『第一村人』殺人事件

二廻歩

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集団消失 アリサ伝説の真実

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あれは当時……

老人の思い出が詰まった昔話が始まった。


アリサちゅうのは他所から来たおなごじゃ。

当時この村の権力者であった当主が女遊びの末に子を作りおった。

まあ誰とは言わんが予想はつくじゃろ。

認知するしないで大揉めになってな。聡明なアリサは自ら身を引いた。

そして今長女が失踪したあの館で親子でひっそり暮らすことになった。

初めは別れたとは言え当主や一族との関係も良好とまではいかずとも悪くなかった。

村の者からも受け入れられ祭りや集会等の行事にも何の問題もなく参加していた。

ある時当主が村中の若い娘を自分の物にしようと画策。

無理矢理従わせ村人の反感を買う羽目になった。

まあ当たり前だな。奴の傍若無人ぶりは目に余る。

しかし当然ながら村の者は権力者には逆らえない。

仮にいくら理不尽であろうと無茶苦茶であろうと最後には従うしかない。

当主に考えを改めさせる手もなくはないが…… 儂らにはできんかった。

まあ言うは易しだ。一度決めたことを覆す男ではない。

村中の反対を押し切って娘たちを強引に奪う。

まあもっと簡単に言えば絶対権力者の当主に差し出したとも言える。

泣く泣く手放した娘たちの親の胸中は如何ほどだったか。

まああそこまでの女好きも珍しい。

これはもはや病気。

そう簡単に片づけられるものではないがな。

あの当時村長だった儂はすべて記憶している。


ああこう思うのだろう?

村長ほどの権力者なら同様に振る舞えると?

だが儂にはそんな大それたことはできん。

村の期待を裏切ることにもなるしな。

いや決して正義感からではなく考えもしないだ。

おなごなど女房子供で満足しておる。

まあこれをきっかけに当主との関係が悪化したとも言えるかな。

声には出さんでも軽蔑していたのが態度に現れていたのだろう。

一時期は良好だったんだが。


おっと脱線したな。時を戻すぞ。

娘たちの逃れられない運命を聞きつけたアリサ。

当主の毒牙にかからぬように幼き少女たちを村から逃がしてやる計画を立てる。

だがその計画も当主には筒抜け。協力者を捕えアリサにこの村を去るように命じた。

ちなみにそう言い渡したのは当時村長であった自分だ。

もちろん誤った判断だと言うのは百も承知。

だが当時は当主やその一族には逆らえずまた恩義もあり言われるがままさ。

これでアリサの計画は水泡に帰す。

あえて彼女が矢面に立つことによって村の者を守った。

アリサは頭がいいから当主に謝罪をし村を離れることにした。

もちろん幼子も抱えており村の者も説得するが頑なに拒否。

当主に挨拶を済ませ翌日に出発。

裏切られたと思い憎しみを募らせた当主も最後には折れアリサは許された。

こうしてすべてのわだかまりは無くなり元通り。

後はアリサが村を去るのみ。


翌朝に出発する。そんな夜だった。

アリサの住む東の館で不審火が起きる。

彼女を疎ましく思う者の犯行かまだ許せずにいる当主の命令かは不明。放火に遭う。

村人総出により何とか大事になる前に消し止められた。

村長であった儂も当主とアリサの元へ急行した。

しかし肝心のアリサはどこにも居ない。その幼子も見当たらない。

これはまずいと村中を探し回ったが発見されることはなかった。

そしてなぜか当主が目をつけていた少女たちも一緒に姿を晦ました。

火事のどさくさに紛れ無事にこの村を逃れた少女たち。その行方は未だ不明である。

アリサのことだ抜かりはないじゃろう。


翌朝から隣村を含めた大規模な捜索が始まった。

しかし痕跡はまったくなく数日で捜索は打ち切られた。

娘たちの親は涙を流していたがひょっとすると知っていたのかもしれない。

あの涙はたぶんうれし涙。いや安堵の涙とでも言えばいいのかな。


結論。アリサが火事のどさくさに紛れ少女たちを連れ隣村を越え新天地へ。

当主の毒牙にかからずに逃げ切った。

まあこう考えるのが自然じゃろ。


火事の被害は村の者の協力もありさほど広がらず建て替えまでには至らなかった。

もしかしたらアリサの自作自演かもしれん。

奇跡的に最小限に抑えられたことからも推測できる。

ただそれ以来東の館は封印。

儀式以外での使用や立ち入りを禁止した。

管理人が置かれ火の影響を感じさせない以前の建物へ時間をかけて元に戻した。

復元作業には随分時間も金もかかったわ。


ことの顛末をそのまま語れば都合が悪い。

村人らにはアリサが少女を人質に館に立てこもり火を放ち連れ去ったと噂を流す。

こうしてアリサ伝説は作られた。

                続く
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