『第一村人』殺人事件

二廻歩

文字の大きさ
上 下
81 / 109

ある少女の記憶

しおりを挟む
<間奏>

少女は下を向き泣きじゃくっていた。

「泣くんじゃないみっともない」

皆喪服の中少女だけはドレス。

場違いとも思えるが彼女らしい。

葬式を無事済ませ自宅に戻る。


少女はなぜ不幸に見舞われたのか?

母の名をアリサと言った。

父の名は知らされていない。

アリサはシングルマザーで少女を一人で育てた。

大人の話では何人もの養女がいるらしい。

なぜ私が居ながら他に子供を? まったく理解できない。

子供心にも疑問がわく。


少女には母のみだ。

少女に兄弟が居たなど嘘だ。

少女は独りぼっち。

少女とアリサの親子二人暮らし。

ヨウシ?

ワカラナイ……

兄弟どこにイルネ?

姉サンはどこ?

妹は?

いつも想像していた。

いつも思い描いていた光景。

でも決して誰一人として姿は見せなかった。

少女は兄を求め、弟を切望し、姉の帰りを待ち、妹をねだった。

しかしどれも叶わなかった。


母一人子一人。

貧しくまではないが寂しかった。

虚しい虚しい毎日。

ワタシニキョウダイナドイナイ

ワタシニシマイナドイナイ

アリサは外国人。

少女はハーフ。

家は都会とは正反対の田舎で……

それから近くの親戚の家に身を寄せた。


少女は暗い青春時代を送った。

性格は内気で引っ込み思案。

日本語もカタコトで。

英語も難しいのはついて行けない。

学校にもなじめなかった。

休みがちになってしまった。

そんな少女ももう二十歳を過ぎた。

母との死別を乗り越え前を向く決心をする。


そんなある日一人の男性が突然訪ねてきた。

彼は使いだと言う。

焼香を済ませると一言。

「我が村へ一度来ていただきたい」

ぽかんと口を開けたままの少女。

「これは失礼。アリサさんは我が山湖村に住んでいました。

君も幼い頃一緒に生活をしていたんだよ。覚えてないかな? 」

少女は記憶を辿る。

ダメ……

思い出そうとするとなぜか火が火が。

一体なぜ火?

少女は思い出すことを諦めた。


「覚えてませんか? 」

首を振る。

「そうですか…… 自分…… いえ…… 」

ううん?

「一度村へお越しください。

あなたの母が愛した村。訪れる価値は十分にあると思いますよ。

これが行き方です。

もう間もなく儀式が行われます。ぜひその時にお越しください。

当主の岩男様が首を長くしてお待ちです。ぜひぜひお忘れずに。

それではこれで」


「イワオ? 」

「はいそうです。岩男様の使いです。

儀式の日にお越しください」

男は何度も念を押し帰って行った。

男は名を名乗らずに行ってしまった。

一体何者なのか?

帽子を取りもせず季節外れのコート。マスクもしたまま。

声も何だか変だった。

イワオ……

少女は決意した。

自分のルーツを探る旅へ。いわゆる自分探しの旅。

母の思い出の地山湖村へ。

少女は旅立つ。

村へ。

今住んでいる村よりもっともっと田舎で未開な土地へ足を踏み入れる。


少女の名をルーシーと言った。


現在。

「こちらA班。ルーシーが動き出しました」

ルーシーはつけられているとも知らずに闇夜を駆ける。

私たち一家を不幸に追いやった張本人は亡くなった。

まさかイワオが実の父なんてありえない。

私の中にイワオのDNAがあると思うだけで吐き気がする。

イワオは死んだ。

不幸な事故。そんなはずはない。殺されたのだ。

報いを受けたに違いない。

イワオ…… イワオ……

すべての元凶。イワオ。

ルーシーは東の館へ向かう。


同時刻。

老人はむくっと起き上がる。

寝間着から温かい格好で外へ。

孫を従え東の館へ。

「こちらE班。元村長以下二名動き始めました」

「了解。引き続き任に当たれ」


ザザザ……

「本部より。F班動きは? 」

「今のところ特にありま…… 」

人影が映し出された。

太郎・次郎も動きを見せた。


これで皆動き出した。

後は動向を見守るのみ。

おかしな行動を取った者を取り押さえる。

舞台は整った。ショーの始まりだ。

隣村の犬が何かを察知したのか遠吠えをしだす。

それに呼応するようにあちらこちらから遠吠えの音。

その音に混じり叫び声が上がる。

しかしすぐに止んでしまう。

犬たちは決して遠吠えを止めようとはしない。

まるで何かが起ころうとするのを予期しているかのように。


            解決編<完>

            謎解き編へ続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【BL】最愛の恋人

明太子
ミステリー
※BL要素ありのミステリーで、エピローグを読まないハッピーエンドルートと読んでしまうメリーバッドエンドルートの2種類があります。   新は高校の同級生である司に山の中で倒れているところを助けられた。 目覚めると、高校1年生の夏以降の記憶を失っており、そのまま司の世話になりながら、ともに暮らすことに。 その中で新は自分に男の恋人がいたこと、そして自分が記憶喪失となる寸前に誰かに監禁されていたことを思い出す。 司の冷酷な性格を覚えていた新は彼が犯人なのではないかと不安になる。 そんな中、招かれざる来客が現れて…。 彼は最愛の恋人?犯人?それとも… 結末にあるのは意外などんでん返し。

後宮生活困窮中

真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。 このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。 以下あらすじ 19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。 一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。 結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。 逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

夫は使用人と不倫をしました。

杉本凪咲
恋愛
突然告げられた妊娠の報せ。 しかしそれは私ではなく、我が家の使用人だった。 夫は使用人と不倫をしました。

虹色アゲハ【完結】

よつば猫
ミステリー
自分の全てだった存在から結婚詐欺にあい、何もかも失った揚羽は… 水商売で働きながら、赤詐欺専門の復讐代行をしていた。 そしてぶっきらぼうな天才ハッカーとバディを組み、依頼をこなしていたある日。 不可解なターゲットと出会い… かつて自分を騙した結婚詐欺師とも再会する。 ※ 表紙はミカスケ様のフリーイラストをお借りしてます!

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

愛脳中毒

じえり
ミステリー
世の中に疲れた紀田聖 お金欲しさに臨床試験の被験者となる 昔好きだった奏に偶然であってまた恋に落ちる 人生に色がついていく感覚に心躍る毎日 そんな時奏とは全く違うタイプのヨンこと真由に好きだと告白される 自分の人生の奇跡 しかしコウキが参加した臨床試験には秘密があった 謎の研究機関√が若者を集めて行なっている恐ろしい人体実験 コウキがたどる人生のラストとは?

神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ
ミステリー
 神の島と呼ばれる暁島。  元禁足地であるこの島では、人が死ぬことすら許されず、墓もない。  そんな神の島に小さな橋が渡された。  古い島民たちは、神の島と俗世を結ぶと災厄が訪れると言うが。  開通式の日、真っ先に橋を渡ってきたのは、美しすぎる少女、茉守だった。  茉守が現れてから頻発する事件。  彼女はほんとうに島に災厄を運んできたのか――? 「マグマさん、第一の事件ですよ」 「第一って、第二があるのかっ!?」 「いや、こういう絶海の孤島で起こる事件は、大抵、連続しませんか?」 「……絶海じゃないし、孤島でもない」  すぐ沸騰する元刑事で坊主の、マグマ。  墓のない島の墓守、ニート。  美しすぎて不吉な茉守の三人が遭遇する事件の数々――。

処理中です...