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逆らえない
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送りの儀。
西の館。通称・湖の館にて厳粛に執り行われている最中だが……
実際は第一村人による殺人計画が着々と進んでいる。
どうやら二姫は感付いたようだ。
「コウ。言うことを聞くの」
何を言ってやがるこの女。この期に及んでまだ支配できると思うなど笑わせる。
何でも思い通りになると思うなよ。
「私を殺すの? そのナイフで? ふふふ…… 果たしてあなたに出来るかしらそんな恐ろしいこと」
命乞いするなら助けてやってもと思ったがまさか想定外だ。まったく信じられない。
「いいコウ? 話を聞くの。聞きなさい」
開き直るとはどうかしてる。
まさか本気で言うことを聞くとでも思っているのか?
「コウ。コウ」
「何だまったく」
まずい。つい答えてしまった。
「ほら言うことを聞くのよ。聞きなさいコウ」
叫ぶ二姫。
最後の悪あがき。どってことない。うん問題ない。
だが……
「いい子ねコウ。それでいいの」
今度は優しく包み込むように諭す二姫。
まるで女神様のようだ。
穢れのないお姿に見えてしまう。だが彼女は正反対だ。
これは二姫の渾身の演技。騙されてはいけない。
しかし…… しかし……
逆らえない……
この女には逆らえない。
一族に立て突けはしない。
それが使用人同然の長年染みついた自分の本能。
自分は二姫には逆らえない。
とてもじゃないがそんな大それたことできはしない。
あれだけ周到に計画したと言うのに直前で怖気づいてしまう。
まったく自分が情けなく思えてくる。
結局ギリギリのところで踏みとどまる。
これでいい。これでいいのだ。
「申し訳ありません。二姫お嬢様」
許しを請う。
「ふふふ…… いいのよコウ。物分かりのいい子は嫌いじゃないわ」
やはり二姫の方が一枚も二枚も上手だ。
そもそも敵うはずがない。
「心配しないでコウ。これは私が仕組んだ罠。あなたは一族皆殺しを計画。
それを実行してるようだけどこれはあなたを焚き付け、そう仕向けたに過ぎないの。
落ち付いてコウ。私は怒ってない。これも計画の内なんだから」
「ど…… どう言うことだ? 」
さっきから訳が分からない。
自分の計画ではなく二姫の思い描いたもの。
そんな馬鹿な。そんなはずがあるか。
「最後には三貴と逃げるつもりだったんでしょう? 」
「三貴…… 三貴は関係ない。一切この計画には関わっていない」
「そう、それでもいい。とにかく確認させてね」
「自分は…… 自分は…… 」
もはや意味不明。確認とは?
「あなたは儀式中に私と一葉を殺害する計画。
そして最後にそもそもの元凶である当主に手をかけるつもりだった。
あなたにとっての復讐。どうここまでは合ってるでしょう? 」
肯定するしかない。
どこまで知ってやがる。この女本当に油断ならない。
「ほら大人しく。言うことを聞きなさい」
主導権を奪われる。
こうして牙を抜かれてしまう。
もはやペット。二姫のお遊びに尻尾を振る仔犬。
「いい子。いい子。それでこそ私のコウ」
頭を撫でられる。悪い気持ちがしないのはなぜだろう?
「何も計画を潰そうなんて思ってないわ。私を逃がしてくれればそれでいい。
後はご自由に。だけど私は見逃すの。それがあなたを見逃す交換条件」
「それはつまり…… 」
「問題ない。うまくやるつもりだから。ほら協力して」
「しかし…… 」
「いい? 分かったわね」
有無を言わせない高圧的な態度。
果たして本当にこのまま続けるべきか?
迷う。結論が出ない。
三貴と逃げる算段。復讐を果たす。
さあこのまま二姫の口車に乗っかって大丈夫か?
練り直すべきか?
いやここで立ち止ってる訳にはいかない。しかし……
迷い続ける。もちろん答えなどでない。
「いいコウ? このまま私を殺せば捕まるのよ。
私の親愛なる下僕が定時連絡を寄越すことになってるの。
もし私が出なければ殺害されたと判断し警察に駆け込むよう指示してある。
もちろん犯人を名指しにしてね。コウお前が犯人だとすぐにばれる。
そうなればお前の立てた計画がすべて台無しになる」
ちくしょう。先手を打ってやがったか。
「どう手も足もでないでしょう? これは保険よ。
でもコウはこんな取引なんかしなくても私の言うことを聞いてくれるわよね? 」
目を見つめ真偽を確かめるがどうやら嘘でもハッタリでもなさそうだ。
まったくこの女どれだけ用意周到なのか。
どうやら自分は二姫の手の中で踊らされていたらしい。
ここは冷静に。取引に応じるしかない。
「二姫お嬢様には敵いません」
このままでは三貴を巻き込むことになる。
それだけはどうしても避けなければならない。
続く
西の館。通称・湖の館にて厳粛に執り行われている最中だが……
実際は第一村人による殺人計画が着々と進んでいる。
どうやら二姫は感付いたようだ。
「コウ。言うことを聞くの」
何を言ってやがるこの女。この期に及んでまだ支配できると思うなど笑わせる。
何でも思い通りになると思うなよ。
「私を殺すの? そのナイフで? ふふふ…… 果たしてあなたに出来るかしらそんな恐ろしいこと」
命乞いするなら助けてやってもと思ったがまさか想定外だ。まったく信じられない。
「いいコウ? 話を聞くの。聞きなさい」
開き直るとはどうかしてる。
まさか本気で言うことを聞くとでも思っているのか?
