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かばん屋

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「くそまたかよ! この世界の奴は二言目には警告、警告だ。
俺が何をしたってんだよ? ただ分かんないから聞いてるだけじゃないか。
もうイライラするな! 」
「ゲン! 」
表情と仕種にでてしまったのかと思ったらどうも心の声が漏れていたらしい。
また警告か? でもこれは仕方ない。我慢できないもの。
「本当に困った人ね…… 」
エクセルに呆れられる。

「いい? ここはかばん屋さん。あなたの負担を減らすためにやってるんでしょう?
長い旅にはかばん選びが重要になってくるの」
またかよ。これ以上説教を喰らいたくない。
いくら俺がこの世界の異物でも仕打ちが酷すぎる。絶体に飼いならされるものか。
ふう…… やけにイライラすると思ったら眠いからだなきっと。

「ほら困ってるじゃないお店の人。謝りなさい! 」
「どうもすいません」
「その怒りに満ちた表情は何? 反省してないでしょう? 」
くそ! もう限界だぜ。
「ほらもう一度! 」
「どうもすいません。へへへ…… 」
「ふざけない! 」
「何だと? 」

「もう結構ですよお客様。それでどのようなかばんをお求めでしょうか? 」
さっそく商売上手な店員が高そうなかばんを勧める。
まさかお詫びの印に買えとか? 
「これなどいかがでしょう? お安くしておきますよ」
最高級ブランドのかばんを持って来る。
俺がそんな金持ちに見えるか?
「その…… 」
「でしたら新商品のこちらなど。先月発売のニュータイプ。
いかがいたしましょう? 」
商売上手な爺だ。俺を嵌めようとしてないか?
こうなるともうエクセルまでグルに見えてくるから不思議な感じ。
もちろんそんな訳ないが。

「悪い。金がもうないんだ」
正直に言ってみる。
だが店員は顔色一つ変えない。
「ああでしたらカードを作りませんか? 」
とんでもない爺に出会ったものだ。
「カードはちょっと…… 」
「冷やかしですか? 」
「とんでもない! 買いに来たんだからさ」
「やはりカードを作りましょう。最短で二分ですから。ご心配なさらずに。
お客様のような信用のない方でも審査をすり抜けられると思うのでご安心ください」
馬鹿丁寧にとんでもなく失礼なことを言う。悪気はないのだろう。
怒るな。怒ってはダメだ。

「なあエクセル? 」
「もうしょうがないわね。ほら好きに使いなさい! 」
エンゼルカードを渡される。
そう俺には使う金などない。カードですべてお支払いだ。
まあある意味面倒臭くなくていいのだがこれではへそくりさえ作れない。
情けないことに常にエクセルの許可がいる。
仮にモンスターを倒してもいくら儲かったか分からない仕組み。
エンゼルカードは上限がないので好きなだけ買える。
だが監視が厳しいので当然好きなようには買えない。
一見矛盾してる様に見えるが慣れればいい。
エクセルの監視から逃れ好き放題使えばいいのだが今のところその隙を見せない。
鉄壁のガードを見せるエクセル。

「お客さん。いかがいたします? 」
迫ったところで俺に決定権はないんだって。
言い訳するのも虚しい。
この妖精に運命を握られてるようなもの。
慣れればいい? 馬鹿を言うな! 俺は俺の好きなように買いたいんだ。
だが突き通せば恐らくまた警告をもらうことになる。
ああ何て不幸な星の下に生まれたのだろう?

「お客さん? お客さん? 冷やかしでしたら勘弁してください。
もう店仕舞いしますんで」
おおうまい戦略だ。あとちょっとでと言われたら誰でも焦って買いたくなるもの。
購買意欲も上昇。何でも買うモードに。

「この小さいのでいい? 」
いちいち許可を取る。もう飼いならされてしまった。
このままでは一生エクセルのご機嫌取りし続けなくてはならない。
もちろんそれでは俺の好きなように出来ない。
鼻を伸ばすことも羽根を伸ばすことも叶わない。
「仕方ないわね。一個だからね。たくさん入るのにしなさい」
まるで保護者のようなエクセル。

俺はもう十六なんですけど。
飯だって食うし酒だって飲むし博打だって打つし女だって……
まずいこれ以上は言えないや。
親父の真似をしただけだからな。

                 続く
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