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血に染まる宴
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山湖村。
とにかく先生を見つけなくては。
儀式が行われている中央の館ヘ向かう。
歩き始めてすぐに女性の悲鳴が。
オウ、イッツクレイジー
どうやら外人さんだ。
これはただ事ではない。とにかく現場へ。
「どうしました? 」
角を曲がると虚ろな目をした村人たちの姿。
山湖村で遭遇した初めての村人。
これが俗に言う第一村人。
大半が女性や老人でこちらに気付くと何事もなかったかのように挨拶をする。
殺気を隠しきれず手には武器、悪臭漂う何か得体の知れない物に卵の殻まで。
笑ってごまかす力技。
こうされてはこちらも笑って返すしかない。
村に来たばかり。穏便に穏便に。
少しでも指摘しようものなら襲いかかるに違いない。
とにかく苦笑いで対応し悲鳴のあった方へ急ぐ。
先生……
後姿を捉えたと思ったらすぐに姿を消す。角を曲がったようだ。
しまった見失った。不慣れなばっかりに。急がなくては。
再び捉える。助手と女性の三人で歩く姿。
「先生! 」
こちらに気付いた様子もなく三人仲良く建物の中へ入っていった。
「お邪魔します」
散々迷った挙句勝手に中へ。
まあ大丈夫でしょう。見つかったら見つかったで。
とにかく先生を探さなくちゃ。
あの様子ならたぶんお風呂。
「先生…… 」
言い争う声と共に男の人が飛び出てきた。降る珍?
あれ助手君? では先生も……
マナー違反にならないように三分待つ。この間に出来上がるでしょう。
新しい扉をノックすることもなく開かれる。
「先生。ご無事でしたか」
「あれ大家さん。なぜあなたがこんなところへ? 」
照れなのか天然なのか自分で呼んでおいて不思議そうにこちらを見る。
これではまるでストーカー。おかしな話もあるもんだ。
「二人が心配で心配でついつい。ご無事で何よりです」
「はあ…… ちょうど良かった。ルーシーさんのお世話お願いできませんか? 」
ルーシー? あの外人さん?
会って早々に頼み事。さすがは先生。抜け目がない。
先生の頼みとあっては仕方ない。ここは一肌脱ぎましょう。
オーグランマ
間奏。
三月某日。
少し早いが儀式の成功を祝う前夜祭が催されていた。
村長、関係者を集め岩男氏の音頭で粛々と進む。
「よいか。今度の儀式何としても成功させ一族の今後の発展を確実な物にせねば。
この儀式により長女の一葉が家督を受け継ぐのじゃ。いいな皆の者? では頼むぞ」
当主の岩男氏の話が終わると村長が後を引き取る。
「それでは宴をお楽しみください」
土地の魚にブランド鶏。山菜等の野菜がお皿に。
岩男氏が神酒を客人に振る舞う。
「お父様」
「一葉どうした? 」
「本当に籠らなくてはいけませんか? 」
「何を言うか。しっかりやらんか」
「でも私…… 怖い」
「我がままは許さん。儀式だ。ちゃんとやりなさい。お前たちもだぞ」
二姫と三貴の方を睨む。
「私はもう嫌」
二姫がぎりぎりで保たれていた雰囲気をぶち壊す。
「どうした二姫。皆さんの前でみっともない。この馬鹿者が」
「私はもういい。そうでしょう? 当主になって家督を継ぐのは姉さん。
分かり切ってるじゃない。こんな儀式に何の意味があるって言うの? 」
長女の一葉以外儀式を行う意義が薄れてしまっている。
もちろんその長女を盛り立てるのが妹たちの役目。
そのことを踏まえている三貴は淡々としている。
「まあまあ。お嬢さま我慢なさいませ。これも一族の為。
儀式に参加しないとあっては一族の恥となります。どうか真剣にお考え下さい」
見かねた世話係の者が口を挟む。
「まったく分かったわよ。冗談よ冗談。それにしても三日三晩何も口にしてはいけないなんて滅茶苦茶じゃない。酷すぎる。そうでしょうお姉さま」
二姫の不満が爆発する。
「姉さんだって嫌がっていたくせに」
「何を言ってるの? 私は次期当主としてしっかり役目を果たすつもり。
いい二人とも? 一族の名に恥じないように一生懸命に取り組みなさい」
「姉さんの嘘つき」
「こら二姫。何を言ってるの」
長女がいくら言おうと従いはしない。
笑いながら二姫の耳元で囁く。
「ふふふ…… 私にはとっておきの秘策があるの。だから苦しい思いも退屈だってしない。頭は使いようよ」
勝ち誇る絶対権力者の座を継ぐ者。
「姉さん。ずるい」
「いいから私に従うの。いいわね」
有無を言わせない長女と納得が行かずむくれる二女。
睨み合う。
姉妹。特にこの二人は日頃から仲も悪く対立する場面も見られた。
今回溜まりに溜まった不満が爆発してしまう。
大人げない二女と勝ち誇って余裕の表情の長女。
その対立を三女が冷たい視線を送る。
「ほほほ…… 下品ですわよお姉さまたち。お止めになって下さいな」
「ちょっとあんた上品ぶっちゃってこれだから…… 」
二女の怒りが収まりそうにない。
「いい加減止めんか馬鹿者。客人の前でみっともない」
我慢の限界とばかりに岩男氏が叱り飛ばす。
余裕の長女。
今にも爆発しそうな二女。
知らない素振りで様子を窺う三女。
女たちの醜い争いが勃発する。
金切声を上げ部屋を去る二姫。
すぐに刀を手に戻ってくる。
もはや冷静さなど皆無。頭に血が上った状態。
ちょっとでも刺激すれば爆発して大惨事になるのは目に見えている。
「何をやってるの。止めなさい」
長女が必死に止めようと叫ぶが逆効果。
「馬鹿者。何をしておる」
ぎゃああ
きゃああ
宴が血に染まる。
続く
とにかく先生を見つけなくては。
儀式が行われている中央の館ヘ向かう。
歩き始めてすぐに女性の悲鳴が。
オウ、イッツクレイジー
どうやら外人さんだ。
これはただ事ではない。とにかく現場へ。
「どうしました? 」
角を曲がると虚ろな目をした村人たちの姿。
山湖村で遭遇した初めての村人。
これが俗に言う第一村人。
大半が女性や老人でこちらに気付くと何事もなかったかのように挨拶をする。
殺気を隠しきれず手には武器、悪臭漂う何か得体の知れない物に卵の殻まで。
笑ってごまかす力技。
こうされてはこちらも笑って返すしかない。
村に来たばかり。穏便に穏便に。
少しでも指摘しようものなら襲いかかるに違いない。
とにかく苦笑いで対応し悲鳴のあった方へ急ぐ。
先生……
後姿を捉えたと思ったらすぐに姿を消す。角を曲がったようだ。
しまった見失った。不慣れなばっかりに。急がなくては。
再び捉える。助手と女性の三人で歩く姿。
「先生! 」
こちらに気付いた様子もなく三人仲良く建物の中へ入っていった。
「お邪魔します」
散々迷った挙句勝手に中へ。
まあ大丈夫でしょう。見つかったら見つかったで。
とにかく先生を探さなくちゃ。
あの様子ならたぶんお風呂。
「先生…… 」
言い争う声と共に男の人が飛び出てきた。降る珍?
あれ助手君? では先生も……
マナー違反にならないように三分待つ。この間に出来上がるでしょう。
新しい扉をノックすることもなく開かれる。
「先生。ご無事でしたか」
「あれ大家さん。なぜあなたがこんなところへ? 」
照れなのか天然なのか自分で呼んでおいて不思議そうにこちらを見る。
これではまるでストーカー。おかしな話もあるもんだ。
「二人が心配で心配でついつい。ご無事で何よりです」
「はあ…… ちょうど良かった。ルーシーさんのお世話お願いできませんか? 」
ルーシー? あの外人さん?
