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晴れぬ疑惑 まさかの容疑者
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自分の推理は正しいのか? 恐る恐る反応を見る。
「ええ。私も同意見です。目撃者がいない以上推測になりますが岩男氏殺害が一連の事件の幕開けと見ていいかと。どうやら警察も判断に迷っているようですがね」
あーよかった。的外れなこと言って睨まれては敵わない。
自信が無いわけではないが笑顔が消え真剣な表情になるとどうも……
自由な意見が言えない雰囲気を醸し出すので困る。怒ってるのやら睨んでるのやら。
「うん。そこそこ。岩男氏殺害が連続殺人の始まりだと断定できれば少なくとも……
第二消失の時儀式を中止する判断もできたはずだ。
その結果、第三の消失を生んだと言っても過言ではない。
もちろん警察であって我々ではないが。だが止められなかった事実は変わらない」
頭を抱える私の肩をポンポンと叩き慰めてくれる大家さん。
観光客もいない。村の者も外出禁止令を守り家の中。
そばを喰いに来る客などいない。
今この店は貸し切り状態。
店の者としては早く帰ってもらいたいだろうな。
またはたくさん注文して少しでも売り上げに貢献するのが人情と言うものだろう。
そもそも酒さえ頼んでいない。
ただの優雅な昼の一時でしかない。
長話をされてはやはり迷惑? 視線が気になる。
「先生。先生。店の人に悪いんで場所を変えましょう」
大家さんが気を利かせる。
「ああそうだな。でもどこへ? 」
「今から東の館へ行くつもりなんです。どうです先生も一緒に行きませんか」
大家の誘いに乗る。随分自信があるようだがもしかして解決の糸口でも見つかった?
「ああそうしよう…… 」
力なく返事する。
「先生が悪いんじゃないですよ。警察だってどうすることもできなかったんです」
励ましてくれるのは嬉しいがもう大丈夫。いつまでも引きずる訳にはいかない。
でもどうしても愚痴りたくなる。
「いや彼ら警察だって一日や二日。村長の要請を受け来たのだから限界がある。
それに引き換え我々は十分準備する時間があった。
それなのに大した対策も取らずにのこのこ村にやって来て、ただ巻き込まれただけ。
挙句の果てに地下牢に閉じ込められてしまうんだから笑えるよ」
完全に第一村人の勝利。
我々では相手にならなかった。
やはり手紙が届いた段階で警察に届けるべきだった。
そうすれば少しは警察と連携も取れただろう。
もちろん地下牢に入れられることもなかった。
「そんなに自分を卑下しないでください。儀式の前では探偵であろうと警察であろうと無力です。
確たる証拠を示さない限り村長や村民の意思は変えられません」
大家さんはやはり優しい。こんな私を励ましてくれる。
それだけでなく人生の先輩として的確なアドバイスをくれる。
いつもいつも私は彼女に助けられている。
さあ後悔していても仕方がない。切り替えよう。
「ねえ先生」
そば屋を離れ第一の消失があった東の館に向かう。
「先生は違いますよね」
何か引っかかる言い方。違うとはどういうことだろう?