「コウ。コウ」
「何だまったく」
まずい。つい答えてしまった。
「ほら言うことを聞くのよ。聞きなさいコウ」
叫ぶ二姫。
最後の悪あがき。どってことない。うん問題ない。
だが……
「いい子ねコウ。それでいいの」
今度は優しく包み込むように諭す二姫。
まるで女神様のようだ。
穢れのないお姿に見えてしまう。だが彼女は正反対だ。
これは二姫の渾身の演技。騙されてはいけない。
しかし…… しかし……
逆らえない……
この女には逆らえない。
一族に立て突けはしない。
それが使用人同然の長年染みついた自分の本能。
自分は二姫には逆らえない。
とてもじゃないがそんな大それたことできはしない。
あれだけ周到に計画したと言うのに直前で怖気づいてしまう。
まったく自分が情けなく思えてくる。
結局ギリギリのところで踏みとどまる。
これでいい。これでいいのだ。
「申し訳ありません。二姫お嬢様」
許しを請う。
「ふふふ…… いいのよコウ。物分かりのいい子は嫌いじゃないわ」
やはり二姫の方が一枚も二枚も上手だ。
そもそも敵うはずがない。
「心配しないでコウ。これは私が仕組んだ罠。あなたは一族皆殺しを計画。
それを実行してるようだけどこれはあなたを焚き付け、そう仕向けたに過ぎないの。
落ち付いてコウ。私は怒ってない。これも計画の内なんだから」
「ど…… どう言うことだ? 」
さっきから訳が分からない。
自分の計画ではなく二姫の思い描いたもの。
そんな馬鹿な。そんなはずがあるか。
「最後には三貴と逃げるつもりだったんでしょう? 」
「三貴…… 三貴は関係ない。一切この計画には関わっていない」
「そう、それでもいい。とにかく確認させてね」
「自分は…… 自分は…… 」
もはや意味不明。確認とは?
「あなたは儀式中に私と一葉を殺害する計画。
そして最後にそもそもの元凶である当主に手をかけるつもりだった。
あなたにとっての復讐。どうここまでは合ってるでしょう? 」
肯定するしかない。
どこまで知ってやがる。この女本当に油断ならない。
「ほら大人しく。言うことを聞きなさい」
主導権を奪われる。
こうして牙を抜かれてしまう。
もはやペット。二姫のお遊びに尻尾を振る仔犬。
「いい子。いい子。それでこそ私のコウ」
頭を撫でられる。悪い気持ちがしないのはなぜだろう?
「何も計画を潰そうなんて思ってないわ。私を逃がしてくれればそれでいい。
後はご自由に。だけど私は見逃すの。それがあなたを見逃す交換条件」
「それはつまり…… 」
「問題ない。うまくやるつもりだから。ほら協力して」
「しかし…… 」
「いい? 分かったわね」
有無を言わせない高圧的な態度。
果たして本当にこのまま続けるべきか?
迷う。結論が出ない。
三貴と逃げる算段。復讐を果たす。
さあこのまま二姫の口車に乗っかって大丈夫か?
練り直すべきか?
いやここで立ち止ってる訳にはいかない。しかし……
迷い続ける。もちろん答えなどでない。
「いいコウ? このまま私を殺せば捕まるのよ。
私の親愛なる下僕が定時連絡を寄越すことになってるの。
もし私が出なければ殺害されたと判断し警察に駆け込むよう指示してある。
もちろん犯人を名指しにしてね。コウお前が犯人だとすぐにばれる。
そうなればお前の立てた計画がすべて台無しになる」
ちくしょう。先手を打ってやがったか。
「どう手も足もでないでしょう? これは保険よ。
でもコウはこんな取引なんかしなくても私の言うことを聞いてくれるわよね? 」
目を見つめ真偽を確かめるがどうやら嘘でもハッタリでもなさそうだ。
まったくこの女どれだけ用意周到なのか。
どうやら自分は二姫の手の中で踊らされていたらしい。
ここは冷静に。取引に応じるしかない。
「二姫お嬢様には敵いません」
このままでは三貴を巻き込むことになる。
それだけはどうしても避けなければならない。
続く
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