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旅立ちの時

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『モンスターに告白を』

世界の片隅でひっそりと暮らす言の葉村の人々。
今その村では一人の勇者が旅立とうとしている。
その名も源右衛門。
俺の本名だ。村ではゲンだとかゲンウーとか呼ばれている。
へへへ…… ちょっと格好つけすぎたかな。
自己紹介はこれくらいでいいか。

言の葉村。
誰が付けたのか村には笑顔と白い歯が溢れる平和な世界。
そんな願いにも似た「言の葉」。
俺は気に入ってるがそんな大勢の笑いが溢れる世界は突如として終わりを告げる。
あの日……

村と言っても山奥の集落で他所との交流はほとんどない。
それはなぜか?
三年前に起きたモンスター襲来。
世界が狂い始めた。
一見平和な世界でも支配されている事実がある。
モンスターに屈することなく生き抜く。
それがいつしか俺たちのささやかな夢へと変化した。

いつも迷っている。どうすればいいのか?
一ヶ月の期限は明日まで。
もう旅立つ時。
そうは思うんだけどどうしても決心がつかない。
誰か背中を押してくれないかな。強くそして優しく。

「おおよくぞ来たな。どうやら決心したようじゃな。それでこそ勇者たるもの」
この村の指導者ダスケ。
怒らせると厄介な男だが頼りがいのある男。
酒癖が悪く酔うと誰彼構わずにブン投げる困った奴。
村長の息子で誰も逆らうことは出来ない。
その村長は今大病を患っており実質ダスケがこの村を仕切っている。

「ついでです。勘違いしないでください」
誰が村の為に犠牲になるものか。
俺にはどうしても告白しなくてはならない相手がいる。
それがアン。

アンとは将来を誓った仲。
離れ離れになったが今でも彼女が俺を受け入れてくれると信じてる。

「アンか…… こちらとしては好都合。しかしな言右衛門よ。
もうお前のことなど忘れてるかもしれない。それでも会いに行くと言うのだな? 」

アンがこの村を出たのは二年ほど前。ちょうどその時見たこともない化け物。
神より遣わされたと言われる新生命体が世界を支配し始めた。
俺たちも必死に抵抗するも武力も知性も比べものにならず半年経たずバラバラに。
村は二分。結局村人は戻ってこなかった。

それから一年が過ぎ災厄を逃れた我々は反撃に転じる動きに出る。
その第一弾として外の世界に飛び出し我々の仲間を探す旅に。参加者を募っていた。
俺は外の世界に興味があったし俺が断れば幼い弟に番が回って来る可能性もある。
だから仕方なく志願した。

結界を解き外の世界を旅することを決断。
だがさすがに言われるままでは情けないので勝手に話を変える。
アンを見つけ出し結婚を申し込む。
その為に俺は旅立つのだ。
村の者の安否などついででしかない。
アンが無事なら村の者だって……

「良いか若者よ! この旅は決して楽ではないぞ。過酷を極める。
止めるのなら今の内だぞ。それでも行くと言うなら我が手を握れ! 」

まったく何を考えてやがる。俺が行かなければ弟が危ない。
そして明日までが期限。今のうちに出発するのが無難だろう。
ギリギリで行こうとして時間切れになったらどうする?
他の者に任せたっていいが最悪弟になったら俺の立場がない。
いい笑いもの。村中で馬鹿にされ家では冷たい目。居場所を失くす。
それに耐えるぐらいなら俺の体を差し出す覚悟。

「よろしいのですかダスケ様? 俺はどっちでも構わないのですが」
意表をついて混乱させる。
これぐらい反抗してもいいよね。
俺はこの村の運命を握る勇者で村中で語り継がれる伝説の勇者になるのだから。
武勇伝も面白エピソードぐらい残すのも理解してくれるよね。
「いや…… 今更止めるのは不可能。勘弁してくれ。お願いだよ」
どうやら引き止めはただの儀式の一環らしい。
止めたいよ。止めれるなら。でもそうじゃない。

「俺たちは結ばれる運命。大丈夫心配しないで。立派に役目を果たして見せます」
「よろしいその心意気だ! では勇者よ旅立つがいい! 」
「ははあ! 」
最後の挨拶を済ます。

                 続く
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