『第一村人』殺人事件

二廻歩

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第一村人の意味

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「ふざけるなコウ」

助手が殴りかかろうとしたところを警察が止めに入る。

怒りの矛先をどこにも向けられず沈む助手。

「次に行ってください。探偵さんたちには随分迷惑をかけたと思います。

ですがこれは不可抗力。自分には本当にどうすることもできません」

開き直るコウ。


「コウ君改めて聞くよ。君が第一村人なんだね? 」

虚しい。何て虚しいんだ。

仲間を疑わざるを得ない現実に嫌気が差す。

「はい。脅迫状を送り付けました。

部外者の証人がどうしても欲しかったんです。

ほらいくら声色を使ってもあの二姫の真似はちょっと……

高圧的で嫌らしいネチネチした細かいことにもうるさい最低さは出せませんからね。

あー嫌だ。嫌だ。思い出すだけでもぞっとする。

まだあの一葉の方がましだったかな。ふふふ…… どこにいるのやら」

本人の口から直接語られる。

今まで疑いだけでとどめていたそのわずかな希望が完全に打ち砕かれる。


「ところでなぜ第一村人なんだい? 」

友人としてショックは隠せない。ただ探偵である以上追及を緩める訳にはいかない。

「自分は知っての通り村の外れに住んでいます。以前はあそこも山湖村でした。

何度となく変わる境界に辟易してました。

ほらあるでしょう? 元々は同じ村だったのにある日突然離れていく。

昨日まで仲間だった者が口も利いてくれなくなるような事態。

逆に吸収したり合併したりして新たな隣人とどう接したらいいかとか」


「君は恐ろしく冷静だね。村と村の争いに巻き込まれた犠牲者だと理解した。

君に降りかかった災難を思うと胸が痛むよ」

「探偵さん…… 」

「だからってコウ君…… それとこれとでは全く次元が違う」

結局は村が分かれたことによる悲劇。

その結果今がある。


「自分は、自分は山湖村の住民なんだ。

誰が何と言おうとそれだけは変わらない。

普遍なんですよ探偵さん。

渡しとしてのプライド。

自分の生まれ。

などなど挙げれば切りがない。

それらがあるから自分は山湖村に執着してるんです。

自分は第一村人。

この山湖村の一員なんだ。

誰にも否定させない。

山湖村の第一村人であると。

決してよそ者ではない。

岩男様の意思がどうであろうと自分は第一村人。

あの最悪の姉妹が何と言おうと自分は第一村人。

村の者にどう思われようと自分は第一村人。

だから、だから…… 」

コウ君は異常な興奮状態。

冷静な判断はもうできない。

「コウ君分かったよ。君の気持ちは良く分かった」

何とか抑えようとするがコウは止らない。

「実際にそうでしょう? あなた方が最初に出会った村人はこの自分です。

すべては計算通りにことが運んだ。ははは…… 」

満足そうに笑みを浮かべるどこか狂ってしまったコウ君。


大家さんが話を戻す。

「脱線しましたね。事件に戻りましょう。

二女が生きてると言い張るあなたは湖の館に行き死体をバラバラにした。

その後二回目で遺体の半分を乗せ引き返した。

さらに迎えの時に残り半分を乗せ証拠品と共に持ち帰った。

以上が第二消失の一連の流れ。

どこか違いますかコウ君? 」


大家対コウの世紀の一戦。

如何に真実に近づけるか。

如何に覆い隠すか。


「ええ。計画ではそうですとしか言えません」

回りくどい物言い。何を隠してる?

今自分が何を言っているのか本当に理解してるのか?

「実際はどうなんだってんだ。遺体はどこにある。埋めたのか? 棄てたのか?

まさか燃やしたなんてことないよな」

刑事が割り込む。


「あのね刑事さん。認めるものは認めますよ。二姫さんの行方?

知ってるなら教えて欲しいものだ。分かりませんよ。自分にはお手上げだ」

コウ君はふざけてるのか正直にすべてを語っているのか判断がつかない。

ただどこか嬉しそうだ。まだ余裕が感じられる。

刑事と大家さん相手に一つも怯まずに逃げることもしない。

多少はぐらかしてるとは言え真っ向から受けて立つコウ君。

これが今にも真実が暴かれ震えている真犯人にはどうしても見えない。


「ふざけたこと抜かすな。お前がやったんだろ? 分かりませんは通じないぞ」

もはや鬼の形相。冗談は通じない。

「いいじゃないか。後は警察の仕事だよ。きっちり動かぬ証拠を見つけておやり」

「婆さんそれはない。それはない」

刑事は怒りが収まらない様子。

いつ爆発してもおかしくない。

もう我慢できないのか? ただの演技なのか?

「時間はたっぷりあるんだ。あんたら警察が全力で取り掛かればすぐに見つかるさ。

臭いものから探してもいいし目撃証言を当たってもいい。

もう犯人の協力は要らないよ。だってそうだろ?

コウ君は昨日一杯閉じ込められていた。それはこの先生が一番ご存じ。

行動範囲はそんなに広くないさ。

行っても隣の村を越えた辺りまで。範囲を限定すればすぐさ」

コウの様子を窺う大家さん。

どうでしょうと手を広げはぐらかすコウ。

「まさかまだこの村の中かい? 」

これと言った反応を示さない。

動じないコウ。


大家さんはなおも粘ろうとするが刑事が諫める。

「無駄だ。無駄だ。こんな奴信用ならねえ。

奴は稀代のワルさ。こいつを少しでも信用した自分が馬鹿だった」

これも駆け引き?

コウはまた下を向く。

ショックが隠せない。もう限界か?


                続く
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