『第一村人』殺人事件

二廻歩

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遺体なきバラバラ殺人

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「先生。これで分かりましたか? 」

「ああ、あの刑事さんと仲良くなったんだね」

いつの間に仲良くなったのだろう? 刑事も大家さんも信頼関係がある。

これでは私の出番など無いかもしれない。

まあいいか。それでも。事件さえ早く解決してくれればいいのだ。

誰が解決しようが関係ない。探偵のプライドなど邪魔なだけ。


「違いますよ。第一消失のトリックですよ」

「ああ…… 」

何となくしか理解できていない。

「先生ならもちろん分かりますよね? 」

プレッシャーをかける大家さん。

「どう言う事? まさかサライちゃんが犯人? 」

「どうしてそうなるんですか? 犯人は…… ダメです自分で考えて。

先生ならきっと分かるはずです」

この期に及んで焦らす大家さん。

犯人? 犯人?

「うん…… まさかそんなはず…… 彼だって言うのか」

「はい残念ながら。真犯人は物凄く身近にいるものです。

これに当てはめれば彼以外有り得ません」

大家の非情な宣告。

「あり得ない。だって彼は…… 」

言葉が出てこない。

一言も発さず沈黙がその場を支配する。


「教えてくれ。どうやったんだ? 」

「分かりました。実は…… 」

まさしく不可能殺人。

大家さんによって奇想天外なトリックが披露される。

このトリックの肝は内からは絶対に動かせないこと。

外から固定したねじを回し緩める。

そうすれば老人や非力な女性でも横にずらせるのだ。

内と外の共同作業。

単純なトリックだが巨大なサライちゃんなら絶対に動かせないと考えるもの。

もちろん他の館や家々のサライちゃんは簡単に動かせるし構造も違う。

これだけが特別に作られたとは普通思わない。

ただ重いが為に動かせないんだと勝手に判断すれば犯人の思う壺。

消失イリュージョン。


「うーん。少し引っ掛かるんだよね…… 」

「細かいことは犯人とご対面した時に詳しく説明します」

「ならば一つだけ。すぐばれるようなトリックをなぜ?

警察が詳しく調べれば分かること」

「さすがは先生鋭い。でもそれも後のお楽しみに取っておきましょう。

今言えることはたぶん犯人はその頃には我々の前から姿を消しているはず」

「まあいいか。それでこれからどうする? 」

「捜査に進展がありました。もう少しで犯人を追い詰めることが出来ます。

さあ急ぎましょう。先生と私でこの事件を解決するんです」

大家さんの強い意思が感じられる。


私だって探偵の端くれ事件に私情は挟みたくない。

しかし同じ釜の飯を喰った仲間を疑うなんてどうかしてる。

だがもはや拭いようのない事実。

信用していた私を裏切りまんまと犯行を重ねるとは……

辛い。辛すぎる。こんな体験初めてだ。

大家さんは辛くないのだろうか。


「ああ分かった。ここまで行けば後は第二消失だけだ。

第三の消失はもう解けたんだよね? 」

犯人が分かり第一消失のトリックも解ければ第三消失は何てことはない。

予想がつくと言うもの。

「ええ。第三の消失。それは本当に悲しい事件ですよ。

刑事から口止めされているので詳しくは言えませんが決定的な証拠があるそうです」

決定的な証拠。まあそこまで言うならあるのだろう。

覆すことのできない決定的な証拠って奴が。


「第二の消失に全力を尽くそう。まず被害者は二女の二姫さんでいいんだよね」

「はい捜査資料によると消失したのは二姫さんで間違いないそうです」

「第一発見者はコウ君だね」

「ええ。彼はお送りの儀で湖の館へ二姫を運び、迎えの儀で連れ帰る予定でした。

しかし時間になってもちっとも姿を見せない二姫を心配して館内へ。

肝心の二姫の姿がどこにもなく一人で帰ってくることに」

普通に考えたら行きと帰りの間のどこかと言うことになる。


「消失=殺害と考えていいのかな? 」

まだ遺体が見つかった訳ではないので生きてる可能性もある。

しかし不謹慎だと思われるがもう彼女はこの世にはいないだろう。

「はい。館の周りの水辺で血液反応が。血の量から言ってまず助からないかと。

あまり想像したくありませんがバラバラにしたと見るのが妥当かと。

残酷ですがそう言うことです」

遺体の見つかっていないバラバラ殺人。

何とも奇妙な話。


「バラバラ殺人ね。うーん。本当にそうかな? もしかするとそれも偽装では?

 数日後にひょっこり現れたりして」

希望的観測を述べる。

「期待する気持ちは分かります。しかしおそらく亡くなっているでしょう。

なぜ殺さずに逃がすなんて愚かなことを犯人がするんですか? 」

確かに…… 少なくても一葉と二姫に恨みを抱いていたはず。

憎くて憎くてたまらない相手。

儀式の時が千載一遇のチャンスと考えていただろう。

そう仮定するならば二姫を殺さずに逃すなど出来るはずがない。


「可能性だよ。可能性。捜査が早急過ぎる気がしてね。

何か落とし穴があるんじゃないかと疑ってしまうんだ」

「先生の気持ちも分かります。ですが…… 」

「勘違いしないでくれ。私は何も捜査を引っ掻きまわしたいのでなくただ不完全な気がしたんだ」

違和感がある。それを大家さんに言っても気のせいだと流されてしまうだろう。


宿に戻る。



               続く
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