61 / 109
茶の一杯も出さないで
しおりを挟む
元村長宅を訪れる。
外は静かだ。
皆駐在所に引っ張られていったか怖くて隠れているか。
昼間だと言うのに一っ子一人居ない。異常事態。
ヘリによる捜索も一段落ついたようだ。
静寂が辺りを支配してる。
元村長とその孫は儀式の間、山湖村の親戚の家に厄介になっている。
今は関所も閉ざされ動ける状態ではない。
このままでは儀式が完了してもよそ者は理由をつけ引き止められるに違いない。
まさか元村長の爺様が犯人? まさかね……
戸を叩くと反応があった。
「元村長さんに用が。そちらにいらっしゃるとお聞きしましたが」
急な訪問だと言うのにあっさり通される。
こちらを警戒する素振りもない。これは逆に危険?
このまま突き進んでいいのだろうか?
もし仮に消失と当主の死に関係があるとすれば……
そして連続殺人事件となったら確実に犯人がこの村の誰かとなる。
第一村人の狙いは一体?
軽はずみな行動を取り危険を招けば必ず先生に迷惑がかかる。
しかしこのまま放っておけば第四の事件…… 三女の消失が現実に。
それだけはどうしても阻止しなければならない。
もう今は時間が無い。賭けに出る。
和室に通される。
「どのようなご用件でしょうか? 」
対応したのは影の薄い孫。
元村長がいるものとばかり思っていたが二人っきり。
「お爺様にお話を聞きに来たのですが」
会うつもりが無いなら断ればいいのに。面倒くさいことをする。
「急いでるんですが」
「あなたが何者か見当がつかない状況で祖父に会わせる訳には行きません」
毅然としている。
彼が噂の操り人形。
確かに大人しい。従順で素直そうな孫。
だが冷たい瞳をしている。精気を感じられない。
見た目はこの村の男特有の色白で可愛らしい顔立ち。
一度お相手したいもの。
「玉子さんですか。祖父にどのような用件で? 」
来客だと言うのに茶の一つも出さない気の利かない若い男。
催促するわけにもいかず喉を鳴らすに留める。
「確かに祖父はこの村の村長でしたがもう今は関係ありません。
残念ですがお力になれるようなことは何も」
切り上げて帰らせる作戦らしい。
「ではあなたに一つ質問が…… 今回の一連の犯行はあなたではありませんよね」
とりあえず孫の方から揺さぶりをかける。
さすがに肯定しないだろうが仕草や表情に変化が現れないかじっくり見る。
「失礼な…… 当たり前ではありませんか。逆にどうすれば我々を疑えるのか。
私は長女の一葉さん失踪時この家におりました。祖父に聞けば証言してくれますよ」
平然と嘘を吐く。これは信用できない。
長女が失踪するまでの三日間この家に閉じこもっていたならアリバイ成立。
間違いなくシロだがそれはさすがにあり得ない。
「アリバイがあると? 三日間外出しなかったと言い張るんですね? 」
「ええ。我々は潔白です」
表情を窺うが変化は見られない。
「そうですか。一応信じましょう。もちろん家族は証人にはなりませんが。
ただそう主張するのなら仕方がありませんね」
随分余裕がある孫。この様子だと隣の部屋あたりで聞き耳を立てているな。
ならば本人にも聞こえるように意識的に大声で。
「探偵の助手をしております。本日は先生の代理で参りました。
もしアリサさんについて何か知っているのであれば…… 」
フォフォフォ……
障子が開く。
元村長らしき爺さん。
ついに黒幕の登場。
手には杖。足が悪いのか。ただの武器として携帯しているのか。
「遅れて済まない。あんたを見定めておったのじゃ。玉子さんや。
アリサさんについて知りたいか? 」
「お爺様? 」
元村長は孫の助けを受けどうにか着席する。
「待たせて済まん。アリサさんか? この昔話を知っているのはもう儂ぐらいかの。
まあ…… この話は当主とその娘たちは知っていると思うが……
後はそうだ。現村長も確か知っているかな。
よし分かった。いいだろうわざわざ聞きに来たのだから話してやるか。
いいか心して聞くのだぞ」
そう言うと深呼吸。
続いて茶を啜る。
さすがは爺さん。似合っている。
ようやく和菓子と共にお茶が出てきた。
これで客人として認められたのだろう。
「あれは当時…… 」
老人の思い出が詰まった長い長い昔話が始まった。
続く
外は静かだ。
皆駐在所に引っ張られていったか怖くて隠れているか。
昼間だと言うのに一っ子一人居ない。異常事態。
ヘリによる捜索も一段落ついたようだ。
静寂が辺りを支配してる。
元村長とその孫は儀式の間、山湖村の親戚の家に厄介になっている。
今は関所も閉ざされ動ける状態ではない。
このままでは儀式が完了してもよそ者は理由をつけ引き止められるに違いない。
まさか元村長の爺様が犯人? まさかね……
戸を叩くと反応があった。
「元村長さんに用が。そちらにいらっしゃるとお聞きしましたが」
急な訪問だと言うのにあっさり通される。
こちらを警戒する素振りもない。これは逆に危険?
