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一族を恨む者
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長女失踪現場の目の前。
挨拶を済ますとさっそく長女の話になる。
「何か起きると思ってたがまさか忽然と姿を消すなんてどう考えてもあり得ないよ。
凡人の私らじゃ祟りと思うしかない」
サライさんを持ち出されたので適当に流す。今朝聞いた話を繰り返されても困る。
「それにしてもうるさかったね。今この村では代替わりの儀式が行われてるのよ。
何十年ぶりだから村長以下気合いが入って。まあ他所の人には関係ない話だけどね。
この儀式が終わるまでの辛抱さ。あんた観光で来たの? それとも儀式の方? 」
どう説明すればいいか。観光のはずがない。だが儀式に興味がある訳でもない。
ただ第一村人の指定に従った結果。
変に怪しまれては動きにくなる。慎重に慎重に。隣村の女性の忠告を守る。
「実は温泉でのんびりしてると隣村の方が面白い儀式があると言うもので連れと」
第一村人の予告が無ければこんな村当然来てない。でも先生の勧めで来たのも事実。
隣村だって儀式の話題で持ちきりなのだからあながち嘘でもない。
「それで足を運んだ? ははは…… えらい時に来ちまったね」
この村には旅館など存在しない。だから結局村人の善意に甘える形になってしまう。
先生たちは今どうしてるのか。運よく本部でお世話になってるらしいが。
トラブルに巻き込まれてなければいいけど。心配だ。
「連れの二人を見かけませんでしたか? 」
先生の写真を見せる。
「ああそれなら何やら門番と揉めていたねえ。あんたの連れだったのかい」
先生の痕跡を辿る。
山湖村に来てからの探偵ぶりを第三者の目を通して客観的に評価する。
「あの子たちがご迷惑をかけてなかったかそれだけが心配で心配で」
「ああうるさかったよ。迷惑だったしね。でも別に何の被害もなかったから。
向かいの太郎さん次郎さんとこにちょっかい出してたから叱ってやったんだ。
ただの早とちりだったらしい。悪い事したよ」
食事を済まし寝る支度をする。
「一つ質問してもいいですか? 」
「ああ好きなだけ。知ってる事は教えてやるよ。
ちょうど話し相手が欲しかったところだ」
寝る前の世間話。話好きなので助かる。
太郎と次郎について。
「あの二人はそれは優しくてね。ちょっと優しすぎるぐらい。
悪い噂もなく村の集まりにもちゃんと出て、兄は力持ちだし弟は頭が回る。
言動で勘違いされやすいけどいい子たちだよ。
見た目もこの村伝統のベビーフェイスでね。その辺の女たちが黙っちゃいないよ。
私がもう少し若かったら放っておかないんだけどね。
ああ今のはもちろん冗談だからね。本気にしないで」
「女性関係は激しい? 」
「そんなことないけどね。気が弱いから自分から断っちまうんだ。
ただあの屋敷の三女との縁談もあったって話さ。いや隠れて付き合ってたのかな?
それが何と…… 」
そう言うと電気を消し横になる。
「もったいぶらずに早く」
「急かさない。急かさない。話は複雑になっていくよ。
長女が自分の物にしようとしたんだ。兄さんの方ね」
「その言い方では弟さんも? 」
「ああ、これは聞いた話だから私の考えではないよ。
いいか。長女が兄に手をつけると私もと二女がちょっかいを出そうとした。
でも長女には逆らえない。仕方ないと弟の方と仲良くなっちまう。
だがそんな関係も三女には受け入れがたい現実。
三女は家を出る決心をする。どこぞの男と駆け落ちをする。
誰だったかまでは分かんないが決心は堅かったようだ。
しかしその企ても失敗に終わり父の岩男氏によって連れ戻されてしまう。
そのうち長女は例のごとく太郎さんへの興味を失う。
そうすると二女も同じように弟の次郎を切り捨てる。
興味が亡くなったらポイっと捨てるってわけさ。
長女はまだ我がままだからと理解もできる。
しかし二女はただ対抗する為だけに奪い、切り捨てる悪魔の所業さ。
まあどっちもどっちだけどね」
悲惨な太郎と次郎。
「それで誰と駆け落ちしたか分かります? 」
「さあねえ。まあこの村の若い男。しかも長女の使い捨ての一人って話だよ」
「そうですか。では三女はそれ以降特に変わった様子は見られませんでしたか? 」
悲惨な三女の三貴。同情を禁じ得ない。
「ああ噂は無いね。目立って動くとすべてバレ長女たちに持って行かれる。
だからもう誰とも関係を持たないんじゃないかね。本当にかわいそうな子だよ。
村では三女には同情的で人気も高い。
三女はその件で二人を恨んでいるのは間違いないよ。心の中は案外真っ黒かもね。
ああ怖い怖い。誰も信用できないよ」
長女を恨む者。それはおそらく妹たち。或いは太郎次郎。
