『第一村人』殺人事件

二廻歩

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一葉とコウ それぞれの思惑

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早朝一葉に連れられて東の館へ。

二人で下見。管理人の目を盗み館に忍び込む。

仮に見つかっても一葉がいれば咎められることはない。

一葉お嬢様の命令は絶対だ。

ただの管理人では太刀打ちできない。


「ああやっぱり」

どうやらこちらからは秘密の穴は開かないらしい。

「いい、あなたは離れで待機してなさい。合図があったら開けるのよ」

お嬢様のお遊びに付き合う。

「あれコウ君。大変ね…… 」

まさか気付かれた? いや…… そんなはずないか。 

西湖村に抜ける人たちの列に並ぶ。

八時の開門を待ち西湖村へ。


関所を通過すると自宅の横の離れへ。

聞こえる…… 幽かに伝わる叫び声。

一葉の呼びかけで穴の位置を探る。

昔塞いだとされてい秘密の穴の復活。

うん。これか。これだな。

固定されたものを緩め取り外す。

ドンドン
ドンドン

一葉が命一杯叩く。

その合図に答え穴を復活させる。

こうしてついに秘密の抜け道が完成する。

穴を通って東の館へ。


「どうですか? 」

「うん思った通り。上手く行きそう。

後は儀式当日までにこの穴の点検と食事提供、サポートに全力を注ぎなさい」

ワガママな一葉は楽がしたいらしい。

子供じゃあるまいし。 次期当主で当事者だと言うのに情けない。

三日三晩ぐらいの儀式我慢すればいいものを。

何であれこれは一葉の弱みを握る最大のチャンス。

岩男様に言い付けるか。

それとも脅迫でもしてみるか。

だが結果は目に見えてる。

要求を呑むわけがない。

岩男様だって娘を信じるだろう。

実行すれば自分の立場が危うくなるだけだ。

無駄なことはすべきではないか。


「しかし…… 岩男様から当主を受け継がれるのですからやはりここはきちんと儀式に臨まれた方がよろしいのではないでしょうか? 」

これ以上面倒を起こされては敵わない。

もしばれでもしたらこちらの身だけが危ない。何とも理不尽な展開。

今度ばかりは一葉もただでは済まないだろう。最悪当主を引き継げなくなる恐れも。

当然協力した自分はすぐに切り捨てられる。

悪いことはあれどメリットなど一つもない。

出来たら関わりたくない。それが本音。

いくら一葉の頼みで、もはや強制だとしても協力する訳にはいかない。

「つまらない正論は聞きたくない。まさかお前私に説教する気? 」

そう言うと大声で笑いだす。下品極まりない。

まあいつものこいつからすれば特に驚きもしない。


「ねえ協力してくれるんでしょう? 」

一葉は自分が逆らえないことを良く知っている。

まったくなぜここまで面倒を見なければならない。

今まで下僕のような扱いを甘受した。

だがもう体も心も限界だ。

「ふふふ…… 怒らせないでね」

自分が早く答えないものだから機嫌を損ねてしまった。

「分かりました一葉様。自分は何をすればよろしいでしょうか? 」

「ふふふ…… それでこそ私の…… 」


これは最大のチャンス。

恨みを晴らす時がやって来た。

儀式までにすることが山ほどある。

しかし一葉だけと言うのもどうだ?

いっそのこと二姫も一緒に抹殺するか?

三貴の為にも……

とりあえず話してみるか。

三貴は唯一の理解者。協力してくれるかもしれない。

こうして儀式当日を迎える。


「おい。まだか? まさか逃げちまったんじゃねいだろうな? 」

ゴリラのような刑事が騒ぎ出した。

「うわああ」

突然コウが穴から降ってきた。

「お待たせしました。この一連の消失事件の容疑者として知っていることをお話しようと思います」

「ちょっと待て。お前はすべて認めたんじゃないのか? 今さら何を言いやがる」

追及する気満々の刑事と真っ向から立ち向かおうと構えるコウ。


やはり私はどちらの味方をすればいいのか迷う。

弱い者の味方であれば劣勢のコウ君につくのが筋。

探偵として正義に目覚めるならば刑事さんにつく。

「大家さんはどうします? 」

「まったくなってないよ」

大家さんはご立腹のようだ。

この状況でも罪を認めようとしないコウ君に厳しい視線。


「別に認めないと言う訳ではありません。こちらにもこちらの都合があります。

もしどうしても今すぐ逮捕したいのでしたら決定的証拠を提示し逮捕状を」

刑事は黙る。

大家さんは爪を噛む。

さすがコウ君。抜け目がない。

いや最後まで立ち向かう姿勢は評価に値する。それでこそ第一村人。


「コウ…… 」

もはや限界の助手。

この後コウがどうなるのか心配でしょうがないと言った様子。

「刑事さん。コウ君の言い分にも一理ありますよ。戦いはフェアではなくては。

私は最後までコウ君を信じます」

「先生俺だって…… 」

蚊の鳴くような声で助手も賛同する。



                  続く
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