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挨拶

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ボノの不審な動きに気を取られて午後の予定をすっぽかすところだった。
新人メイド挨拶。
先月新たに雇い入れたメイド。
最初が肝心って言うし。緊張するな。
でも本当に緊張してるのはおそらく彼女たちの方だろう。
来て間もないので心細いはず。優しくしてあげなくてはいけませんね。

屋敷に戻るとすぐにメイド頭が寄って来た。
「あのよろしいでしょうか」
メイド頭とは言え私には逆らえない。
言葉も丁寧。ただ長年メイド頭をやっているのでそろそろ交代の時期だろう。
いくら名前だけのメイド頭だとしても長く居座れば言葉は悪いが腐敗する。
もちろん優秀で面倒見もいい。私にも忠実で信頼が置ける人物。
だから少しだけ残念な気もする。
でももう決めたこと。あと一年以内に交代してもらう。
問題は後任を誰にするか。
年齢から行くべきか実績から選ぶべきか迷うところ。
候補を選んでそこから一人に絞るのがいい。

「ああごめんなさい。新人の方への挨拶。うん忘れてませんよ」
「いえ、無理をなさらずに。少々遅れても一向に構いませんので」
そう言いながら大きな古時計を気にする素振り。
うまいんだか下手なんだかよく分からない人。

謁見の間へ。
私がこの屋敷の主だから謁見などと大仰に言ってるのではない。
ここは本当に国王様がお過ごしになられる。だから通称謁見の間。
国王様が滞在なさらない時はこのように挨拶の場として使用している。
と言っても年に何度もなく多くて年に三回が限度。
足りなくなったら一気に雇い入れる。
メイドたちの中には家の都合で辞めていく場合もあるがそれも稀。
ほとんどが働けるまで勤め上げ一線を退く。
そのご褒美に僅かだがその後の生活の足しになる程度の報奨が得られる。

「ようこそ皆さん。私が主人のディーテです。どうぞよろしく」
当たり障りの挨拶で済ます。
新人は五名。
まずは屋敷の外の雑用係を任されることになる。
「いいですか皆さん。体には気を付けてしっかり働いてくださいね」
「はい」
「ビシバシ行かせてもらいますからそのつもりで」
新人メイドたちを震え上がらせる。
「えー」
口々に不満を述べる。
「そこ。お静かに! まだお話になっております。どうぞ」
メイド頭が注意する。まあ当然か。
「一つだけ約束して下さい。絶体に嘘をつかないと」
「はい! 」
「注意事項として最後に一つ。我が夫ボノには決して近づかないように。
危険ですから。それでは頑張ってください」
最後の一言は余計だったかしら。でもこれも彼女たちの為。
長くここで働く気があるなら守るべきこと。

さあ優秀なメイドはいるかしら。
ぱっと見て有能だと思える者はいない。
一人だけ気になる人物が。随分落ち着いた様子。
それ以外の者は目を合わせないようにしている。
確かにそれは正しい判断。下手に目立てば格好の餌食になる。
私がメイドなら同じように目を伏せるでしょうね。
ただできれば早くこの仕事に慣れて欲しいもの。

一人一人挨拶を済ませ順に退出。
「どうですかあの子たちは? 」
「そうですね。皆さんまだ緊張してるみたい。
もう少し様子を見なければ分かりませんが普通と言ったところでしょうか」
「普通ですか? 」
メイド頭は不安そうに続ける。
「では問題ないと」
「ええ。皆さん立派なメイドになるでしょう」
まだこの段階では何とも言えない。それでも求めるものだから答える。
ただ本音を言えばトラブルを起こさずにしっかり仕えてくれればそれでいい。
メイドに特別な才能を求めていない。

「あなたはどうお感じに? 」
「はい恐れながら。あのモーラと言う娘がしっかりしており将来は有望かと」
恐れてないくせに白々しい。私を陰で操ろうとしても無駄。
「モーラ。ああ、あのしっかりした娘ね。うん私も気に入ってます。ただ…… 」
メイド頭を見る。
「綺麗過ぎはしませんか? 」

                  続く
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