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三貴の行方
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西湖村。離れ。
「おい小僧。そこから逃げるんじゃねえ。
重要参考人として手配することになるからな。
警察犬は優秀だぜ。それでも逃げると言うなら勝手にするんだな」
ゴリラのような刑事が吠える。
そんな脅しに誰が屈するか。こんな千載一遇のチャンスを逃す手はない。
仮にこの状況が仕組まれたものだとしても問題ない。
ただの間抜けでしかない。自分はここから逃げ出すよ。
「逃げるはずないでしょう刑事さん。自分は嵌められたんだ」
こう言い残せば冤罪を恐れ逃げたと思われるし時間稼ぎにもなる。
「そうかそれでいい。待ってろよ。俺もすぐそこに行くからな」
もう間もなくやってくる刑事。
その刑事の余裕が気になる。
どうやら一葉の死体を回収したのは間違いない。
あの婆さんや刑事の自信。初めから分かっていやがった。
あの婆さんの手のひらで踊らされていた。
だがなぜこんな役立たず一人しか配置しない。人手不足か?
伸びている警官のポケットを探る。
案の定何も身に着けていない。
拳銃は期待してなかったが警棒や手錠ぐらいは持っていると思ったのに。
これではただの役立たず。
まあ仕方ないか。行動を読まれていたのだ。
事前にシミュレーションしたのだろう。ああ本当に嫌になってくる。
まさかこいつを人質にする? いや自分のポリシーに合わない。
こいつだって自分と同じようなもの。
同情さえすれど危害を加えるのはあまりにもかわいそう。
問題はこいつ一人だけって事だ。
なぜ多くの警官を配置しない?
自分は大人しい腰抜けだとでも思っているのか?
舐めやがって。その隙を突かせてもらうぜ刑事さん。
あんたが到着する頃には俺はもう闇の中。
俺を甘く見過ぎだ。せいぜい後悔するんだな。
お別れだ刑事さん。
足を踏み出す。
全力で走れば警察犬だって問題ない。俺の修正力を見くびるな。
うん? あれおかしい。
どうしたと言うんだ? 足に力が入らない。
なぜだ? なぜなんだ?
自分はやはり下僕。逆らえないと言うのか?
この村から、この世界から抜け出せないのか?
ほら! 行け!
闇に踏み出せばこっちのもの。
なぜだ? なぜ足が止まる?
早く早く。
「おう逡巡しているようだな」
「刑事さん…… 」
「えらいぞ。言うことを聞くんだからな。よし特別に三貴について教えてやる」
三貴だと? 何を知っているって言うんだ?
「ほら抵抗するな」
「さっきから何を言ってるんですか? 自分は犯人ではありません。冤罪です。
あなたが無理矢理押し込んだんでしょう? まったく勘違いも甚だしい」
「そうは言うがならばこいつがなぜ倒れている? 」
言い訳のしようがない。つい癖でとも言えないし……
「疲れたから寝てるんでしょう。刑事さんが酷使するから」
「俺のせいってか? ふざけた奴だ。まあいい三貴について教えてやるよ」
「自分と三貴さんは無関係ですよ。それで三貴さんがどうしたって? 」
まだ何とか言い逃れができる。この刑事なら言いくるめる事も可能。
「実はな三貴は…… 」
「ああ三貴様ですよね。彼女が消失したのは聞きました。
もちろん自分も心配していたところです」
一体どこに? 約束の場所にも現れないで。心配ばかりかけやがって。
三貴への思いが怒りに変化していく。
足手まといなんだよな。いくら自分でも我慢できない。
「三貴はなその何だ…… 」
この期に及んで出し惜しみをする。
時間稼ぎに三貴を使うとは俺の弱点を見抜いてやがる。
まだ言い逃れできるとしてもこの村から早く抜け出さなければ危険だ。
「三貴はな消失なんかしてないよ」
迫る刑事。
「ははは…… そんなはずありませんよ。たとえそうだとしても自分には関係ないことです」
「三貴は分かってたんだろうな…… 」
思わせぶりの刑事。まったくハッタリでコントロールしようとしやがって。
舐めるのもいい加減にしろ。三貴がどうしたと言うんだ?
「だから自分は犯人じゃないって」
睨みつける。
あのゴリラのような刑事が意外にも下を向きため息を吐く。
「三貴は自殺を図ったよ」
刑事から衝撃の事実が語られる。
「はあ? えっ…… 」
この期に及んでそんなくだらない作り話で自分を足止めしようなど情けない。
「いいかよく聞け。三貴は自殺した。だから消失も起こらなかった。
第三の消失は起こらなかったんだ」
「まさか…… はっはっはは…… 冗談でしょう? 」
「黙って最後まで聞け。俺は戻るよ。お前を引っ張っていきたいがそれは無理だろ。
結局お前を捕まえられない。お前が犯行を自供しない限り手出しができない。
令状だってすぐには用意できないんだ 」
刑事は追跡を断念したようだ。
もうとっくに捕まえられてもおかしくない。
そうか何だかんだ言って手出しできないって訳だ。
「それは残念ですね。ははは…… 」
「俺はお前を信じている。この穴から戻ってくると。だから何も焦る必要はない。
お前が戻ってくるのをひたすら待つことにするよ。これもすべて探偵さんの作戦だ。
茶番には最初は否定的だったんだがな。俺は真実を知りたい。
お前が告白してくれることを祈っているさ。それは探偵さんも婆さんも皆もだ」
真実?
自分の手には負えなくなったもの。
すべてお見通しか……
まったくやってられない。
この自分を信じてるとは笑わせる。
村を離れられないのを見抜いていたか。
仕方がないのかな。この辺りが潮時。
「分かりました。そちらに戻ってすべてを告白します」
最後のカードもアリバイも不可能犯罪も言い逃れもできなかった。
もうどうでも良い。
三貴が居ない以上抵抗する意味もない。
ついに第一村人は帰還する。
仮に言い逃れができないとしてもそれはそれ。
受け入れるしかない。
自分の告白がミスリードにならないことを願う。
頼みますよ探偵さん。
自分を失望させないでくださいね。
続く
「おい小僧。そこから逃げるんじゃねえ。
重要参考人として手配することになるからな。
警察犬は優秀だぜ。それでも逃げると言うなら勝手にするんだな」
ゴリラのような刑事が吠える。
そんな脅しに誰が屈するか。こんな千載一遇のチャンスを逃す手はない。
仮にこの状況が仕組まれたものだとしても問題ない。
ただの間抜けでしかない。自分はここから逃げ出すよ。
「逃げるはずないでしょう刑事さん。自分は嵌められたんだ」
こう言い残せば冤罪を恐れ逃げたと思われるし時間稼ぎにもなる。
「そうかそれでいい。待ってろよ。俺もすぐそこに行くからな」
もう間もなくやってくる刑事。
その刑事の余裕が気になる。
どうやら一葉の死体を回収したのは間違いない。
あの婆さんや刑事の自信。初めから分かっていやがった。
あの婆さんの手のひらで踊らされていた。
だがなぜこんな役立たず一人しか配置しない。人手不足か?
伸びている警官のポケットを探る。
案の定何も身に着けていない。
拳銃は期待してなかったが警棒や手錠ぐらいは持っていると思ったのに。
これではただの役立たず。
まあ仕方ないか。行動を読まれていたのだ。
事前にシミュレーションしたのだろう。ああ本当に嫌になってくる。
まさかこいつを人質にする? いや自分のポリシーに合わない。
こいつだって自分と同じようなもの。
同情さえすれど危害を加えるのはあまりにもかわいそう。
問題はこいつ一人だけって事だ。
なぜ多くの警官を配置しない?
自分は大人しい腰抜けだとでも思っているのか?
舐めやがって。その隙を突かせてもらうぜ刑事さん。
あんたが到着する頃には俺はもう闇の中。
俺を甘く見過ぎだ。せいぜい後悔するんだな。
お別れだ刑事さん。
足を踏み出す。
全力で走れば警察犬だって問題ない。俺の修正力を見くびるな。
うん? あれおかしい。
どうしたと言うんだ? 足に力が入らない。
なぜだ? なぜなんだ?
自分はやはり下僕。逆らえないと言うのか?
この村から、この世界から抜け出せないのか?
ほら! 行け!
闇に踏み出せばこっちのもの。
なぜだ? なぜ足が止まる?
早く早く。
「おう逡巡しているようだな」
「刑事さん…… 」
「えらいぞ。言うことを聞くんだからな。よし特別に三貴について教えてやる」
三貴だと? 何を知っているって言うんだ?
「ほら抵抗するな」
「さっきから何を言ってるんですか? 自分は犯人ではありません。冤罪です。
あなたが無理矢理押し込んだんでしょう? まったく勘違いも甚だしい」
「そうは言うがならばこいつがなぜ倒れている? 」
言い訳のしようがない。つい癖でとも言えないし……
「疲れたから寝てるんでしょう。刑事さんが酷使するから」
「俺のせいってか? ふざけた奴だ。まあいい三貴について教えてやるよ」
「自分と三貴さんは無関係ですよ。それで三貴さんがどうしたって? 」
まだ何とか言い逃れができる。この刑事なら言いくるめる事も可能。
「実はな三貴は…… 」
「ああ三貴様ですよね。彼女が消失したのは聞きました。
もちろん自分も心配していたところです」
一体どこに? 約束の場所にも現れないで。心配ばかりかけやがって。
三貴への思いが怒りに変化していく。
足手まといなんだよな。いくら自分でも我慢できない。
「三貴はなその何だ…… 」
この期に及んで出し惜しみをする。
時間稼ぎに三貴を使うとは俺の弱点を見抜いてやがる。
まだ言い逃れできるとしてもこの村から早く抜け出さなければ危険だ。
「三貴はな消失なんかしてないよ」
迫る刑事。
「ははは…… そんなはずありませんよ。たとえそうだとしても自分には関係ないことです」
「三貴は分かってたんだろうな…… 」
思わせぶりの刑事。まったくハッタリでコントロールしようとしやがって。
舐めるのもいい加減にしろ。三貴がどうしたと言うんだ?
「だから自分は犯人じゃないって」
睨みつける。
あのゴリラのような刑事が意外にも下を向きため息を吐く。
「三貴は自殺を図ったよ」
刑事から衝撃の事実が語られる。
「はあ? えっ…… 」
この期に及んでそんなくだらない作り話で自分を足止めしようなど情けない。
「いいかよく聞け。三貴は自殺した。だから消失も起こらなかった。
第三の消失は起こらなかったんだ」
「まさか…… はっはっはは…… 冗談でしょう? 」
「黙って最後まで聞け。俺は戻るよ。お前を引っ張っていきたいがそれは無理だろ。
結局お前を捕まえられない。お前が犯行を自供しない限り手出しができない。
令状だってすぐには用意できないんだ 」
刑事は追跡を断念したようだ。
もうとっくに捕まえられてもおかしくない。
そうか何だかんだ言って手出しできないって訳だ。
「それは残念ですね。ははは…… 」
「俺はお前を信じている。この穴から戻ってくると。だから何も焦る必要はない。
お前が戻ってくるのをひたすら待つことにするよ。これもすべて探偵さんの作戦だ。
茶番には最初は否定的だったんだがな。俺は真実を知りたい。
お前が告白してくれることを祈っているさ。それは探偵さんも婆さんも皆もだ」
真実?
自分の手には負えなくなったもの。
すべてお見通しか……
まったくやってられない。
この自分を信じてるとは笑わせる。
村を離れられないのを見抜いていたか。
仕方がないのかな。この辺りが潮時。
「分かりました。そちらに戻ってすべてを告白します」
最後のカードもアリバイも不可能犯罪も言い逃れもできなかった。
もうどうでも良い。
三貴が居ない以上抵抗する意味もない。
ついに第一村人は帰還する。
仮に言い逃れができないとしてもそれはそれ。
受け入れるしかない。
自分の告白がミスリードにならないことを願う。
頼みますよ探偵さん。
自分を失望させないでくださいね。
続く
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