なぜお義母様と呼ばないのです

二廻歩

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メイド

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肝心のヴィーナの姿がない。
まさかセピユロスさん一人で来ることもないでしょうに。

「済みません。実は途中で喧嘩してしまいまして口も利いてくれないんです」
そう言って申し訳なさそうに頭を掻くセピユロス。
原因は彼にありそうだ。優しく気配りできるタイプ。
困った女性を見ると放っておけない性格で道中でもすぐに声を掛けたのだとか。
それがヴィーナには耐えられないのでしょう。不機嫌になるのも頷ける。
嫉妬かしら。ただ彼を縛り付けたいだけに見える。
本当におかわいそうなセピウロスさん。

「ではヴィーナは放っておいてご寛ぎください」
客人を迎え入れる。
「荷物を…… 」
「ご主人様。ダメですよ」
そうだった。ついついメイドに。しかもこんな新人メイドにまで諭される始末。
「ではお部屋にご案内してあげてね。ぺディー」
彼女は主に荷物持ちや掃除等の雑用係。
三十人いるメイドの一番格下にいる。

これは私が決めるのではなくメイド頭によるもの。
私は一切権限を持っていない。
一番信頼の置ける者をメイド頭にしすべてを一任している。
「そうだネーバを呼んできてちょうだい」
ネーバは私専属のメイド。メイド頭程ではないが信頼の置ける五人をつけている。

お世話係二人。相談役一人。随行メイド一人。 影のメイド一人。
随行メイドは要するに外で世話をしてくれる者。
影のメイドは存在を明かしていない。
日頃はただのメイドとして。何かあれば手となり足となり動いてくれる。
ただ何もなくても一ヶ月に一回程度の報告は入れてもらうことに。
もちろん一番は我が不肖の夫ボノの動向を探ること。
だって彼ったら放っておくとすぐに手を出すんだから困ってしまう。
私が何度も口酸っぱく注意しても直らない。
三十人いるメイドを夫の周りに配置しないよう取り計らったが限界がある。
メイドも嫌がる者と好んでお世話する者に別れる。
権限がない以上お願い程度。
できるなら夫には誰も近づかせたくない。
だって本当に見境がないんですもの。

ではそろそろ着替えましょう。
この日の為に新調した紫と黒の大胆なドレス。
昨日ようやく届いた。
「ではお立ち下さい」
「私一人でもできるわ」
「困らせないでくださいご主人様」
替えも仕事の一つだそうで一度も一人だけで着替えさせてくれない。
もう慣れたとは言え本当に嫌になる。
でも彼女たちの仕事を取るべきではない。

「ネーバお願い…… 」
「後ろを向いてください」
結局一人では何もできない女主人に成り下がる。
私はもう立派な女性。
娘だって大きくなった。
着替えぐらいいいじゃない。
そんなこと考えてるものだからネーバの呼びかけにも気が付かない。
「ご主人様どうしました? ぼうっとしていましたよ」
ネーバは付き合いが長いからズバズバ言ってくる。
嬉しいのだけどたまに傷つく。

「では掃除でも」
「おふざけにならないでください」
そうメイドの仕事と言えば大半がこの大きな屋敷の掃除。
それを奪おうとしている。決して看過できない行為。
「ではお料理を」
「ですから料理長が指示をしてますので今日はご遠慮ください」
これもいつものパターン。
かれこれ一ヶ月は料理をさせてもらえてない。
昔は料理の腕には自信があったのに。
もう作り方を忘れてしまった。

「でも来月にはお食事を持ちよっての定例会よ。どうしましょう? 」
二ヶ月に一回地域の人との親睦を深めるためのささやかなパーティーがある。
私は欠かさずに出席している。
「それも先生にお任せしているでしょう」
何だか本当に息苦しい。
なぜダメなのかちっとも言ってくれない。

「ではそれでしたら編み物を」
「ダメです! 」
すぐに取り上げられてしまう。窮屈で敵わない。
「お手を怪我されては旦那様に申し訳が立ちません。いつも言ってるではありませんか」
そうだった。でも今日は特別。ヴィーナが帰ってくる。
こんな日ぐらい何かさせてくれてもよろしくてよ。
「分かってますよ。どうも興奮してるみたい」
年甲斐もなく何をそんなに。だが自分にいくら問いかけても返ってこない。
私はおかしい。今日は何だか本当におかしい。

                   続く
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