3 / 125
メイド
しおりを挟む
肝心のヴィーナの姿がない。
まさかセピユロスさん一人で来ることもないでしょうに。
「済みません。実は途中で喧嘩してしまいまして口も利いてくれないんです」
そう言って申し訳なさそうに頭を掻くセピユロス。
原因は彼にありそうだ。優しく気配りできるタイプ。
困った女性を見ると放っておけない性格で道中でもすぐに声を掛けたのだとか。
それがヴィーナには耐えられないのでしょう。不機嫌になるのも頷ける。
嫉妬かしら。ただ彼を縛り付けたいだけに見える。
本当におかわいそうなセピウロスさん。
「ではヴィーナは放っておいてご寛ぎください」
客人を迎え入れる。
「荷物を…… 」
「ご主人様。ダメですよ」
そうだった。ついついメイドに。しかもこんな新人メイドにまで諭される始末。
「ではお部屋にご案内してあげてね。ぺディー」
彼女は主に荷物持ちや掃除等の雑用係。
三十人いるメイドの一番格下にいる。
これは私が決めるのではなくメイド頭によるもの。
私は一切権限を持っていない。
一番信頼の置ける者をメイド頭にしすべてを一任している。
「そうだネーバを呼んできてちょうだい」
ネーバは私専属のメイド。メイド頭程ではないが信頼の置ける五人をつけている。
お世話係二人。相談役一人。随行メイド一人。 影のメイド一人。
随行メイドは要するに外で世話をしてくれる者。
影のメイドは存在を明かしていない。
日頃はただのメイドとして。何かあれば手となり足となり動いてくれる。
ただ何もなくても一ヶ月に一回程度の報告は入れてもらうことに。
もちろん一番は我が不肖の夫ボノの動向を探ること。
だって彼ったら放っておくとすぐに手を出すんだから困ってしまう。
私が何度も口酸っぱく注意しても直らない。
三十人いるメイドを夫の周りに配置しないよう取り計らったが限界がある。
メイドも嫌がる者と好んでお世話する者に別れる。
権限がない以上お願い程度。
できるなら夫には誰も近づかせたくない。
だって本当に見境がないんですもの。
ではそろそろ着替えましょう。
この日の為に新調した紫と黒の大胆なドレス。
昨日ようやく届いた。
「ではお立ち下さい」
「私一人でもできるわ」
「困らせないでくださいご主人様」
替えも仕事の一つだそうで一度も一人だけで着替えさせてくれない。
もう慣れたとは言え本当に嫌になる。
でも彼女たちの仕事を取るべきではない。
「ネーバお願い…… 」
「後ろを向いてください」
結局一人では何もできない女主人に成り下がる。
私はもう立派な女性。
娘だって大きくなった。
着替えぐらいいいじゃない。
そんなこと考えてるものだからネーバの呼びかけにも気が付かない。
「ご主人様どうしました? ぼうっとしていましたよ」
ネーバは付き合いが長いからズバズバ言ってくる。
嬉しいのだけどたまに傷つく。
「では掃除でも」
「おふざけにならないでください」
そうメイドの仕事と言えば大半がこの大きな屋敷の掃除。
それを奪おうとしている。決して看過できない行為。
「ではお料理を」
「ですから料理長が指示をしてますので今日はご遠慮ください」
これもいつものパターン。
かれこれ一ヶ月は料理をさせてもらえてない。
昔は料理の腕には自信があったのに。
もう作り方を忘れてしまった。
「でも来月にはお食事を持ちよっての定例会よ。どうしましょう? 」
二ヶ月に一回地域の人との親睦を深めるためのささやかなパーティーがある。
私は欠かさずに出席している。
「それも先生にお任せしているでしょう」
何だか本当に息苦しい。
なぜダメなのかちっとも言ってくれない。
「ではそれでしたら編み物を」
「ダメです! 」
すぐに取り上げられてしまう。窮屈で敵わない。
「お手を怪我されては旦那様に申し訳が立ちません。いつも言ってるではありませんか」
そうだった。でも今日は特別。ヴィーナが帰ってくる。
こんな日ぐらい何かさせてくれてもよろしくてよ。
「分かってますよ。どうも興奮してるみたい」
年甲斐もなく何をそんなに。だが自分にいくら問いかけても返ってこない。
私はおかしい。今日は何だか本当におかしい。
続く
まさかセピユロスさん一人で来ることもないでしょうに。
