『第一村人』殺人事件

二廻歩

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茶の一杯も出さないで

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元村長宅を訪れる。

外は静かだ。

皆駐在所に引っ張られていったか怖くて隠れているか。

昼間だと言うのに一っ子一人居ない。異常事態。

ヘリによる捜索も一段落ついたようだ。

静寂が辺りを支配してる。


元村長とその孫は儀式の間、山湖村の親戚の家に厄介になっている。

今は関所も閉ざされ動ける状態ではない。

このままでは儀式が完了してもよそ者は理由をつけ引き止められるに違いない。

まさか元村長の爺様が犯人? まさかね……


戸を叩くと反応があった。

「元村長さんに用が。そちらにいらっしゃるとお聞きしましたが」

急な訪問だと言うのにあっさり通される。

こちらを警戒する素振りもない。これは逆に危険?

このまま突き進んでいいのだろうか?

もし仮に消失と当主の死に関係があるとすれば……

そして連続殺人事件となったら確実に犯人がこの村の誰かとなる。

第一村人の狙いは一体?

軽はずみな行動を取り危険を招けば必ず先生に迷惑がかかる。

しかしこのまま放っておけば第四の事件…… 三女の消失が現実に。

それだけはどうしても阻止しなければならない。

もう今は時間が無い。賭けに出る。


和室に通される。

「どのようなご用件でしょうか? 」

対応したのは影の薄い孫。

元村長がいるものとばかり思っていたが二人っきり。

「お爺様にお話を聞きに来たのですが」

会うつもりが無いなら断ればいいのに。面倒くさいことをする。

「急いでるんですが」

「あなたが何者か見当がつかない状況で祖父に会わせる訳には行きません」

毅然としている。

彼が噂の操り人形。

確かに大人しい。従順で素直そうな孫。

だが冷たい瞳をしている。精気を感じられない。

見た目はこの村の男特有の色白で可愛らしい顔立ち。

一度お相手したいもの。


「玉子さんですか。祖父にどのような用件で? 」

来客だと言うのに茶の一つも出さない気の利かない若い男。

催促するわけにもいかず喉を鳴らすに留める。

「確かに祖父はこの村の村長でしたがもう今は関係ありません。

残念ですがお力になれるようなことは何も」

切り上げて帰らせる作戦らしい。

「ではあなたに一つ質問が…… 今回の一連の犯行はあなたではありませんよね」

とりあえず孫の方から揺さぶりをかける。

さすがに肯定しないだろうが仕草や表情に変化が現れないかじっくり見る。

「失礼な…… 当たり前ではありませんか。逆にどうすれば我々を疑えるのか。

私は長女の一葉さん失踪時この家におりました。祖父に聞けば証言してくれますよ」

平然と嘘を吐く。これは信用できない。

長女が失踪するまでの三日間この家に閉じこもっていたならアリバイ成立。

間違いなくシロだがそれはさすがにあり得ない。

「アリバイがあると? 三日間外出しなかったと言い張るんですね? 」

「ええ。我々は潔白です」

表情を窺うが変化は見られない。

「そうですか。一応信じましょう。もちろん家族は証人にはなりませんが。

ただそう主張するのなら仕方がありませんね」

 
随分余裕がある孫。この様子だと隣の部屋あたりで聞き耳を立てているな。

ならば本人にも聞こえるように意識的に大声で。

「探偵の助手をしております。本日は先生の代理で参りました。

もしアリサさんについて何か知っているのであれば…… 」

フォフォフォ……

障子が開く。

元村長らしき爺さん。

ついに黒幕の登場。


手には杖。足が悪いのか。ただの武器として携帯しているのか。

「遅れて済まない。あんたを見定めておったのじゃ。玉子さんや。

アリサさんについて知りたいか? 」

「お爺様? 」

元村長は孫の助けを受けどうにか着席する。

「待たせて済まん。アリサさんか? この昔話を知っているのはもう儂ぐらいかの。

まあ…… この話は当主とその娘たちは知っていると思うが……

後はそうだ。現村長も確か知っているかな。

よし分かった。いいだろうわざわざ聞きに来たのだから話してやるか。

いいか心して聞くのだぞ」

そう言うと深呼吸。

続いて茶を啜る。

さすがは爺さん。似合っている。

ようやく和菓子と共にお茶が出てきた。

これで客人として認められたのだろう。


「あれは当時…… 」

老人の思い出が詰まった長い長い昔話が始まった。

              続く
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