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第一村人対大家さん
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ついに役者は揃った。
後は犯人が説得に応じて自首してくれればいいのだが。
頼むよ大家さん。
「お前は誰なんだ? 」
「私は三貴」
「お前が三貴のはずあるか」
「違うって言うの? 」
「ふざけるな。三貴はどこだ。三貴を返せ」
第一村人の様子がおかしい。どうしてそこまで三貴に拘る?
「私は三貴よ。分からないの? 」
「三貴? そんな馬鹿な。お前が三貴のはずあるかおばさん」
衝撃の一言。
確かに若さが足りていない。そこは反省すべきだ。
これでは子供だって騙せない。
「あらあら三貴では不満なの坊や? 」
ついに本性を現す大家さん。
これが大家さんの手だとするとこの先が心配になってくる。
闇の中で言い争いをする二人。
「ふん。勝手にしろ。俺はそんな暇じゃない」
「三貴でご不満なら二姫ではどう? 」
「俺を馬鹿にするな。二姫のはずがないだろ」
「どうして…… 」
「そんなの決まってる。俺がこの手で…… いやいい」
動揺を隠せない男。
「あなたが誰か知ってるわ。正体見破ったり第一村人」
動揺している男にさらに追い打ちをかける大家さん。
「ふざけるな」
「興奮しないで坊や。私の正体も教えてあげるから」
男は沈黙すると闇の向こうにいる女と対峙する。
もう彼にはこれが罠だと分かっているはずなのに逃げる素振りすら見せない。
まあ当然そうだろう。もはや逃げたところで捕まるだけ。
周りを警察が取り囲んでいる。アリ一匹逃すことはない。
それにたとえ逃れたところで隣村との国境は閉鎖されている。
元から逃げる場所などない。
辿り着く場所は地下牢。
ゲームオーバー。
「フフフ…… 私は一葉よ。命令に従いなさい」
「一葉? あの忌々しい一葉か。だがお前が一葉であるはずがないんだ。
一葉は間違いなく俺がこの手で葬ってやった。今でもその感覚は残っている」
「あらあら言っちゃったよこの人」
もはや自白に等しい。
証拠にはならないが本人を追い詰めるには十分だ。
「嵌めやがったなこの俺を。この婆さんただでは済まさん」
怒り狂う第一村人。
「一葉でもダメかい。それは我がままが過ぎるよ坊や」
「いい加減にしろ。これ以上からかうようならお前も消えることになるぞ」
脅迫する第一村人。もはや取り繕う余裕はない。
「正体を現したわね真犯人さん」
「真犯人? 一体何のことだ? 」
「まだシラを切るの? 随分往生際の悪い男だね」
「ふふふ…… 何とでも言え 」
男は大笑いを始める。
「俺が真犯人? どこに証拠があるんだ?
俺には不可能だ。そんなことも分からないのか? 」
「それは…… 」
劣勢だった男はついに反撃。押し返す。
「ふん。言葉もないか。だから俺は関係ないんだ」
「俺、俺ってうるさいわね。あんたいつも自分、自分って言っていたくせに」
「うるさい。俺が誰であろうと関係ない。今回の一連の事件は誰にも実行不可能。
そんなことも分からないのか」
「とぼけても無駄よ。ちゃんと調べはついてるんですからね」
「何…… 」
男は動揺を隠せずに言葉を継げなくなった。
しかしそれも一分だけだった。
いきなり走り出す。
逃走。
息を切らし全力疾走で東の方角に。
後れを取った我々は男の後を懸命に追う。
今逃げられては厄介。手負いの獣を放つようなもの。
せっかくここまで追い詰めたと言うのに。
追跡劇が始まる。
なぜだ? 一体なぜなんだ?
頭はそのことで一杯。
いや大丈夫。絶体にばれるはずがない。
自分がやった訳じゃない。少なくても二姫は違う。それどころか……
走りながら振り返る。
大丈夫追いついていない。
自分が真犯人?
馬鹿な。自分には絶対の自信がある。計画は完璧だ。
自分の犯行だと気づかれる訳がない。
ハッタリだ。
すべてあの婆さんのハッタリだ。
何の証拠もないはず。
まさか俺ら警察にマークされているのか?
いやあの無能な警察が真実に辿り着けるはずがない。
うん大丈夫。大丈夫だ。
考え過ぎだ。
大丈夫。絶体に大丈夫。
真実など誰にも想像できないのだから。
そう自分の手にも負えなくなってしまった真実。
当初の計画ではもっと簡単にことが進むはずだった。
だが自分でもコントロールできない事態に陥ってしまった。
もちろんその都度修正を繰り返した。
そして逆にそれを利用した。
だから大丈夫なはず。
自分の目に狂いはない。
はあはあ
はあはあ
随分走った気がする。
ここはいったん落ち着くか?
いやダメだ。まだ安全ではない。
早く早く。
安全ゾーンに辿り着くまでの辛抱。
我慢。我慢。
ほらすぐそこだ。もう目の前。
見えてきた。大きな漆黒の館。
東の館。
続く
後は犯人が説得に応じて自首してくれればいいのだが。
頼むよ大家さん。
「お前は誰なんだ? 」
「私は三貴」
「お前が三貴のはずあるか」
「違うって言うの? 」
「ふざけるな。三貴はどこだ。三貴を返せ」
第一村人の様子がおかしい。どうしてそこまで三貴に拘る?
「私は三貴よ。分からないの? 」
「三貴? そんな馬鹿な。お前が三貴のはずあるかおばさん」
衝撃の一言。
確かに若さが足りていない。そこは反省すべきだ。
これでは子供だって騙せない。
「あらあら三貴では不満なの坊や? 」
ついに本性を現す大家さん。
これが大家さんの手だとするとこの先が心配になってくる。
闇の中で言い争いをする二人。
「ふん。勝手にしろ。俺はそんな暇じゃない」
「三貴でご不満なら二姫ではどう? 」
「俺を馬鹿にするな。二姫のはずがないだろ」
「どうして…… 」
「そんなの決まってる。俺がこの手で…… いやいい」
動揺を隠せない男。
「あなたが誰か知ってるわ。正体見破ったり第一村人」
動揺している男にさらに追い打ちをかける大家さん。
「ふざけるな」
「興奮しないで坊や。私の正体も教えてあげるから」
男は沈黙すると闇の向こうにいる女と対峙する。
もう彼にはこれが罠だと分かっているはずなのに逃げる素振りすら見せない。
まあ当然そうだろう。もはや逃げたところで捕まるだけ。
周りを警察が取り囲んでいる。アリ一匹逃すことはない。
それにたとえ逃れたところで隣村との国境は閉鎖されている。
元から逃げる場所などない。
辿り着く場所は地下牢。
ゲームオーバー。
「フフフ…… 私は一葉よ。命令に従いなさい」
「一葉? あの忌々しい一葉か。だがお前が一葉であるはずがないんだ。
一葉は間違いなく俺がこの手で葬ってやった。今でもその感覚は残っている」
「あらあら言っちゃったよこの人」
もはや自白に等しい。
証拠にはならないが本人を追い詰めるには十分だ。
「嵌めやがったなこの俺を。この婆さんただでは済まさん」
怒り狂う第一村人。
「一葉でもダメかい。それは我がままが過ぎるよ坊や」
「いい加減にしろ。これ以上からかうようならお前も消えることになるぞ」
脅迫する第一村人。もはや取り繕う余裕はない。
「正体を現したわね真犯人さん」
「真犯人? 一体何のことだ? 」
「まだシラを切るの? 随分往生際の悪い男だね」
「ふふふ…… 何とでも言え 」
男は大笑いを始める。
「俺が真犯人? どこに証拠があるんだ?
俺には不可能だ。そんなことも分からないのか? 」
「それは…… 」
劣勢だった男はついに反撃。押し返す。
「ふん。言葉もないか。だから俺は関係ないんだ」
「俺、俺ってうるさいわね。あんたいつも自分、自分って言っていたくせに」
「うるさい。俺が誰であろうと関係ない。今回の一連の事件は誰にも実行不可能。
そんなことも分からないのか」
「とぼけても無駄よ。ちゃんと調べはついてるんですからね」
「何…… 」
男は動揺を隠せずに言葉を継げなくなった。
しかしそれも一分だけだった。
いきなり走り出す。
逃走。
息を切らし全力疾走で東の方角に。
後れを取った我々は男の後を懸命に追う。
今逃げられては厄介。手負いの獣を放つようなもの。
せっかくここまで追い詰めたと言うのに。
追跡劇が始まる。
なぜだ? 一体なぜなんだ?
頭はそのことで一杯。
いや大丈夫。絶体にばれるはずがない。
自分がやった訳じゃない。少なくても二姫は違う。それどころか……
走りながら振り返る。
大丈夫追いついていない。
自分が真犯人?
馬鹿な。自分には絶対の自信がある。計画は完璧だ。
自分の犯行だと気づかれる訳がない。
ハッタリだ。
すべてあの婆さんのハッタリだ。
何の証拠もないはず。
まさか俺ら警察にマークされているのか?
いやあの無能な警察が真実に辿り着けるはずがない。
うん大丈夫。大丈夫だ。
考え過ぎだ。
大丈夫。絶体に大丈夫。
真実など誰にも想像できないのだから。
そう自分の手にも負えなくなってしまった真実。
当初の計画ではもっと簡単にことが進むはずだった。
だが自分でもコントロールできない事態に陥ってしまった。
もちろんその都度修正を繰り返した。
そして逆にそれを利用した。
だから大丈夫なはず。
自分の目に狂いはない。
はあはあ
はあはあ
随分走った気がする。
ここはいったん落ち着くか?
いやダメだ。まだ安全ではない。
早く早く。
安全ゾーンに辿り着くまでの辛抱。
我慢。我慢。
ほらすぐそこだ。もう目の前。
見えてきた。大きな漆黒の館。
東の館。
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