「済みません。実は途中で喧嘩してしまいまして口も利いてくれないんです」
そう言って申し訳なさそうに頭を掻くセピユロス。
原因は彼にありそうだ。優しく気配りできるタイプ。
困った女性を見ると放っておけない性格で道中でもすぐに声を掛けたのだとか。
それがヴィーナには耐えられないのでしょう。不機嫌になるのも頷ける。
嫉妬かしら。ただ彼を縛り付けたいだけに見える。
本当におかわいそうなセピウロスさん。
「ではヴィーナは放っておいてご寛ぎください」
客人を迎え入れる。
「荷物を…… 」
「ご主人様。ダメですよ」
そうだった。ついついメイドに。しかもこんな新人メイドにまで諭される始末。
「ではお部屋にご案内してあげてね。ぺディー」
彼女は主に荷物持ちや掃除等の雑用係。
三十人いるメイドの一番格下にいる。
これは私が決めるのではなくメイド頭によるもの。
私は一切権限を持っていない。
一番信頼の置ける者をメイド頭にしすべてを一任している。
「そうだネーバを呼んできてちょうだい」
ネーバは私専属のメイド。メイド頭程ではないが信頼の置ける五人をつけている。
お世話係二人。相談役一人。随行メイド一人。 影のメイド一人。
随行メイドは要するに外で世話をしてくれる者。
影のメイドは存在を明かしていない。
日頃はただのメイドとして。何かあれば手となり足となり動いてくれる。
ただ何もなくても一ヶ月に一回程度の報告は入れてもらうことに。
もちろん一番は我が不肖の夫ボノの動向を探ること。
だって彼ったら放っておくとすぐに手を出すんだから困ってしまう。
私が何度も口酸っぱく注意しても直らない。
三十人いるメイドを夫の周りに配置しないよう取り計らったが限界がある。
メイドも嫌がる者と好んでお世話する者に別れる。
権限がない以上お願い程度。
できるなら夫には誰も近づかせたくない。
だって本当に見境がないんですもの。
ではそろそろ着替えましょう。
この日の為に新調した紫と黒の大胆なドレス。
昨日ようやく届いた。
「ではお立ち下さい」
「私一人でもできるわ」
「困らせないでくださいご主人様」
替えも仕事の一つだそうで一度も一人だけで着替えさせてくれない。
もう慣れたとは言え本当に嫌になる。
でも彼女たちの仕事を取るべきではない。
「ネーバお願い…… 」
「後ろを向いてください」
結局一人では何もできない女主人に成り下がる。
私はもう立派な女性。
娘だって大きくなった。
着替えぐらいいいじゃない。
そんなこと考えてるものだからネーバの呼びかけにも気が付かない。
「ご主人様どうしました? ぼうっとしていましたよ」
ネーバは付き合いが長いからズバズバ言ってくる。
嬉しいのだけどたまに傷つく。
「では掃除でも」
「おふざけにならないでください」
そうメイドの仕事と言えば大半がこの大きな屋敷の掃除。
それを奪おうとしている。決して看過できない行為。
「ではお料理を」
「ですから料理長が指示をしてますので今日はご遠慮ください」
これもいつものパターン。
かれこれ一ヶ月は料理をさせてもらえてない。
昔は料理の腕には自信があったのに。
もう作り方を忘れてしまった。
「でも来月にはお食事を持ちよっての定例会よ。どうしましょう? 」
二ヶ月に一回地域の人との親睦を深めるためのささやかなパーティーがある。
私は欠かさずに出席している。
「それも先生にお任せしているでしょう」
何だか本当に息苦しい。
なぜダメなのかちっとも言ってくれない。
「ではそれでしたら編み物を」
「ダメです! 」
すぐに取り上げられてしまう。窮屈で敵わない。
「お手を怪我されては旦那様に申し訳が立ちません。いつも言ってるではありませんか」
そうだった。でも今日は特別。ヴィーナが帰ってくる。
こんな日ぐらい何かさせてくれてもよろしくてよ。
「分かってますよ。どうも興奮してるみたい」
年甲斐もなく何をそんなに。だが自分にいくら問いかけても返ってこない。
私はおかしい。今日は何だか本当におかしい。
続く
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中


【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる