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脱出 初めてのチュウ

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アトリのお陰で準備が整った。
後は怖がらずに天狗のテープが貼ってある壁に思いっ切り突っ込むだけ。

「よくやってくれたアトリ」
頭を撫でてやる。
「もうご主人様! 」
怒って見えるがもちろんそんなことはない。喜んでいる。

部屋も通路も白い煙に包まれた。
「ミヨちゃん。これは何? 」
「私にも何だか…… 」
詳細は聞かされてないとのこと。

うおおお! 
迷惑爺さんが騒ぎ始める。
「どうしたんだよ爺さん? 」
「この馬鹿たれ! 儂を白い煙まみれにしおって」
爺さんは顔を触り髪を掻きわける。
そしてミヨちゃんの鏡を勝手に持ち出す。
何て爺さんだ。女性のしかも海底の女神の手鏡を勝手に。非常識過ぎる。

「やっぱり! 儂は爺になってしまったわ! このスカタン! 」
何事かと思えばただの爺さんの戯言。
「あの…… 申し訳ありませんが何一つ変わっておりません。
ここに来た時の格好のままです」
アトリはロボットだから爺さんを傷つけるのも気にせずにそのまま言ってしまう。
「ご主人様! 」
俺が思うことまで咎める始末。そう言うところは改善すべきだろうな。

「おいノコタン! 儂は男前のダンディーではなったのか? 」
爺さんにとって現実を突きつけられるほど辛いものはないのだろう。
「いやそのな…… 」
あのノコタンでも遠慮気味。それに気づけない爺さんは哀れとしか言いようがない。
「遠慮はいらん! 正直に答えてくれんか? 」
爺さんに懇願されてはノコタンも答えるしかない。
「ああそうだよ。あんたは会った時と変わらないよ。
変わったとしたら老けたか…… 想像を絶する無人島生活で老いたか。
空からダイブした時に白髪に染まったかもしれないが爺は爺さ! 」
ノコタンは容赦がない。だがこれも爺さん本人の願い。

「ではこれが本当の姿だとゲン? いやリーダー? 」
うわこんな時にリーダーを持ち出さないでよ。答え辛いじゃないか。
「そう出会った時のまま。この白い煙は関係ない。
ああ吸い込むと咽るからたぶん危険な代物ではあると思うけど」
「だったらなぜ儂は老けた? 」
まだ老けたことにしたいらしい。この際どっちでもいい気もするが爺さんの為だ。
「恐らく酒と海底の女神で気持ちいい思いをし自分を勘違いしてしまった。
自分が若くて格好いいと。しかしその幻想も白い煙で戻され元の爺さんになった」
長々と説明してようやく理解してくれた。
もう。今はそんな時じゃないのに面倒臭いな。

煙も一時的のようでどうにか視界が開けた。
当然追手も爺さん同様回復してる。
爺さんも納得したことだし急いで逃げるとしよう。

ドンドン!
ドンドン!
「そこを開けぬか愚か者たちよ! 我が裁きを受けるがいい! 」
怒り狂った乙様が扉の向こうに。
どうする? どうする?
「ははは…… もう逃げ道はないようだな」
ノコタンが格好をつける。
「そうですね。ではご主人様ご決断を! 」
「俺? 爺さんに…… 」
「リーダーじゃろ? しっかりせい! 」
どうやら皆気持ちは一つのようだ。

「あの…… ミヨちゃんはどうする? 」
仲間ではないが協力者。放っておけば罰を受ける。
「一緒に行きたいのは山々。でもここも気に入ってるの。だから遠慮します」
ミヨちゃんは早く行くように促す。

「よし皆行こう! 」
「ではさらばじゃ! 」
一人勝手に先に行く爺さん。
それに釣られノコタンも。
「助かったよあんた」
振り返ったノコタンが最後の挨拶を済ます。

「それではまた。行きましょうご主人様」
アトリが促す。
「待ってくれ。きちんとお別れが言いたい」
アトリを先に行かせる。

ミヨちゃんと二人っきりになったところで本心を聞いてみる。
「本当にこれでいいの? 」
「はい」
「本当に本当? 」
「ええ…… お願い最後に一つだけ! 」
ミヨちゃんが本心を打ち明ける。
「でも俺には…… 」
「分かってる。でも最後にお願い! 」
ミヨちゃんは別れのキスを要求。
あれ…… 説得して一緒に脱出する予定だったんだけどな。

「分かったよミヨちゃん。それじゃ行くね…… 」
少し照れくさいがミヨちゃんの気持ちに応えようと思う。

「ミヨちゃん! 」
「コロちゃん…… 」
こうして静かに別れのキスを。

「ありがとう。またねミヨちゃん」
こうして天狗のテープが貼ってある壁に突っ込む。
天狗のテープは地上へと続いていた。

                続く
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