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不審者
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さあこの後先生と秘密の特訓。
あーあ逃げ出したい。
あんな姿見られたらメイドたちに失望されてしまう。
もう続けていく自信がない。
国王様も罪なお方。
明らかに変わった趣味をお持ちになられている。
まだ男性ならいいかもしれない。
でも私は女。恥じらいと言うものがあります。
人前で表現するのは苦手ではない。逆に得意なくらい。
でもこれはいくら何でも耐えられない。
国王様にもその他の上流階級の方にも見て頂いて構いません。
若い頃から演説や発表は慣れてます。
民衆の前で何度も何度も訴え掛けた。
あの当時の記憶が蘇る。
屋敷に戻ろうとした時だった。
「おい通行証を見せろ! 」
顔も良く見ずに生意気を言う無礼者。
行きには立っていなかったこの若い男。
どんな理由があるにせよこのご主人様に生意気な態度を取ってはならない。
ここでは私がすべて。どんな者よりも偉い。
さすがに国王様には敵わないが。彼は国王のように醜く太っても老いてもいない。
見かけない顔なのは確か。
それでもここの主人である私に逆らえる者はいないはず。
「あなたは何者? 」
「ボノ様に命じられている。大人しくするんだな」
ただの酔っぱらいの戯言かと思いきやボノとは穏やかではない。
まったく何を考えてるのやら。
「ボノってまさか…… 」
「うるさい。怪しい奴め。近づく者を見張るように言われている。
文句あるならボノ様に言うんだな」
この人何を考えてるのだろう。勘違いしてる。後でお叱りを受けるのは当然この男。
「ボノが刃向かったんですね? 」
一族に立て突くとはいい度胸している。
相手は私ではなく一族全体なのよ。
あのボノが……
「今大事なお客様がお越しに。騒ぎを起こされては大変だとこの周辺を任された。
もう話はこれくらいでいいだろ? ぐずぐずしてるとボノ様にお叱りを受ける」
何も知らされず見張りを命じられた彼には同情する。
この後どのような仕打ちが待っているか想像するだけで涙が。
「黙りなさい! この方はボノ様よりもよほど偉いのですよ」
メイドが叱り飛ばす。
まだ若く乱暴な男は私が誰か分かってない様子。
「誰なんだよ」
面倒だと言わんばかりに頭を掻く。
「ご主人様です」
「ご主人様と言えばボノ様の奥方。まさか本当ですか? 」
男は自分の過ちに気付いたようだ。
頭を何度も下げて許しを請う。
「ご主人様とは知らず申し訳ございません」
「良いのです。あなたは自分の仕事を全うしただけ。何を恥じようと言うのですか? それともボノの命令とは全くの出鱈目とでも言うのでしょうか? 」
男を屈服させる。気持ち良い。ただやり過ぎはいけない。
そして何よりも悪いイメージのままではいけない。慈悲深いと思わせる。
そうすれば彼も私に従うでしょう。
ただ甘やかすのではない。厳しさの中にも優しさを混ぜる。
これが私のやり方。少々姑息だが戦術の一つ。
「それでボノはなぜここを? 」
「この辺りで不審な動きがあるので見張るようにとのことです。
それ以上のことは俺にも分かりません。どうぞお許しください」
一体何をそんなに恐れているのだろう。
もう許してるつもりなのに。
「お願いします。百叩きも鞭打ちもご勘弁ください。
俺は苦手なんです。想像するだけでも。あああ…… 」
情けない男。ではお望みどおりにしてあげようかしら。
「してもらいたいの? 」
「滅相もございません。どうかご勘弁を」
「分かりました。では今回のことはお互い見なかったことにしましょう」
「へええ? 」
「ご主人様がお許しなさった。これ以上手を煩わすな! 」
メイドが気持ちを汲み後を引き取る。
「はい。ではボノ様にはお伝えしません」
これでようやく通り抜けられる。
まったくボノは私たちを監視するつもり?
それともただ単に不穏な空気を感じ警戒してるだけ?
ボノへの疑惑が深まった。
馬車を飛ばし屋敷へ戻る。
まったく余計なものに手を取られたせいで予定が狂ってしまった。
これで特訓が回避できるならいいのだけど。
続く
あーあ逃げ出したい。
あんな姿見られたらメイドたちに失望されてしまう。
もう続けていく自信がない。
国王様も罪なお方。
明らかに変わった趣味をお持ちになられている。
まだ男性ならいいかもしれない。
でも私は女。恥じらいと言うものがあります。
人前で表現するのは苦手ではない。逆に得意なくらい。
でもこれはいくら何でも耐えられない。
国王様にもその他の上流階級の方にも見て頂いて構いません。
若い頃から演説や発表は慣れてます。
民衆の前で何度も何度も訴え掛けた。
あの当時の記憶が蘇る。
屋敷に戻ろうとした時だった。
「おい通行証を見せろ! 」
顔も良く見ずに生意気を言う無礼者。
行きには立っていなかったこの若い男。
どんな理由があるにせよこのご主人様に生意気な態度を取ってはならない。
ここでは私がすべて。どんな者よりも偉い。
さすがに国王様には敵わないが。彼は国王のように醜く太っても老いてもいない。
見かけない顔なのは確か。
それでもここの主人である私に逆らえる者はいないはず。
「あなたは何者? 」
「ボノ様に命じられている。大人しくするんだな」
ただの酔っぱらいの戯言かと思いきやボノとは穏やかではない。
まったく何を考えてるのやら。
「ボノってまさか…… 」
「うるさい。怪しい奴め。近づく者を見張るように言われている。
文句あるならボノ様に言うんだな」
この人何を考えてるのだろう。勘違いしてる。後でお叱りを受けるのは当然この男。
「ボノが刃向かったんですね? 」
一族に立て突くとはいい度胸している。
相手は私ではなく一族全体なのよ。
あのボノが……
「今大事なお客様がお越しに。騒ぎを起こされては大変だとこの周辺を任された。
もう話はこれくらいでいいだろ? ぐずぐずしてるとボノ様にお叱りを受ける」
何も知らされず見張りを命じられた彼には同情する。
この後どのような仕打ちが待っているか想像するだけで涙が。
「黙りなさい! この方はボノ様よりもよほど偉いのですよ」
メイドが叱り飛ばす。
まだ若く乱暴な男は私が誰か分かってない様子。
「誰なんだよ」
面倒だと言わんばかりに頭を掻く。
「ご主人様です」
「ご主人様と言えばボノ様の奥方。まさか本当ですか? 」
男は自分の過ちに気付いたようだ。
頭を何度も下げて許しを請う。
「ご主人様とは知らず申し訳ございません」
「良いのです。あなたは自分の仕事を全うしただけ。何を恥じようと言うのですか? それともボノの命令とは全くの出鱈目とでも言うのでしょうか? 」
男を屈服させる。気持ち良い。ただやり過ぎはいけない。
そして何よりも悪いイメージのままではいけない。慈悲深いと思わせる。
そうすれば彼も私に従うでしょう。
ただ甘やかすのではない。厳しさの中にも優しさを混ぜる。
これが私のやり方。少々姑息だが戦術の一つ。
「それでボノはなぜここを? 」
「この辺りで不審な動きがあるので見張るようにとのことです。
それ以上のことは俺にも分かりません。どうぞお許しください」
一体何をそんなに恐れているのだろう。
もう許してるつもりなのに。
「お願いします。百叩きも鞭打ちもご勘弁ください。
俺は苦手なんです。想像するだけでも。あああ…… 」
情けない男。ではお望みどおりにしてあげようかしら。
「してもらいたいの? 」
「滅相もございません。どうかご勘弁を」
「分かりました。では今回のことはお互い見なかったことにしましょう」
「へええ? 」
「ご主人様がお許しなさった。これ以上手を煩わすな! 」
メイドが気持ちを汲み後を引き取る。
「はい。ではボノ様にはお伝えしません」
これでようやく通り抜けられる。
まったくボノは私たちを監視するつもり?
それともただ単に不穏な空気を感じ警戒してるだけ?
ボノへの疑惑が深まった。
馬車を飛ばし屋敷へ戻る。
まったく余計なものに手を取られたせいで予定が狂ってしまった。
これで特訓が回避できるならいいのだけど。
続く
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