
やはりおかしいと思われたかしら？
さすがにまだ疑われてないとは思う。でも油断は禁物。

「ご苦労様」
「ねえ最近のご主人様おかしくありません？　」
「どうしたの？　」
「それがぼうっとしてやる気がないと言うか」
「うん。優しくなった気もするよね」
「いえ悩まれていると言うか秘密を抱えてるみたいな気がするの」
「考え過ぎじゃない？　」
「そうかな？　」
「大丈夫だって。ご主人様ですもの」
「でも旦那様とも上手く行ってないみたいですし」

「ほらそこ！　おしゃべりしてないで働きなさい」
メイド頭の鋭い目が光る。

　　　　　　　　　　　　　　　　　続く