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海の女神
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ヴィーナの機嫌も直り和やかな一時。
「そうだセピユロス君。釣りに行ったそうだね? 」
夜明け前に出かけたらしい。
「はい。近くの海で大物を狙ってみたんですけどね。当たりがなくポイントを移動するだけで随分時間を要してしまいました。やはり大物はまだ私には早いのかな」
結果小魚が二匹とイカ一杯。
「おおではこのイカは君の戦利品か」
「いやあ僕もイカが釣れるとは思ってなくて…… かかりますかね? 」
珍しいことだそうだ。詳しいことは良く分からないので聞いてる振り。
「まあ取れなくはないがね。ただやはり珍しい」
「ちょっと何これ。動いてる」
イカのマリネ。
「申し訳ありませんお嬢様。新鮮なものをと思い作ったのですがやはりまだ動いてましたか。お取替えします」
メイドが料理人に確かめる。
「ああ大丈夫ですよ。食べても腹痛を起こす程度です」
漁師の家出身のメイドが勧める。
彼女の話では海の神アニーサが取りついているのだとか。
心のきれいなものには悪さをしない。
ただ薄汚れていると腹痛や下痢を引き起こすそうだ。
新鮮なイカにはつきものだとか。
「何をしてるの。もしものことがあったらどうするのです」
安全にも安全に。仮に体に異変がなかったとしてもお出ししていいはずがない。
いくら釣った本人が良いと言ったとしても責任はこちらにある。
すぐに取り換えることになった。
「申し訳ありません。つい余計なものを釣り上げたばっかりにご迷惑を」
セピユロスは頭を掻く。
調理の仕方に問題があったに過ぎず決して彼のせいではない。
料理人も一流どころを抑えてるがはっきり言ってしまえば気にしていない。
ここは都会とは違う。多少おおらかで緩いのだ。
そしてこのアニーサは最近言われるようになったのでこんな田舎ではまだ知れ渡っていない。
どれほど危険かはもう少し時間が掛るだろう。
「気にするな。君は見えなかったのだろう? 」
「はい。よく見てはいませんが確かに」
「見えないのは心に穢れがない証拠。良いではないか」
ボノは寛大だ。自分も見えていないと言いたいのだろうがボノの場合はいい加減なだけで彼とは違う。
「さあさあ火を通してあるものは安全でしょうからそちらを楽しみましょう」
結局新鮮さが売りだった一品を下げる形となってしまった。
ちょっとしたことでディナーが台無しになる。
まあまだメインディッシュがあるからいいでしょう。
イカ尽くしはまだまだ続く。
海の女神アニーサで一騒動。
ただこれくらいハプニングがあった方が面白いし記憶に残りやすい。
ふふふ……
「どうしたディーテ? 」
「だっておかしいんですもの」
「おいおい食事中だぞ。もう少し抑えなさい」
「あらボノだって食べながらお喋りなさってる」
「私は良いんだ。ほらヴィーナが真似をする」
子供扱いを始めるボノ。
「もうパパったら。恥ずかしいんだから」
むくれてしまうヴィーナ。
「ははは…… 」
セピユロスも堪らず笑い出す。そして咽てしまう。
「もう! ほら大丈夫? 」
ヴィーナは怒りながらも背中をさする。
セピユロスの笑いは止りそうにない。
一度始まると抑えるのが難しいのか息が苦しそうだ。
これではまるで海の女神アニーサの呪い。怒りに触れたのではと思えなくもない。
「済みません。つい笑ってしまいました」
「あらあらキノコにでもあたったんでしょうか。セピユロスさんたら」
「もうダメ」
ついにはヴィーナまで笑いだす始末。
ちょっとの出来事が場を盛り上げる。
決して愉快なことではないのだが。
「そうだセピユロス君。今度はサーモンはどうだい? 」
ボノが釣りの誘い。
「そうですね。ぜひお願いします」
無類の釣り好きのセピユロス? ただ断われずに返事したのか?