このまま突き進んでいいのだろうか?
もし仮に消失と当主の死に関係があるとすれば……
そして連続殺人事件となったら確実に犯人がこの村の誰かとなる。
第一村人の狙いは一体?
軽はずみな行動を取り危険を招けば必ず先生に迷惑がかかる。
しかしこのまま放っておけば第四の事件…… 三女の消失が現実に。
それだけはどうしても阻止しなければならない。
もう今は時間が無い。賭けに出る。
和室に通される。
「どのようなご用件でしょうか? 」
対応したのは影の薄い孫。
元村長がいるものとばかり思っていたが二人っきり。
「お爺様にお話を聞きに来たのですが」
会うつもりが無いなら断ればいいのに。面倒くさいことをする。
「急いでるんですが」
「あなたが何者か見当がつかない状況で祖父に会わせる訳には行きません」
毅然としている。
彼が噂の操り人形。
確かに大人しい。従順で素直そうな孫。
だが冷たい瞳をしている。精気を感じられない。
見た目はこの村の男特有の色白で可愛らしい顔立ち。
一度お相手したいもの。
「玉子さんですか。祖父にどのような用件で? 」
来客だと言うのに茶の一つも出さない気の利かない若い男。
催促するわけにもいかず喉を鳴らすに留める。
「確かに祖父はこの村の村長でしたがもう今は関係ありません。
残念ですがお力になれるようなことは何も」
切り上げて帰らせる作戦らしい。
「ではあなたに一つ質問が…… 今回の一連の犯行はあなたではありませんよね」
とりあえず孫の方から揺さぶりをかける。
さすがに肯定しないだろうが仕草や表情に変化が現れないかじっくり見る。
「失礼な…… 当たり前ではありませんか。逆にどうすれば我々を疑えるのか。
私は長女の一葉さん失踪時この家におりました。祖父に聞けば証言してくれますよ」
平然と嘘を吐く。これは信用できない。
長女が失踪するまでの三日間この家に閉じこもっていたならアリバイ成立。
間違いなくシロだがそれはさすがにあり得ない。
「アリバイがあると? 三日間外出しなかったと言い張るんですね? 」
「ええ。我々は潔白です」
表情を窺うが変化は見られない。
「そうですか。一応信じましょう。もちろん家族は証人にはなりませんが。
ただそう主張するのなら仕方がありませんね」
随分余裕がある孫。この様子だと隣の部屋あたりで聞き耳を立てているな。
ならば本人にも聞こえるように意識的に大声で。
「探偵の助手をしております。本日は先生の代理で参りました。
もしアリサさんについて何か知っているのであれば…… 」
フォフォフォ……
障子が開く。
元村長らしき爺さん。
ついに黒幕の登場。
手には杖。足が悪いのか。ただの武器として携帯しているのか。
「遅れて済まない。あんたを見定めておったのじゃ。玉子さんや。
アリサさんについて知りたいか? 」
「お爺様? 」
元村長は孫の助けを受けどうにか着席する。
「待たせて済まん。アリサさんか? この昔話を知っているのはもう儂ぐらいかの。
まあ…… この話は当主とその娘たちは知っていると思うが……
後はそうだ。現村長も確か知っているかな。
よし分かった。いいだろうわざわざ聞きに来たのだから話してやるか。
いいか心して聞くのだぞ」
そう言うと深呼吸。
続いて茶を啜る。
さすがは爺さん。似合っている。
ようやく和菓子と共にお茶が出てきた。
これで客人として認められたのだろう。
「あれは当時…… 」
老人の思い出が詰まった長い長い昔話が始まった。
続く
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
SP警護と強気な華【完】
氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は
20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』
祖父の遺した遺書が波乱を呼び
美しい媛は欲に塗れた大人達から
大金を賭けて命を狙われる―――
彼女を護るは
たった1人のボディガード
金持ち強気な美人媛
冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki-
×××
性悪専属護衛SP
柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi-
過去と現在
複雑に絡み合う人間関係
金か仕事か
それとも愛か―――
***注意事項***
警察SPが民間人の護衛をする事は
基本的にはあり得ません。
ですがストーリー上、必要とする為
別物として捉えて頂ければ幸いです。
様々な意見はあるとは思いますが
今後の展開で明らかになりますので
お付き合いの程、宜しくお願い致します。
呪鬼 花月風水~月の陽~
暁の空
ミステリー
捜査一課の刑事、望月 千桜《もちづき ちはる》は雨の中、誰かを追いかけていた。誰かを追いかけているのかも思い出せない⋯。路地に追い詰めたそいつの頭には・・・角があった?!
捜査一課のチャラい刑事と、巫女の姿をした探偵の摩訶不思議なこの世界の「陰《やみ》」の物語。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
舞姫【後編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
彼らには思いもかけない縁(えにし)があった。
巨大財閥を起点とする親と子の遺恨が幾多の歯車となる。
誰が幸せを掴むのか。
•剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
•兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
•津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われ、ストリップダンサーとなる。
•桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
•津田(郡司)武
星児と保の故郷を残忍な形で消した男。星児と保は復讐の為に追う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる