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帰還

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今日は何を読もうかしら。
適当に選ぶ。
『罪と罰』
ドストエフスキーだ。
うーん。今は相応しくない。
もっとこう明るいものが良いでしょう。

『ロミオとジュリエット』
シェイクスピアの悲劇。
ちょっと違うか。

『老人と海』
これが良い。私の好きな冒険もの。
さあ始めるとしましょう。

「ご主人様。おやすみのところ申し訳ありません」
いつの間にかメイドが立っていた。
あらあら寝てしまったみたい。まずい涎垂らしてないわよね?
「気持ちよさそうに眠られていました。お昼寝の時間でしたか? 」
真面目に質問しているから頭にくる。
どう考えても読書の時間じゃない。
誰が読書のできない女よ。失礼しちゃう。

「それで用件は? ただ嫌味を言いに来たのかしら」
「失礼しました。セピユロス様がお戻りになられました」
予定よりも早いご帰還。何かあったのでしょうか。
「それで彼はどこに? 」
影も形も見当たらない。
「もちろんヴィーナ様のところでございます」
まあ確かにそうよね。ボノじゃあるまいしちょっかい出しに行く訳ないし。
本来一番初めにご主人様に挨拶に来るべきでしょうけど。常識がないのかしら?
セピユロスったら焦らすだけ焦らして困った方。
わざとなら承知しませんよ。

「それでヴィーナはどう? 」
「はいそれはもう元気になられて。昨日までのことが嘘のようです」
これで一件落着。
ヴィーナの落ち込みは酷かったがセピユロスも戻った。
もう専門の先生をお呼びする必要はないでしょう。
「ではお昼をご一緒しましょうと伝えてください」
セピユロスの好きな物を作るように指示。

再びの歓迎。
それまではゆっくりしてよう。
「あの午後からの草刈りとお茶会は? 」
「それはキャンセルしてちょうだい」
ただのお茶会など今は構ってられるものですか。
急いでセピユロスの気持ちを確認しなくてはいけません。
彼の反応次第では私も本気にならざるを得ない。
ただ心を弄んだとしてもそれはそれで許せないこと。
ヴィーナには悪いけれどどちらにしてもセピユロスと一緒にはさせられない。
最後まで反対する立場。

昼。
昼間からお酒で酔っぱらってしまうボノ。
ワインが止まらない。
「いやあセピユロス君と一緒だとお酒が進む」
ご機嫌のボノ。対照的なのがセピユロス。
恐縮しきり。
「今はそんな気分じゃないんです。申し訳ない」
セピユロスは昼間から酒におぼれるタイプではない。
付き合いで一杯。断れずに二杯目を空ける。
「もうお父様ったら」
上機嫌のヴィーナ。
笑顔が絶えない。
セピユロス効果は抜群。
「ああディーテもどうですか? 」
相変わらず呼び捨て。
自分のスタイルを変えるつもりは微塵もないらしい。
「ごめんなさい。起きたばかりなので失礼」
ただ読書中に眠ってしまっただけなのだけど。
体調を崩しているように装えば優しい彼のことだから心配するでしょう。
ヴィーナはもう大丈夫。回復した。
後はこの私の不調を直してくださいな。
自分でも姑息だなと思う。
これも作戦。セピユロスに振り向いてもらいたいから。
どうしたんだろう私? ヴィーナ以上に彼を求めていた。
そんな気がする。

おおセピユロス。なぜあなたはこうも私を惹きつけるのです?
その若い肉体が堪らなく恋しい。
欲しいのです。奪いたいのです。
止らないのです。もう体が言うことをきかない。
彼を見た瞬間、求めてしまう。

「ははは…… ディーテったら」
冗談だと思われてしまった。
彼は見抜いているのだ。私が仮病なのを見抜いた。
嬉しい。彼はちゃんと私を見てくれていた。
彼の言葉に嘘偽りはなかった。
彼が私を求める限り私は応えよう。
当たり前。当然のこと。
彼に失望だけはされたくない。
ふふふ…… 何を焦っているのかしら。
「そうだまた釣りに行こう」
「いいですね。明日にでもどうですか? 」
積極的なセピユロス。
ボノなんか相手しなくていいのよ。
ただの道楽者。
あなたまでボノのようになっては困ります。
苦労するのはこちらなのだから。

「セピユロスさん。お家の方はいかがでした? 」
本題に入る。

                続く
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