会って早々に頼み事。さすがは先生。抜け目がない。
先生の頼みとあっては仕方ない。ここは一肌脱ぎましょう。
オーグランマ
間奏。
三月某日。
少し早いが儀式の成功を祝う前夜祭が催されていた。
村長、関係者を集め岩男氏の音頭で粛々と進む。
「よいか。今度の儀式何としても成功させ一族の今後の発展を確実な物にせねば。
この儀式により長女の一葉が家督を受け継ぐのじゃ。いいな皆の者? では頼むぞ」
当主の岩男氏の話が終わると村長が後を引き取る。
「それでは宴をお楽しみください」
土地の魚にブランド鶏。山菜等の野菜がお皿に。
岩男氏が神酒を客人に振る舞う。
「お父様」
「一葉どうした? 」
「本当に籠らなくてはいけませんか? 」
「何を言うか。しっかりやらんか」
「でも私…… 怖い」
「我がままは許さん。儀式だ。ちゃんとやりなさい。お前たちもだぞ」
二姫と三貴の方を睨む。
「私はもう嫌」
二姫がぎりぎりで保たれていた雰囲気をぶち壊す。
「どうした二姫。皆さんの前でみっともない。この馬鹿者が」
「私はもういい。そうでしょう? 当主になって家督を継ぐのは姉さん。
分かり切ってるじゃない。こんな儀式に何の意味があるって言うの? 」
長女の一葉以外儀式を行う意義が薄れてしまっている。
もちろんその長女を盛り立てるのが妹たちの役目。
そのことを踏まえている三貴は淡々としている。
「まあまあ。お嬢さま我慢なさいませ。これも一族の為。
儀式に参加しないとあっては一族の恥となります。どうか真剣にお考え下さい」
見かねた世話係の者が口を挟む。
「まったく分かったわよ。冗談よ冗談。それにしても三日三晩何も口にしてはいけないなんて滅茶苦茶じゃない。酷すぎる。そうでしょうお姉さま」
二姫の不満が爆発する。
「姉さんだって嫌がっていたくせに」
「何を言ってるの? 私は次期当主としてしっかり役目を果たすつもり。
いい二人とも? 一族の名に恥じないように一生懸命に取り組みなさい」
「姉さんの嘘つき」
「こら二姫。何を言ってるの」
長女がいくら言おうと従いはしない。
笑いながら二姫の耳元で囁く。
「ふふふ…… 私にはとっておきの秘策があるの。だから苦しい思いも退屈だってしない。頭は使いようよ」
勝ち誇る絶対権力者の座を継ぐ者。
「姉さん。ずるい」
「いいから私に従うの。いいわね」
有無を言わせない長女と納得が行かずむくれる二女。
睨み合う。
姉妹。特にこの二人は日頃から仲も悪く対立する場面も見られた。
今回溜まりに溜まった不満が爆発してしまう。
大人げない二女と勝ち誇って余裕の表情の長女。
その対立を三女が冷たい視線を送る。
「ほほほ…… 下品ですわよお姉さまたち。お止めになって下さいな」
「ちょっとあんた上品ぶっちゃってこれだから…… 」
二女の怒りが収まりそうにない。
「いい加減止めんか馬鹿者。客人の前でみっともない」
我慢の限界とばかりに岩男氏が叱り飛ばす。
余裕の長女。
今にも爆発しそうな二女。
知らない素振りで様子を窺う三女。
女たちの醜い争いが勃発する。
金切声を上げ部屋を去る二姫。
すぐに刀を手に戻ってくる。
もはや冷静さなど皆無。頭に血が上った状態。
ちょっとでも刺激すれば爆発して大惨事になるのは目に見えている。
「何をやってるの。止めなさい」
長女が必死に止めようと叫ぶが逆効果。
「馬鹿者。何をしておる」
ぎゃああ
きゃああ
宴が血に染まる。
続く
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