『第一村人』殺人事件

二廻歩

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立ち入り禁止 

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今現在、駐在所で大規模な一斉取り調べが行われている。

村の若者を中心に怪しい奴を片っ端から調べるも手掛かりは今のところなし。

「あれ繋がらねえな。まったくどうなってんだか」

無線の調子が悪いらしい。

「それで婆さんはあの館に何の用があるんだ? 」

「だから言っただろ。調べておきたいんだよ。もし手掛かりがあるとすれば長女の居た部屋だろう。何かからくりがあるのかなと」

「あっそ。怪しい物なんか何もなかったがな」

「それはお前たちの調べ方が足りないんだよ」

「何だと」

「はいはい。そこまで。先輩も落ち着いて」

もう一人は優秀だ。暴走の気配を察知してすぐに止めに入る。

「おい。あの婆さんを見張ってろ。目を離すなよな」

どうやら監視が付いたようだ。ならばそれを利用しない手はない。


先輩刑事が本部との連絡が取れずにイライラしている。今がチャンス。

すかさず情けなそうなもう一人を引っ張っていく。

「ちょっとお婆さん。困るよ。ここは立ち入り禁止。

『関係者以外の立ち入りを禁じる』って書いてあるんだから」

「いいから来るんだよ。十分もかからないさ。おいで坊や。ほら恥ずかしがらずに」

強引に突破。

東の館の長女が失踪したと思わる奥の部屋へ。

「ああもう。知らない」

刑事が折れる。

どうやら捜査に協力してくれるようだ。

ちょっと悪い気もするが……

勝手に入れたとあっては大目玉。かわいそうに。

果たしてそれだけで済むかも分からない。なおかわいそうに。


「よしここだね。案内ご苦労さま。後はその辺で遊んでな」

「勝手なことされちゃ困りますよ。本当にもう…… 」

「ほら案内ご苦労さま。その辺でアメでも舐めてな」

「もう。早くしてくださいね。僕の責任になるんだから」

余計なのが居ては気が散る。撒くわけにもいかない。

ここは有効活用するのがいいだろう。

「ホラ手伝いな」

中は特段変わったところはない。

儀式に使われたであろう皿やローソクにマッチ。

僅かばかりの暖房器具。

主が戻ってくるのを待ち続けているかのように脱ぎ捨てられた衣。

現場保存の為今のところ動かす予定はない。

ただ何か分かった時点で専門機関に鑑定に出す可能性もある。

まあ異物でもないただの儀式用の衣装……

異物と言えばここにデンと構えているサライちゃん人形。

「早くしてください。僕の立場が。あああ…… 」

頭を抱える刑事だか坊やだか。


「うるさいね。静かに。このサライちゃんは調べたの? 」

「ええっと…… 確か最近動かされた形跡がありました。しかし変なんですよ。

一人の力では到底動かせないんですよ。びくともしない」

サライちゃん人形を動かす振り。

「ほらやっぱりびくともしない」

「そうかいじゃあそっち持って」

嫌そうな顔。返事に困っている。

「これは貴重な…… 」

「分かってるって。私ら二人でもう一度動かそうってだけじゃないか。ほら早く」

「もう知りませんよ。また怒られるよ…… 」

二人で力を込めるが案の定びくともしない。

押しても無理なら引いてみる。

だが結果は変わらない。

二人の手でも動かせないことが判明した。

ただの人形?

サライちゃんは不気味に微笑む。

「もういいでしょう? 戻りますよ」

これ以上は無理だと駄々をこねる。

子供じゃないんだから情けない。


「おい。こら」

外から怒鳴り声がする。

二人を探しに来たのだろう。

「おい。どこへ行ってやがった? 持ち場を離れるんじゃない。あーあ。婆さん連れてきちまって。俺はもう知らねえ。減俸だな。いやクビか。俺に責任はないからな」

「そんな…… 」

案の定先輩刑事から大目玉を喰らう坊や。


「まあいいや。それであんたが探していた先生は今駐在所にいるとさ。

探偵ってのは本当らしいな」

「先生が? ああ無事で何よりよ」

「そんなに心配することはないさ。すぐに逮捕されて尋問の末刑務所に直行だ。

俺の見立てでは奴は完全なクロだな」

ただの観光客がこの事件の犯人などあり得ない。ましてや先生は探偵。

絶体に犯人は村の誰か。決まっている。ただ確証が持てない。

少なくても遺体が見つかるまで単なる失踪事件。

家出に毛が生えたような物。

「どうだかわいそうにな。笑えるだろ? 」

「そうですね。でも…… 」

こちらを見る坊や。睨んでないよ。ただ頭に来てるだけさ。

これ以上ここに居ても無意味。時間は有効活用しないとね。


礼を言って次の目的地へ。

元村長宅を訪ねることに。

               続く
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