「さあ…… 」
何について聞いているか分からない以上適当には答えられない。
「気になることでも? 」
「いえ…… 今度の一連の事件の犯人は先生ではありませんよね」
直球の質問。もう剛速球。並ではない。
ノーコンメジャーリーガーのすっぽ抜けを喰らったような衝撃。
感情のコントロールができない。
大家さんはバツが悪そうに下を向く。
「あの…… ちょっと待って…… まさか疑ってるんですか? 」
「滅相もない。ただの確認です」
これはアリバイを関係者に聞いて回る刑事と同じ。
もし疑っていないならそんな発想にはならないはずだ。
「すみません先生。でも分かってください。誰もが犯人になりうるんです」
「私は第一村人の挑戦状があったから…… 何でそうなるの? 」
「分かってます。ただ先生の口からはっきりと聞きたかったんです」
「私は関係ない。ただ招待されただけだ」
「先生。信じていいんですね」
「もちろん」
疑うなんて心外だな。これは私の問題ではなく大家さんの気持ちの問題。
自分ではどうすることもできない。
「分かりました。先生を信じます」
どうやら疑うことを止めたらしい。
これで二人は互いに信じあうことができる。
しかし自分が自分を信じられるかと言ったらまた別だ。
無意識のうちに犯行を繰り返している恐れもある。
続く
「ええ。私も同意見です。目撃者がいない以上推測になりますが岩男氏殺害が一連の事件の幕開けと見ていいかと。どうやら警察も判断に迷っているようですがね」
あーよかった。的外れなこと言って睨まれては敵わない。
自信が無いわけではないが笑顔が消え真剣な表情になるとどうも……
自由な意見が言えない雰囲気を醸し出すので困る。怒ってるのやら睨んでるのやら。
「うん。そこそこ。岩男氏殺害が連続殺人の始まりだと断定できれば少なくとも……
第二消失の時儀式を中止する判断もできたはずだ。
その結果、第三の消失を生んだと言っても過言ではない。
もちろん警察であって我々ではないが。だが止められなかった事実は変わらない」
頭を抱える私の肩をポンポンと叩き慰めてくれる大家さん。
観光客もいない。村の者も外出禁止令を守り家の中。
そばを喰いに来る客などいない。
今この店は貸し切り状態。
店の者としては早く帰ってもらいたいだろうな。
またはたくさん注文して少しでも売り上げに貢献するのが人情と言うものだろう。
そもそも酒さえ頼んでいない。
ただの優雅な昼の一時でしかない。
長話をされてはやはり迷惑? 視線が気になる。
「先生。先生。店の人に悪いんで場所を変えましょう」
大家さんが気を利かせる。
「ああそうだな。でもどこへ? 」
「今から東の館へ行くつもりなんです。どうです先生も一緒に行きませんか」
大家の誘いに乗る。随分自信があるようだがもしかして解決の糸口でも見つかった?
「ああそうしよう…… 」
力なく返事する。
「先生が悪いんじゃないですよ。警察だってどうすることもできなかったんです」
励ましてくれるのは嬉しいがもう大丈夫。いつまでも引きずる訳にはいかない。
でもどうしても愚痴りたくなる。
「いや彼ら警察だって一日や二日。村長の要請を受け来たのだから限界がある。
それに引き換え我々は十分準備する時間があった。
それなのに大した対策も取らずにのこのこ村にやって来て、ただ巻き込まれただけ。
挙句の果てに地下牢に閉じ込められてしまうんだから笑えるよ」
完全に第一村人の勝利。
我々では相手にならなかった。
やはり手紙が届いた段階で警察に届けるべきだった。
そうすれば少しは警察と連携も取れただろう。
もちろん地下牢に入れられることもなかった。
「そんなに自分を卑下しないでください。儀式の前では探偵であろうと警察であろうと無力です。
確たる証拠を示さない限り村長や村民の意思は変えられません」
大家さんはやはり優しい。こんな私を励ましてくれる。
それだけでなく人生の先輩として的確なアドバイスをくれる。
いつもいつも私は彼女に助けられている。
さあ後悔していても仕方がない。切り替えよう。
「ねえ先生」
そば屋を離れ第一の消失があった東の館に向かう。
「先生は違いますよね」
何か引っかかる言い方。違うとはどういうことだろう?
「さあ…… 」
何について聞いているか分からない以上適当には答えられない。
「気になることでも? 」
「いえ…… 今度の一連の事件の犯人は先生ではありませんよね」
直球の質問。もう剛速球。並ではない。
ノーコンメジャーリーガーのすっぽ抜けを喰らったような衝撃。
感情のコントロールができない。
大家さんはバツが悪そうに下を向く。
「あの…… ちょっと待って…… まさか疑ってるんですか? 」
「滅相もない。ただの確認です」
これはアリバイを関係者に聞いて回る刑事と同じ。
もし疑っていないならそんな発想にはならないはずだ。
「すみません先生。でも分かってください。誰もが犯人になりうるんです」
「私は第一村人の挑戦状があったから…… 何でそうなるの? 」
「分かってます。ただ先生の口からはっきりと聞きたかったんです」
「私は関係ない。ただ招待されただけだ」
「先生。信じていいんですね」
「もちろん」
疑うなんて心外だな。これは私の問題ではなく大家さんの気持ちの問題。
自分ではどうすることもできない。
「分かりました。先生を信じます」
どうやら疑うことを止めたらしい。
これで二人は互いに信じあうことができる。
しかし自分が自分を信じられるかと言ったらまた別だ。
無意識のうちに犯行を繰り返している恐れもある。
続く
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