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お義母様

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どちらが先? 私が黙るかセピユロスが屈服するか。
「昨日のことは覚えてますか? 」
「はあ何のことやら…… 一日経つとすべて忘れてしまうので」
またふざけている。困った方。
ガツンと言うのが本人の為よね。
それはヴィーナの為にもなるんだから。

「ボノがどれだけふざけた夫かは承知してるつもりです。
ですがあなたはまだ更生の余地がある。お願いだからきちんと聞きなさい」
「ディーテ。僕はあなたの願いを叶えたい」
これだけ白々しいのは私を馬鹿にしてる証拠。
「では一つ。あなたはヴィーナの婚約者であり私はそのヴィーナの母なのです。
でしたら呼び方もお義母様となるでしょう。ディーテなどと失礼にも程があります」
「しかし名前で呼ぶことは了承を得たはずですが」
反論するだけの余裕があるようだ。
「いえ許しません。名前で呼んではなりません。しっかりお義母様と呼ぶのです。
何度だって言います。お義母様と呼びなさい! 」
まったく手間のかかる子。
一体どう言う育てられかたしたらこうなるの。

「いいですか。ほらお義母様と呼びなさい! 」
「ディーテ…… 」
「ホラまた! なぜ名前で呼ぶのですか」
厳しくする。これでいい。
真剣に考えてくれるでしょう。
「済まないディーテ。あなたをそう呼ぶ訳にはいかない。
私の気持ちも分かって欲しい。何もからかっている訳ではないのです。
これだけははっきりしてる。あなたへの愛は本物だ。ふざけてなどいません」
セピユロスはいつになく真剣だ。

「ふざけていたのではないのですか? 」
この男の心が読めない。
悪ふざけが過ぎたから反省して真剣な振りをしてるのかと。
でもそれなら謝れば済む話。彼が謝るのが苦手とはどうしても思えない。
「なぜ分かってくれないのですかディーテ! こんなにも思っているのに」
セピユロスが訴えかける。
思ってた展開とは違ってきてしまった。
お義母様と言わせることで悪ふざけをやめさせその上できつくお仕置きするつもり。
でも彼が頑なに拒否する。
これは一体何がどうなってるの?

「ちょっと待って。ボノの差し金じゃないの? 」
核心を突くしかない。少々恥ずかしいが仕方がない。
「ボノ? はいボノにはお世話になってます。ですがそれとこれとでは話が違う。
ボノはあなたについて少ししか話されません。後はヴィーナとメイドとそれから……
趣味ぐらいですかね…… 」
正直者のセピユロス。

「あとは女のことでしょう? 」
「はい。面白いエピソードが聞けるものでつい。
でもディーテには決して楽しいものではありません」
「それで私を使って実験しようって腹ね」
「だから違います! ボノはそのような方ではありません」
ボノの女好きは今に始まったことではない。
でも人間性はあの当時のまま。
他の女に現を抜かしてるとは言え私への愛も残っている。
ボノ…… ごめんなさい。信じてあげられなかった。

ボノの差し金ではないとするとヴィーナのはずもなくメイドに唆された訳でもない。
そうなるとどう言うことに? 
まさかセピユロスは本気で私のことを愛してる?
いえいえあり得ない。
まさかセピユロスは本気で私のことだけを愛してる?
いえいえそれもあり得ない。
「ではなぜこのようなふざけた真似をなさるのですか? 」
結局この疑問が残る。
「ですからふざけてなどいません! 私はあなたを愛してるのです」

パチン
つい我慢できずに頬を張ってしまう。
これでいい。私の想いが伝わったはず。
「ディーテ…… 何をするのですか? 」
「私を愛してどうするの? 」
その根性が気に入らない。
ボノと未だに親しくしているのがすでにおかしい。

「セピユロス! 私はあなたを愛せない! 」
当然のこと。常識の問題。
彼がそこまで愚かしい人間とは思えない。
「ディーテ! ディーテ! ディーテ! 」
まったく一体どこまで私をコケにすればいいのかしら。
これ以上の侮辱は許さない。

「もうこれくらいで。ではおやすみなさい」
「ディーテ…… 」
セピユロスは寂しそうに下を向く。
本当にこの人何を考えてるのかしら。
非常識にも程がある。

                   続く
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