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ご注文は……

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千年妖精のエクセルは俺たちの十倍生きることが出来るそう。
この世界がおかしくなって三年が経過。
この間の辛い時期を乗り越えた俺たちには長く感じたが彼女には数日前のことだと。
人によって時の扱いが異なるのは理解するがここまでとは正直驚いている。
もちろんエクセルは人間ではない。それでも俺たちと同じ感覚だと思いたい。
二人の間に違いはないとそう信じたい。
ただの希望的観測でしかないが。

「あなたが見た動物は恐らく実在する。
この第一エリアのどこかにそのウサギがいると思うの。
そのウサギこそが仲間の居場所を示してくれるはず」
信じろと言うのか? まさかね。
取り敢えず手掛かりもないことだし青だか白だからのウサギを探すしかない。

ぐううう……
うおおお! お腹が鳴ってる。腹減ったな。
「もう子供なんだから。さあレストラン…… はないからカフェにでも」
この世界のことをよく知るエクセルにすべて任せればいいさ。
俺は言わるままただ従うだけでいい。楽でいいや。

案内役のエクセルに連れられて第一世界を歩き回る。
そうするといつの間にか体が温まってきた。
「あれ寒くないや」
「もう慣れたみたいね。どうやらあなたは温暖なところからやって来たみたい。
体が適応したってことは歓迎されたのね」
エクセルは意味不明な発言を繰り返す。

第一世界は今は冬だそうだが寒いのは最初だけ。
慣れれば快適な世界となる。
モンスターの襲来によってもたらされた数少ない恩恵。
ただ四季が失われた人工的な世界と言えなくもない。
快適を取るか季節の変化を楽しむかで意見が分かれる。
今は反対する者もわずかとなったそう。
この世界に異を唱えればモンスターから仕打ちを受けるのが目に見えてる。

カフェで一息つく。
「ゴホン…… ほら聞いてみたら」
念のためにウサギについて聞くように迫るがなぜ俺が?
一応は案内役なんだしエクセルが聞いたっていいじゃないか。
いや俺なんかよりもここに詳しいならまさに適任。

「あの…… 」
聞くとなると緊張する。だからつい違うことを聞いてしまう癖がある。
もうどうなっても知らないからな。

「ご注文はお決まりですか? 」
俺よりも幼く見えるが恐らく二十歳ぐらいだろう。
その可愛らしい笑顔が一瞬で凍り付かなければいいが。
「その…… ウサギが…… 」
駄目だ。新種のウサギについてどう聞くべきか迷う。いや分かるはずがない。

「この後は暇? 」
まずい余計なことを聞いてしまった。
「はい。予定は入っておりませんが…… 」
まずいまずい。俺は一体何をやってるんだろう?
アンに告白しようとしてるのになぜか違う女に手を出そうとしてる。
彼女は明らかに何も知らない。余計なことに時間を割いてる暇はない。

「ありがとう。あのウサギなんだけどさ…… 」
はっきりしないので困り顔のお姉さん。
もう年上だと分かったのでここからはお姉さんをつける。
決して疚しい考えに基づいてる訳ではない。

「ご注文はウサギですか? 」
「そうウサギ。ウナギじゃないよ」
「では確認よろしいですか? 」
「勝手にどうぞ」
「ご注文はウサギですか? 」
「だからさっきからウサギだって言ってるだろ! 」
つい強い口調になる。イライラが堪っているようだ。
慣れない世界にただでさえ苦労してるのにしつこく繰り返すから。

俺の田舎にはカフェなどと言ったお洒落な店は皆無。
さっき初めて来た。だから緊張してる。これ以上余計なことはしないで欲しい。

「繰り返します。ご注文の品はウサギ。ご注文はウサギですか? 」
「そうだ。頼む! 至急持ってきてくれないか」
多少は格好をつける。それが男と言うもの。
「申し訳ありません。当店ではそのような商品を扱っていません」
無駄足だったか。初めからもったいぶらずに言って欲しかった。

どこからともなく謎の警告音が。気のせい?

ここは大人しく引き下がってパンとデザートで我慢するしかない。
情報収集を終えカフェを後にする。

                続く
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