上 下
23 / 125

チャウチャウ

しおりを挟む
「ご主人様! 急用でございます」
部屋を出るとすぐに呼び止められる。
「何を騒々しい! 落ち着きなさい! 」
「怪しい人影を見たと噂が」
「噂? 噂程度で私の手を煩わすつもりですか?
いつも言ってるでしょう。きちんと確認しなさいと」
「はあ…… しかし…… 」
ただ畏まるだけではっきりしない。
「分かりました。分かりました」
怪しい男ね。まさかボノが手引きしたの?
取り敢えず現場に向かうことに。
随行メイドと外へ。

「ご主人様はお待ちください。私が見てきます」
随行メイドは基本一人。
ただ屋敷の周りにはメイドたちが目を光らせているのだから問題ないでしょう。
危険はないと言っていい。
まったくたかが噂程度で駆り出される身にもなって欲しい。
ここの主人は私。当然責任を取るのが当たり前。でも損な役割な気もする。
もうさすがにうろついてはいないでしょう。不審者さん。

「ちょっとあなた何をしてるんですか」
日が暮れようと言う時に怪しげな人影。
「怪しい者ではないだ。ただ一目娘を見たくなったでな」
何と雇入れたばかりのメイドの父親が心配して訪ねて来た。
さすがにお客扱いはできない。
不審者が彼なら一件落着するはず。
大事にならず即解決できたのはある意味良かったとも言える。
「娘さ元気してるだか」
「もう恥ずかしいんだから」
娘が駆けつけてきた。
後は二人でどうぞ。
さすがに追い返す訳にはいかない。
満足いくまで好きにしてちょうだい。
トラブルなんてだいたいこんなもの。
メイドが色々言ってたけど私の手を煩わすまでもなかった。

一騒動を終えて屋敷に戻る。
あーあ。まずい予定が狂ってしまった。
今日は秘密の特訓は中止しましょう。
先生には悪いけどサボらせていただきますわ。

ヴィーナの部屋に。
「何か用? 」
機嫌は良い方だ。悪ければ口も利かずにただ黙っている。
「あらセピユロスさんはどうしたんです? 」
「知らないあんな奴! 」
どうやら喧嘩したらしい。
またですか。我が娘ながらよくやる。
どうやらボノと二人で朝早くから出かけるものだから構ってもらえずにご機嫌斜め。
それでも私と話すと言うことは良いことでもあったのかしら。
意外なヴィーナの心境の変化に驚いている。

「ヴィーナ。ご機嫌ね? 」
「別に。チャウチャウが癒してくれるから」
チャウチャウとは我が家のペット。
国王様のようにブクブク太った締まりのない腹をした猫。
誰に似たのやら。飼い主に似るとは言いますけどね。
特に可愛い女の子に目がないおじさん猫。
チャウチャウは気まぐれですぐにどっかに行ってしまう。
メイドに屋敷中を探させたこともあった。
その時は別館で日向ぼっぽしていたっけ。
メイドが世話をするのですぐ屋敷を抜け出してしまう。
脱走猫だ。

チャウチャウは二年前の秋に我が家へやって来た。
国王様からの贈り物。
元々国王様のペットで理由があって譲り受けた。
そう言った事情もあり大切にお世話している。
今ヴィーナに夢中らしい。
すぐに飽きるでしょうけどね。
チャウチャウは男の子。
だからメイドに弱い。そしてヴィーナにも。
なぜか私には寄り付かないが。
恐れているのでしょうね。猫の分際で生意気。
おっと国王様のペットの悪口を言ってはいけない。

「それでチャウチャウは? 」
「今パパのところ」
また良からぬことを考えてるな。
ボノはたぶんチャウチャウを使ってメイドを手なずける気だ。
それに協力させられるチャウチャウは可哀想。

チャウチャウは元々国王様のペット。
かなり変わった名前だったので相応しい名前に変更。
いつも食事をするときに不満そうにお皿を動かす。
もっと旨い物をだせと要求するグルメ猫。
その時の鳴き声がまるでチャウチャウと言っているところからそう名付けられた。
チャウチャウも気に入ったのか嬉しそうに返事をする。
チャウチャウ以外にももちろん動物は居るが屋敷の中で飼っているのはこの子だけ。
さすがに国王様からの頂き物。外で飼う選択肢はない。

外で飼うのはあまりに危険。危険と言うより命がけですけどね。
大型の狩猟犬やワニに蛇などが屋敷の広大な庭に生息している。
チャウチャウは馬鹿ではないのでそのエリアには近づこうとしない。
たまにこの屋敷に忍び込もうとする間抜けな方がいてすぐに餌となる。
ですからなるべく夜には庭に出ないようにメイドたちにもきつく言い聞かせている。

               続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

きっと貴女は、僕のものにはならない

遠堂瑠璃
恋愛
何でだろう。僕の日常に、貴女は居ない。 非日常の中でだけ会える貴女。 僕と貴女は、いつだって帰る場所が違って……。 いつでも貴女を独り占めにしたいのに、貴女は僕とは別の場所に帰っていく。本当は帰したくないんだ、いつだって。 こうして僕の隣で呼吸をしている貴女。ほんの限られた時間だけど、今は僕だけの貴女。今だけは、このまま離れないで。 風に揺れる髪が、触れる程傍に居て……。 19歳大学生と、28歳既婚女性の束の間の恋の結末は。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

たとえ貴方が地に落ちようと

長岡更紗
恋愛
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。 当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。 そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。 志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。 そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。 己の使命のために。 あの人との約束を違えぬために。 「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」 誰より孤独で悲しい男を。 誰より自由で、幸せにするために。 サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...