「それから言いづらいんだが…… 」
ボノはまたセピユロスに何か良からぬことを勧めている。
本当に困ったボノ。断れないことを良いことに強引なんだから。
コソコソ二人で話し始めた。
続く
「そうだセピユロス君。釣りに行ったそうだね? 」
夜明け前に出かけたらしい。
「はい。近くの海で大物を狙ってみたんですけどね。当たりがなくポイントを移動するだけで随分時間を要してしまいました。やはり大物はまだ私には早いのかな」
結果小魚が二匹とイカ一杯。
「おおではこのイカは君の戦利品か」
「いやあ僕もイカが釣れるとは思ってなくて…… かかりますかね? 」
珍しいことだそうだ。詳しいことは良く分からないので聞いてる振り。
「まあ取れなくはないがね。ただやはり珍しい」
「ちょっと何これ。動いてる」
イカのマリネ。
「申し訳ありませんお嬢様。新鮮なものをと思い作ったのですがやはりまだ動いてましたか。お取替えします」
メイドが料理人に確かめる。
「ああ大丈夫ですよ。食べても腹痛を起こす程度です」
漁師の家出身のメイドが勧める。
彼女の話では海の神アニーサが取りついているのだとか。
心のきれいなものには悪さをしない。
ただ薄汚れていると腹痛や下痢を引き起こすそうだ。
新鮮なイカにはつきものだとか。
「何をしてるの。もしものことがあったらどうするのです」
安全にも安全に。仮に体に異変がなかったとしてもお出ししていいはずがない。
いくら釣った本人が良いと言ったとしても責任はこちらにある。
すぐに取り換えることになった。
「申し訳ありません。つい余計なものを釣り上げたばっかりにご迷惑を」
セピユロスは頭を掻く。
調理の仕方に問題があったに過ぎず決して彼のせいではない。
料理人も一流どころを抑えてるがはっきり言ってしまえば気にしていない。
ここは都会とは違う。多少おおらかで緩いのだ。
そしてこのアニーサは最近言われるようになったのでこんな田舎ではまだ知れ渡っていない。
どれほど危険かはもう少し時間が掛るだろう。
「気にするな。君は見えなかったのだろう? 」
「はい。よく見てはいませんが確かに」
「見えないのは心に穢れがない証拠。良いではないか」
ボノは寛大だ。自分も見えていないと言いたいのだろうがボノの場合はいい加減なだけで彼とは違う。
「さあさあ火を通してあるものは安全でしょうからそちらを楽しみましょう」
結局新鮮さが売りだった一品を下げる形となってしまった。
ちょっとしたことでディナーが台無しになる。
まあまだメインディッシュがあるからいいでしょう。
イカ尽くしはまだまだ続く。
海の女神アニーサで一騒動。
ただこれくらいハプニングがあった方が面白いし記憶に残りやすい。
ふふふ……
「どうしたディーテ? 」
「だっておかしいんですもの」
「おいおい食事中だぞ。もう少し抑えなさい」
「あらボノだって食べながらお喋りなさってる」
「私は良いんだ。ほらヴィーナが真似をする」
子供扱いを始めるボノ。
「もうパパったら。恥ずかしいんだから」
むくれてしまうヴィーナ。
「ははは…… 」
セピユロスも堪らず笑い出す。そして咽てしまう。
「もう! ほら大丈夫? 」
ヴィーナは怒りながらも背中をさする。
セピユロスの笑いは止りそうにない。
一度始まると抑えるのが難しいのか息が苦しそうだ。
これではまるで海の女神アニーサの呪い。怒りに触れたのではと思えなくもない。
「済みません。つい笑ってしまいました」
「あらあらキノコにでもあたったんでしょうか。セピユロスさんたら」
「もうダメ」
ついにはヴィーナまで笑いだす始末。
ちょっとの出来事が場を盛り上げる。
決して愉快なことではないのだが。
「そうだセピユロス君。今度はサーモンはどうだい? 」
ボノが釣りの誘い。
「そうですね。ぜひお願いします」
無類の釣り好きのセピユロス? ただ断われずに返事したのか?
「それから言いづらいんだが…… 」
ボノはまたセピユロスに何か良からぬことを勧めている。
本当に困ったボノ。断れないことを良いことに強引なんだから。
コソコソ二人で話し始めた。
続く
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