ただこれもやはり噂の域を出ない。
真実に迫るにはまだまだ足りない。
続く
挨拶を済ますとさっそく長女の話になる。
「何か起きると思ってたがまさか忽然と姿を消すなんてどう考えてもあり得ないよ。
凡人の私らじゃ祟りと思うしかない」
サライさんを持ち出されたので適当に流す。今朝聞いた話を繰り返されても困る。
「それにしてもうるさかったね。今この村では代替わりの儀式が行われてるのよ。
何十年ぶりだから村長以下気合いが入って。まあ他所の人には関係ない話だけどね。
この儀式が終わるまでの辛抱さ。あんた観光で来たの? それとも儀式の方? 」
どう説明すればいいか。観光のはずがない。だが儀式に興味がある訳でもない。
ただ第一村人の指定に従った結果。
変に怪しまれては動きにくなる。慎重に慎重に。隣村の女性の忠告を守る。
「実は温泉でのんびりしてると隣村の方が面白い儀式があると言うもので連れと」
第一村人の予告が無ければこんな村当然来てない。でも先生の勧めで来たのも事実。
隣村だって儀式の話題で持ちきりなのだからあながち嘘でもない。
「それで足を運んだ? ははは…… えらい時に来ちまったね」
この村には旅館など存在しない。だから結局村人の善意に甘える形になってしまう。
先生たちは今どうしてるのか。運よく本部でお世話になってるらしいが。
トラブルに巻き込まれてなければいいけど。心配だ。
「連れの二人を見かけませんでしたか? 」
先生の写真を見せる。
「ああそれなら何やら門番と揉めていたねえ。あんたの連れだったのかい」
先生の痕跡を辿る。
山湖村に来てからの探偵ぶりを第三者の目を通して客観的に評価する。
「あの子たちがご迷惑をかけてなかったかそれだけが心配で心配で」
「ああうるさかったよ。迷惑だったしね。でも別に何の被害もなかったから。
向かいの太郎さん次郎さんとこにちょっかい出してたから叱ってやったんだ。
ただの早とちりだったらしい。悪い事したよ」
食事を済まし寝る支度をする。
「一つ質問してもいいですか? 」
「ああ好きなだけ。知ってる事は教えてやるよ。
ちょうど話し相手が欲しかったところだ」
寝る前の世間話。話好きなので助かる。
太郎と次郎について。
「あの二人はそれは優しくてね。ちょっと優しすぎるぐらい。
悪い噂もなく村の集まりにもちゃんと出て、兄は力持ちだし弟は頭が回る。
言動で勘違いされやすいけどいい子たちだよ。
見た目もこの村伝統のベビーフェイスでね。その辺の女たちが黙っちゃいないよ。
私がもう少し若かったら放っておかないんだけどね。
ああ今のはもちろん冗談だからね。本気にしないで」
「女性関係は激しい? 」
「そんなことないけどね。気が弱いから自分から断っちまうんだ。
ただあの屋敷の三女との縁談もあったって話さ。いや隠れて付き合ってたのかな?
それが何と…… 」
そう言うと電気を消し横になる。
「もったいぶらずに早く」
「急かさない。急かさない。話は複雑になっていくよ。
長女が自分の物にしようとしたんだ。兄さんの方ね」
「その言い方では弟さんも? 」
「ああ、これは聞いた話だから私の考えではないよ。
いいか。長女が兄に手をつけると私もと二女がちょっかいを出そうとした。
でも長女には逆らえない。仕方ないと弟の方と仲良くなっちまう。
だがそんな関係も三女には受け入れがたい現実。
三女は家を出る決心をする。どこぞの男と駆け落ちをする。
誰だったかまでは分かんないが決心は堅かったようだ。
しかしその企ても失敗に終わり父の岩男氏によって連れ戻されてしまう。
そのうち長女は例のごとく太郎さんへの興味を失う。
そうすると二女も同じように弟の次郎を切り捨てる。
興味が亡くなったらポイっと捨てるってわけさ。
長女はまだ我がままだからと理解もできる。
しかし二女はただ対抗する為だけに奪い、切り捨てる悪魔の所業さ。
まあどっちもどっちだけどね」
悲惨な太郎と次郎。
「それで誰と駆け落ちしたか分かります? 」
「さあねえ。まあこの村の若い男。しかも長女の使い捨ての一人って話だよ」
「そうですか。では三女はそれ以降特に変わった様子は見られませんでしたか? 」
悲惨な三女の三貴。同情を禁じ得ない。
「ああ噂は無いね。目立って動くとすべてバレ長女たちに持って行かれる。
だからもう誰とも関係を持たないんじゃないかね。本当にかわいそうな子だよ。
村では三女には同情的で人気も高い。
三女はその件で二人を恨んでいるのは間違いないよ。心の中は案外真っ黒かもね。
ああ怖い怖い。誰も信用できないよ」
長女を恨む者。それはおそらく妹たち。或いは太郎次郎。
ただこれもやはり噂の域を出ない。
真実に迫るにはまだまだ足りない。
続く
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