『第一村人』殺人事件

二廻歩

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三貴への想い 

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東の館。

急げ。急げ。

焦りと緊張から手足が上手く動かせない。

冷や汗が止らない。

大丈夫。大丈夫だ。すべて順調に行ってる。

三貴は依然不明だがこの際俺一人でも逃げ切ってやる。

所詮女など俺の前にはただの道具にしか過ぎない。ははは……


それにしても…… まったくお粗末なアリバイにトリックだ。

だがそれでも問題ない。

警察に捕まる前に山湖村を脱出すればいいのだ。西湖村からも離れれば完璧だ。

村の連中も警察でさえも追いかけることはしない。

一ヶ月もすれば諦めるだろう。

アリサさんがやったように逃げおおせるのだ。


ハアハア
ハアハア

息苦しくなってきた。ここは深呼吸。とにかく深呼吸だ。

閉鎖された館には当然誰もいない。

さすがは呪われた館。

計画はまた狂ったが修正すればいい。

三貴は機会を見て奪還すればいいさ。

いや国境の封鎖が解除されれば三貴が歩いて抜けるだけ。簡単なこと。


三貴…… 三貴……

ちょっとでも不安になると三貴への思いが再燃する。

さっきまで一人でも脱出する気満々だったがやはり三貴に拘っている自分がいる。

俺の唯一の理解者だったのだ。

絶体に二人で一緒にと約束したのになぜ来ない?

三貴よ。お前は今どこにいるんだ?

まさか俺を裏切ったのか?

でも三貴はそんな奴じゃない。

三貴はそんなに奴じゃない。

三貴は俺のもの。

三貴は決して俺を裏切らない。

いや今はそんな時ではないか。

落ち着け自分。

今はこの最大のピンチをいかにして切り抜けるかだ。

集中せよ。今に集中せよ。


真っ暗闇。あまりにも暗すぎる。

暗いと自分の心にまで影響を及ぼす。

厄介な物。

しかし明かりは点けられない。

居るのがバレバレ。

そこまで俺は間抜けじゃない。

警察だって嗅ぎつけてくるに違いない。

東の館に逃げ込んだことは今更隠せない。

だが時間稼ぎをすれば危機を脱せるはず。

最も安全な方法で隣村へ。


焦るな。焦ってはダメだ。

自分自身に言い聞かせる。

だがどうしても納得が行かない。

なぜこうなった?

どこが間違っていた?

計画は完璧だったはず。

どうすべきだったのか?

やはり三貴を一人にしたのが悔やまれる。

彼女が裏切ったとは思えないが怖気づいて警察に話してしまった恐れだってある。

そうでなければおかしい。今彼女がここに居ないのはそうだと言ってるようなもの。

まさか三貴が俺を切り捨てるとは思えない。

だからこそこの館の秘密も守られているに違いない。

三貴が居ない今やはり一人でこの村を脱出するしかない。


うおおお

三貴よ。三貴。どうして居てくれないんだ。

三貴が頭から離れない。

三貴よ。お前はどうしたと言うんだ?

誰か誰でも良い。教えてくれ。

お願いだ探偵さん。

いや落ち着け落ち着け自分。とにかく脱出だ。


小さいころから闇に慣れており怖くはない。

しかし夜目が利くでもなく至って普通の人間だ。

よしここだ。

手探りでサライちゃんを探す。

大体の位置は覚えてるのですぐに見つかるだろう。

あの不気味なサライちゃん人形。暗くてもその存在感で一発で探り当てられるはず。

動いて無ければだが。ふふふ……
 
こんな夜中に忍び込んでつまらない妄想などすれば恐怖が倍増するだけ。

もちろんこちらは仕掛ける側。

怖くないのは脅かす意図を持っている側の人間。

この場合村全体がターゲットな訳だけども。

噂のおかげで余計な邪魔も入らずに済んだ。


ここ東の館は第一消失の現場。

警察が昼間調べていたようだが今はその気配が無い。

まったくの無人だ。

仮に今気づいたとしてももう遅い。

それに消失トリックに気付ける者はいないはず。

村長は詳細まで知らされていなかった。

唯一知る元村長も一族に恨みを抱いており積極的に関わらない。

高みの見物をしている様子。だから警察や村の者に漏れる心配はない。


イタタタ……

小指をサライちゃんにぶつける。

痛い。痛い。急いだせいでぶつかってしまった。

痛いが問題ない。

痛みを我慢。一息つく。

もうこれで大丈夫だ。

本当の安全圏に逃げ込むことが出来る。

わが家へ戻ることが出来る。

さらば山湖村の者たちよ。ははは……

さらば無能な警察よ。

ごめんなさい。無能な探偵さん。

自分は自分は逃げおおせたぞ。


サライちゃんに手をかける。

横に押す。

あれ…… 動かない…… 

強く引っ張る。

びくともしない。何で?

持ち上げる。

だがやはりダメだ。

そうかトリックを見破られないために元に戻したんだっけ。

これはまずい。すっかり忘れていた。

痛恨のミス。

でも大丈夫。道具さえあれば何とかなる。

仕組みさえ知っていればこんな人形などどうにでもなる。


再び危険地帯へ足を踏み入れる。



              続く
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